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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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腕を引っ張られるがままにして路地を暫く歩いていた光秀は、不意に立ち止まった。
かくんと抵抗を受けたからか少し重心をずらし前を行く信幸が訝しげに振り向く。
肩を揺らすように少し笑いながら、視線を合わせてきた光秀の瞳には非道く不可解な暗い光りが宿る。

「……光秀?」
「今更、どうしてですか?」

ぽつりと呟かれた声はしかし鮮明すぎる。歩みを止めて向き直った信幸が困ったように首を傾げるのを黙って見守った光秀は、更に言葉を重ねようと口を開いた。
一見、酔っているとは見えない男は、けれども平素の彼を知っている人間から見れば相当酔いが回っていると知れる。一瞬ふらりと不安定に揺れた足下に気を取られた信幸の手を、腕を掴まれていた手を逆に捕まえて、光秀はきつく握った。
強さに思わず眉を寄せた信幸に光秀は笑う。
暗い印象の笑みは、人によっては恐怖感さえ抱かせるに値するものだ。

「貴方は私とはもう会わないといったはずだ」
「会えないと言ったまで」
「同じことでしょう」
「…少し意味合いが違うけど…。光秀がそう思うというのならば仕方ない」

淡々と逸らすことなく言葉を言った信幸に光秀が今度は首を傾げる。
もう随分と前。自分も目の前の彼もまだ少年と呼ぶに相応しい様相であり年齢だった頃の、邂逅は一方的な別れで閉じられた。
始めて触れた生の音。生きて返すその音。奇跡を紡ぐ歌声。
歌を紡ぐ奇跡の存在よりもなお希少な光秀の存在は、しかし世界で唯一単身音を紡ぐカナリアたちには疎まれるものでしかない。
知っていても、音を操れる能力故に惹かれるのは自然なこと。
だからこそ偶然であったとしても、その邂逅は光秀にとって特別なものであった。

「………信幸、貴方は」
「あの時のようではないよ。光秀。でなければ、名前だって存在だって忘れているはず。何年前のことだと思っている? 忘れるのは十分すぎる時間は過ぎた」
「私は」
「調律師と関わるのは、特にまだ自らの音を操ることがしっかりと出来ない子供にとっては禁忌とされているのがカナリアの教えでもある。あの時は、自分も…それに含まれていた」
「……」
「だからといって許して欲しいという気はない。けれど、決して嫌だったわけではない」

それだけは、とだけ言って笑う信幸に光秀は捕まえていた腕を放す。
解放された腕をちらりとだけ見遣って信幸は、一歩後ろに下がった。
距離を置いた上でじっと見据えた光秀の瞳には、言いようがない感情があるように思えて信幸はふと笑うしかない。
ただただ生まれながらに孤独なのだ。絶対的に孤高の力を持つ故に。
自らが内包する孤高の力は、決して一人では行使し得ない力であるのさえ孤独に拍車を掛ける。
だからこそ自然ともう一歩と距離を置いた信幸の唇から旋律が滑り落ちた。
低音の、けれど暖かみを帯びた色を含む音。その声。
するりと音が空気に溶ける寸前、残滓を留め置くように光秀の指先が触れる。
途端色を変えた音を信幸は目を細めて見守った。
初めてではないけれど相変わらず不思議な感覚だと思う信幸にとってもまた、調律師である光秀のその力、彼の言葉、彼との邂逅は特別なものであった。
だからこそ申し訳ないと思っていたし、出来るならばもう一度会えないかと聖地の外で暮らすことを選択した。
言葉にすれば全て言い訳に過ぎず、それが出来るほど信幸は強かでもない。
すっと宙の一点で止めるように指を置いた光秀が、「もういいですよ」と柔らかに言う。
漸くと音の止んだ空間で笑ったのはどちらが先かは知れなかったが。


「…此処にいますか?」
「気が変わらぬ限りは」
「また、会いに来ても?」
「……勿論」

言葉よりも雄弁に音は伝えたようだ。
内包したその全てを。




>>情けないことに、途中で何を書きたかったのか見失った感がひしひし。
   光秀と信幸は低温で低糖で仲良しだと良いな。

   という結論です ←頭悪い

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今日は厄日かもしれないと流れる緩やかな沈黙と共に佐助は思った。
今日は人の出も少ないから早めに店を切り上げてしまって、ゆっくりしようと思っていたのに。
がらんとした店内は切り上げるに十分な様相を呈していたが、カウンターの端に腰掛けた一人の男の存在で叶わない。
月の光を思わせる冴える銀色の髪を肩よりも伸ばした細身の男は、もう何杯目になるか分からないウィスキーのグラスを空けた。

