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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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これは何だ。
暗闇に沈んでも判別出来るほど、いや視界が闇に制限されたからこそ敏感に感じ取れる、咽るような濃厚な血の臭いに目眩を覚える。
生臭く吹きぬける風が生温く頬を撫でた。
路地の向こう佇んでいる人影には見覚えがある。見覚えがある、ではない。良く知っている。
一つ道を隔てても尚、濃厚な血の臭いは薄まらない。
僅かに雲間から覗いた月光が石畳を照らし、流れたというよりは溜まった血を照らした。ゆるりと石畳の上を這う血を、ユーリは視線だけで追う。
不思議と体が冷えて指先の感覚が無い。
呼吸は乱れてこそいないが、仕方を忘れたように肺が軋んだ。
心臓が打つ音も早い。
気付かれるのはまずい、そう思うのに足が地面に縫い付けられたように動かなかった。
気配に、視線に気付いて振り向かれたらお終いだ。
だから何も知らなかった事にして、何も見なかった事にして、出来れば忘れてしまうのが一番だと分かっている。
けれど、
「……なに、を」
意に反して震える声が喉を突いて出た。自分でも情けなくなるほど掠れた声音。
僅かに揺れた頭、肩越しに振り返る人影の表情はよく見えない。
「……ああ、ユーリか。見られちゃったね」
けれど、月影に陽光を溶かしたような淡い髪色は目立ちすぎた。上手く声が出ない、とユーリは妙に渇いた喉を鳴らす。
穏やかな声音は数刻前分かれたときと何も変わらない。完全に振り返って向けた表情も決して見覚えが無いものではなかった。
だからこそ、ユーリは得体の知れない恐怖を覚える。
「フレン、お前……何を、やって」
声が閊えて先が続かない。寧ろ投げかけた問いに、まさかと抱いた予感に肯定を返されるのが怖い。
「何を?」
ふと、不思議そうにフレンが首を傾げる。
まだ袖を通したばかりだろう、新しい隊服と真白の鎧は見慣れないが仕種は良く知るもので。
利き腕が握る剣の、向きだしの刀身から滴るものが何か知れてユーリは眉を顰めるしかない。
「……ねぇ、ユーリ」
一歩。足を踏み出したフレンの姿が漸く完全に雲から顔を出した月の光に照らされる。
「君こそ、こんな時間に出歩くなんてどうしたんだい?」
白と青を基調とした真新しい鎧が、残滓を拾う。赤い、と気付いた瞬間ユーリは言葉を失った。
今は月影を淡く宿す金髪も、新しくまだ見慣れない鎧も、赤く色付いていた。酸化して少しずつ鮮やかさを失い黒味を帯びる、それが何であるかユーリは知っている。
「フレン」
名前を呼ばれたことにフレンが笑む。
「君も、こうする気だったんだろう? だったらそんな顔をする必要ないじゃないか」
おかしいね、と付け足したフレンの笑顔に何も見出せない。
こうする気だったといわれた言葉でユーリはフレンの向こう、無残に石畳に崩れ落ちる影に目を留める。
見たことのある上等な布が使われた服。何かを訴えたかったのか伸ばされた腕は抵抗の際に切り落とされたのか、先が無かった。
「……、」
「ねぇ、ユーリ」
呼ばれた名前に反射的に肩を震わせたユーリに、フレンが笑いながら首を傾げた。
「君も、同じだよ?」

――僕と君は同じだね。

嘗て、何かの際に意図の読めぬタイミングで言われたことを思い出して、ユーリはまさかと顔を上げた。
ゆるゆると向けた視線の先で変わらず、穏やかとも言える笑みを浮かべた友人が手を伸ばす。
動けないユーリにくすりと笑みを零すと近づき返り血に塗れた手で、風に乱れ頬に張り付いたユーリの髪を優しく払った。
「忘れたの? ユーリ。君も僕も、既に汚れてしまっている」
だから、ね。
と耳元に落とされた言葉にユーリは絶望さえ覚えた。
フレンはこんなことを言う人間だったろうかと自分の中で答えを探るのに見つからない。
「どうしたの?」
「………、何でも……ない」
踵を返し、先程躊躇いもなく切り捨てただろう人間を見下ろしながら、表情を変えない友人は「そうだよね」と優しく言う。
既に事切れた執政官の最期に、ユーリは何も言えなかった。


>>ヤンデレフレンの考察。
   ラゴウをやったのはフレンだったらどうなるのかなっていう。
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そんなところです。

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