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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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雨が降る。じっとりと余分な湿気を含んだ風がまとわりつく感覚は不快すぎて眩暈さえ起こしそうだ。
汗と雨で僅かに湿ったシャツが貼り付く感覚も頂けない。握りしめた拳に汗が滲んで、また気持ち悪かった。
隣を黙って付いて歩いてきていたユーリが先日買ったばかりのシンプルな革製の結い紐で緩く髪を纏め、僅かに水気を含んだ毛先を恨めしそうに見る。
彼にとって水気は余り良いものではない。
「ユーリ、大丈夫かい?」
答えを分かっていて聞けば、声は返らず僅かに首を傾げるだけ。
そういえばこれから向かう先を考えてマナーモードに切り替えて貰った、と思い当たってフレンは苦笑する。
自分が先程したことが頭から抜けてしまうほど余裕がない状況は何だかとても悔しくもあり、しかし認めるしかない現状だった。
住宅街の真昼間、余り人気がないのは雨模様という今日の天気のせいだろう。
自然と重くなる足取りに合わせるように雨足もまた強くなる。傘をユーリに傾けてフレンは傘を傾けたのと逆の肩が強か濡れるのに顔色一つ変えない。
何気ないフレンの様子にもユーリは気付いたらしい。無言で傘越しにフレンを見る。少しだけ眉根を寄せて、しかし何も言葉を発せずに首を振った。
「なんてことないよ」
言葉はなくても何が言いたいのかは分かる。元々機械なのだから水気には弱いのは分かっている。ケアするのは持ち主として当たり前の行動だ。
けれどユーリは傾けられた傘を押し返した。反動で傘を滑った水滴が漆黒の髪に降り落ちていく。
「ユーリ」
「……、」
だいじょうぶなんだ。
そう音のない声が言い、笑った。ゆっくりと歩いていたはずが、いつの間にか見慣れた建物に行き着いていた事に気付いてフレンは視線を動かす。
閑静な住宅街の中でも目を引く立派な門構えの家に、余り良い思い出はない。
大学進学を機に一人暮らしを許されてからは寄りつかなくなったフレンの生家だった。
母親は身体が弱く、フレンが中学の頃に亡くなったが、いとこ同士であったという父親は今も健在である。
夫婦仲は良かったらしいが、フレンにとって複雑な家庭事情には変わりなかった。
端的に言えばフレンは両親の血を全く継いでいない、他人だ。
母親が若い頃に惚れ、家出をし同棲していた男の連れ子だったらしい。男が亡くなり、家に戻った際に不憫で彼女が連れて帰った。
そして父親は母親の真摯な願いを聞き入れ、フレンを養子として迎え入れた経緯を考えても、父親とフレンとの間に埋められない溝があるのは明確である。
母親がいる内はまだ良かったんだけど、と昨晩漏らした弱音をユーリは聞き逃さなかった。
特段何か嫌がらせがあったわけでもない、という。ただ窒息しそうで、いつか自己を殺す恐怖と毎日向き合っていたと告げるフレンの表情は全くなかった。
今もまた無表情で門を見詰めるフレンはきつく拳を握っただけで動かない。
音を出すことを許されていないのはこういう時不便だなと良く出来た擬似人格プログラムが弾き出したところで、ユーリはフレンのきつく握られた拳に触れた。
「……どうした、」
でんわ、と一文字ずつ区切って伝える。声は出ない。フレンは誰からとは聞かなかった。
僅かに門に寄り傘を傾ける。雨を凌ぐ為なのだとユーリが思ったのと同じタイミングで「おいで」と手が伸ばされた。
傘で遮られた僅かな空間に身を滑らせるようにユーリはフレンに身を寄せる。
門に背を預け、人気のない往来から人目を避けるように傘を差したフレンは心得たように大人しい携帯に口を寄せる。
「もしもし?」
誰の、と聞かなかったのは余りにもタイミングが良かったせいだ。
予想していた通りの声が聞こえてフレンは自嘲を浮かべ、一言二言必要最低限の言葉を交わした。沈黙は三回、それで切れた通話にユーリが首を傾げる。
疑問と言うよりは「大丈夫か?」と問う仕種に、傘の合間を降り落ちた雨に濡れた漆黒の髪の、それをまとめ上げていた結い紐が解け掛かっていることに気付いて手を伸ばした。
濡れてしまった革は結び直し難いことこの上なかったが、何とか結び終え、フレンは笑う。
門から身を離し傘を持つ手ではなく空いた手で自身の携帯の手首を掴み歩き出した。来た道を、戻っていく。
「あ、そうだ、ユーリ。もういいよ」
傘をユーリに差し出しながら言われた言葉に首を傾げれば、
「マナー、解除して。君が話さないと新鮮だけど、割と不便だ」
寄越された言葉にユーリは眉を顰めた。一体どういう意味だ、とは聞かず差し出された傘を受け取って歩き出す。
「フレン」
呼んだ声に頷いたフレンが手首を掴んでいた手を離した。そして何を思ったか手を握り直して、しれっと言う。
「帰ろうか」
「……ん、」
まぁ、いいかと繋がれた手を見下ろた後、ユーリは傘の合間から空を見上げた。漸く雨は上がりそうだった。


>>前に書いた携帯擬人化フレユリと同じ設定で。
   なんというか、ユーリが健気に見える不思議。
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