「バーテンさん、もう一杯下さい」

しっかりとした口調は酔っていなく感じるが実際はそうではないだろう。焦点の呆けた眼差しで店内をゆったりと見渡して男が小さく笑う。
さてどうしたものかと佐助が肩を竦めたとき、裏口が控えめに開いた。小さく防犯に付けてある鈴が鳴る。目敏く佐助が視線をやると見慣れた顔があった。
客が居ると雰囲気で悟ったのか口だけを動かして「まだ客はいるのか?」と聞いた幸村に手振りだけで「まぁね」と答えた佐助が客に気付かれぬよう器用に溜息を吐く。
からりとグラスの中の氷が崩れる音と、合わせてグラスを持ち上げた男。
開店して一時間もしない内からその場所に座り酒を呷り続ける男は今まで店には来たことがない。旅人なのかもしれないと思ったが、それにしてはヤケ酒にも程があると思った。
そっと裏口から足音を立てずに移動してきた幸村が物陰から男を覗いて、同じように思ったのだろう眉根を珍しく潜めている。

「そろそろ止めておいた方が良いんじゃない?」

やんわりと飲み過ぎだと遠回しに諫めて佐助が男の手からグラスを受け取る。
そうはいっても客が猶も強請れば出さざるを得ないのが実情だが。

「おや…私、酔っているように見えますか」
「あんだけの量を飲んでるにしちゃあ、そうは見えないけどね。飲んだ量を考えればそろそろストップでしょ」
「……困りましたねぇ」
「そうは言われてもね。何があったのかは知らないけどこれ以上のヤケ酒はお勧めしないよ」
「バーテンさんは優しいですねぇ」

冗談とも本気とも取れぬ口調で笑った男は、けれどふと寂しそうな視線を店内に彷徨わせ今度は小さく自嘲する。相当参っているのかも知れないと感じるも、佐助は何かを聞き出す気はなかった。
沈黙が上辺を流れすぎていく頃に、小さく本当に小さく男が言葉を口にした。

「妹のような子がいたんですけどね、その子がね、私の手元を離れてしまったんですよ」
「はぁ…」
「恋愛感情なんて物は存在してなかったんですが。甘えるようなことも余りしない子でしたけど、でもやっぱり寂しいですねぇ」

溜息を深々と吐いて男が力なく頭を振る。佐助はどういって良いかも分からずに受け取ったグラスに氷を入れ直した。話をする間の一杯はおまけで出してやろうという思いである。

「随分と酷いことも言ったし、私も彼女も関係性的にはドライでしてね…でもやっぱり他の誰かの所に行ってしまうのは寂しいもののようです」
「妹みたいな子、なんでしょ? なら仕方ないさ」
「頭では分かってますよ。ただ心がついていかないんですよ」
「はぁ」

気の利いた言葉でさえ今の彼には不要であろう。
佐助は参ったと内心呟きながら男の前にグラスを置いた。勿論とろりとした香りの強い酒を入れて。
置かれたグラスを一瞬呆けて見た男が、佐助の意志を汲み取ったか口角を上げて微かに笑った。
小さくありがとうございますと呟くとグラスに口を付けて味わうようにして嚥下する。

「人の感情っていうのは本当に厄介だ」

ぽつんと呟いた男が残った酒を一気に飲み干した。ことんとテーブルにグラスが当たる乾いた音。項垂れるようになった男の手から離れたグラスが抗議のように氷と音を立てる。
これは相当だなと思いながら佐助は思案する。
さて追い出すのは簡単だと思うのだけれど、人でなしではない故無碍にそうするのも躊躇われる。
これではいつまで経っても店は閉められないだろう。
小さく参ったねと呟けば、裏から様子を覗いていた幸村も困ったように首を傾げた。

「私たちは孤独です」

静かな空間に男の独り言が落ちる。不思議な響きを持った言葉に何も返せるわけがない。
佐助も奥にいる幸村も男の言葉が何を意味しているのか、全てを知らずただ沈黙を守るしかなかった。

「幸せになれるなんて保証が全くない、のに」

からり、氷が音を立てる。

「だから此処でぐだぐだと腐っている、と?」

不意に。穏やかに、けれど鋭い言葉が割り入った。驚いたのは男だけでなく佐助と幸村も同じ。
店の扉が薄く開いて来客なのだと告げたが、佐助にとってその人物は幸村同様に見慣れた顔だ。
ひょこりと声に反応して顔を出した幸村が目を丸くする。
よく見れば幸村と似た面影の青年が確かな足取りで店内を移動した。気怠そうに視線を上げた男を一瞥して、佐助に声を掛ける。

「迎えに行くと幸村が出て行って思ったよりも時間が掛かっているから様子を見に来たのだけど」
「あ…、信幸の旦那」
「うん。厄介な客が残っていたんだね」

さらりとそう宣って笑った青年は幸村の実兄だ。
幼い頃に引き取られて別の場所で過ごしていた故に、性格は似ても似つかないが顔立ちはどことなく似ている。
独り立ちしてから幸村の居るこの街で過ごすことを決めた彼は音を紡ぐことの出来る存在でもあった。

「………久しい、というべきですか」
「久しぶりにあったというのに、この為体と思うと悲しくなるけれど」
「相変わらず手厳しい」
「……貴方がどうしようもないから、とは考えないのかな。…光秀」

言葉の厳しさの割りにやんわりと名を呼んだ信幸は仕方ないといった風に溜息を吐く。
知り合いだったのかと佐助が驚いて目を丸くすれば、視線だけで肯定をして信幸は光秀と自身が呼んだ男の腕を取って立ち上がらせた。
ふらり、と覚束なく立ち上がった男に視線を合わせると何かを確認するよう頷いて佐助に視線を向ける。

「もう、店終いをしても良いよ。彼は送っていくから」
「え…? ああ、どうも」

半ば引き摺るような強引さで男を店の外へと連れ出していく背中を呆然と眺めて、佐助と幸村は顔を見合わせる。


「ねぇ、旦那」
「うむ」
「あの人、知ってた?」
「いや……某は分からぬ」
「それじゃ、昔の……」
「かも知れぬ」

二人の視線は依然、幸村の兄と男が消えていった扉に向けられていた。




>> ちょっとした光秀のお話。
    捏造お兄ちゃん登場。私は真田信幸殿も大好きです(笑

軽やかに舌先を転がる旋律。
鼻歌を歌いながら慶次が笑う。
それをBGMに政宗はそ知らぬ振りで読書を続け、元親は図面を見ながら器用に細工品を組み上げていた。
同じようにちょこちょこと部品を組み立てながら重治が首をかしげる。

「あれ、慶次君」
「うん?」

鼻歌が止む。
同じように首をかしげた慶次が歌を止めた人間の言葉を待つ。

「歌詞違ってない?」
「……え。そうだっけ?」

参ったなぁ、そんなの気にしてなかった。
そういって笑った慶次が頬をかく。本から視線を上げた政宗が小さく笑った。

「あれだろ。慶次。前からお前、その歌の一番と二番の歌詞がごっちゃになってんだよな」
「うーん」
「覚えづらいの?」
「かなぁ?」
「……いいんじゃねぇ? 少しくらいの間違いは許容の範囲だろ」

元親が告げた言葉に、重治がまた首をかしげた。

「そうかなぁ?」
「歌を紡ぐ時の気持ちさえ間違ってなかったら、少しくらい許容範囲だろ」
「でも歌詞にだって意味はあるよ」
「それでもって、あれだな。その歌詞に誰もが同調できるわけでもないんだよな」
「うーん」

「例えばの話」

元親が組み上げに使っていた工具を放り出して重治と慶次を振り返った。

「旋律に共感を持っても、歌詞に共感をもてない時もある」
「逆もまた然り、ってか」
「そゆこと」

政宗が意地悪く笑って立ち上がった。ぱたりと本を閉じて「一理ある」と言う。
確かにそれには覚えのある感覚だ、とその場に居る全員が思った。

「それじゃ、まぁ…いいか」

納得したようで、頷いた重治の頭を褒めるようにぽんと手で撫でた慶次が笑う。
つられて全員で笑うのに時間は掛からなかった。



>>カナリア設定。幼馴染四人組。
   きっと、こんな風に聖地では過ごしてたんだろうな…の妄想。

歌声が流れる。
掠れた低い声はしかし伸びやかで、うとうとと夢と現実の合間を漂っていた元就の耳に心地良く届く。
重い目蓋を押し上げて隣で歌う男を見やれば、視線に気付いたらしい首を傾げて此方を向いた。

「も、とちか」
「ん。悪ぃ、起こしちまったか?」

心配そうに声をかけてきた男の声で、歌は止まる。
勿体ないと思ったが口にはせずに、首を横に振った元就は破れた幌の合間から見える月を見上げた。
冴え冴えとした月は冷たささえも孕んで、這い登ってきた寒さに思わず首を竦める。
目敏くそれを見て取った元親が強くはないが決して弱くない力で元就の肩を自分の方に引き寄せた。
細い身体は容易く元親の腕に抱き込まれ、抵抗という抵抗もせずに元就は体重をその腕に預け大人しく耳を厚い胸板に押しつけた。
一定のリズムの鼓動が聞こえて尚のこと安心する。
先程の寒さなどは僅かにも感じない。

「……元親」
「うん?」
「…歌え」
「命令形かよ」

苦笑混じりの声は、否定を表さない。
やがて一つ大きく息を吸うと元親の唇から歌が滑り落ちた。
空気を震え伝う旋律は、人が禁じられてしまった奇跡の音。忘れられてしまった歌。
取り戻そうとしても歌を禁じられてしまった人間には二度と歌うことの出来ない奇跡。
世界はその音に触れて歓喜し奇跡を起こすとも、遙か原始の時よりの純粋な祈りに応えて奇跡を起こすとも言われている。
その声が、歌が、音が。
今は一人の為に歌われる。

「……、だ…」

ぽつりと、囁く程の小声で元就が何かを口にした。
何を言ったのかと問おうとしたが、歌が途切れてしまうと思い留まり、元親は腕の中に大人しく収まっている元就を見遣った。
目蓋を閉じてじっと歌を聞き入る表情は穏やかで。
嘗て見せた痛みを堪える表情が嘘のようだった。
暫く歌い続けると腕の中、小さく規則的な寝息が聞こえ始める。
眠りの中に落ちたのだと確認してから、緩やかに歌を止めた空間には余韻が残った。
見上げる月は冷たさを孕み、夜風も体温を奪う。
それなのに腕の中の温もりは温かくて、それだけで寒さなど吹き飛んでしまうかのようだった。
安らかに眠る元就を起こさないように抱き直して、元親は自分も瞳を閉じた。



>>逃げた~…の少し後。

   ひとりきりの夜に別れを告げたのは、元就。
   ひとりきりの夜から救い出してくれたのは、元親。

   元就は光秀と一緒にいても、きっと二人とかではなくてふたりぼっちだったとか妄想。
   少し糖度高め。こういうときは我に返ったら駄目なんだぜ(黙れ

秀吉、と。
微かに風に乗って息の上がった声が名を呼ぶので条件反射的に振り返った秀吉は、とてとてというのが一番相応しい表現だろう、で駆け寄ってくるふわりとした銀髪を持った人物を待った。
肩で息をして苦しそうに膝を折りながら、これ、と一通の封筒を差し出す。

「……?」
「慶次君からだよ」

宛名の無い封筒を訝しげに見れば、そう封筒を差し出した人間が言う。

「…慶次から。珍しいことよ」
「そうでしょう? 僕もそう思ってね、それで受け取って一生懸命秀吉を探してたんだよ」

笑ってそういった途端咳き込むので、その背中に手を回して撫でて呼吸を助けてやると「大丈夫」とだけ返って来る。
呼吸器が昔から弱い彼は、一度体調を崩したら中々治らない。
謂わば病弱という部類の人間だった。

「探すのは良いが、半兵衛…」
「うん?」
「…ゆっくりにしたら良かったろう」
「嫌だよ。だって手紙なんて慶次君がくれるの珍しいじゃない。しかも嬉しい頼りみたいだし、僕だって早く読みたいと思ったんだから」

だったら一人で読んだ後に、自分に知らせてくれたらいいのに。
内心苦笑して秀吉は自分よりも幾分も低い半兵衛の頭を撫でた。
幼い子供のように扱われて少しだけ不機嫌そうに眉間に皺を寄せたものの、半兵衛はそれ以上何も言わない。
もう片方の手にある先程自らが手渡した封筒を取り返すと、ひらりとそれを示す。

「ね。読もう?」
「そうだな」

半兵衛宛の手紙に秀吉の了承は要らないのだが、秀吉がそういうと嬉しそうに半兵衛が笑って封筒の封緘を解いた。



慶次は大柄で細かい所にはあまり拘らない所があるが、あれでいて繊細な部分があったりする。
勢いは良いが達筆とも読める字で、近況が綴ってあった。
半兵衛を両膝の合間に座らせて背後から秀吉が覗き込む形で、手紙は読み進められていった。

「政宗と元親に会ったんだ…。いいなあ」

ふと手紙のある一行を読んで、ぽつりと半兵衛が呟く。
政宗と元親。手紙の差出人の慶次と受取人の半兵衛、四人は年の頃が近かったからか、聖地の中ではいつも仲が良かった。
体の弱い半兵衛以外の三人は、聖地の外に出ることを望んでしまったため、里帰りを三人がする以外に半兵衛が彼らに会うことは無い。
それでも偶に帰ってくれば必ず半兵衛の所に立ち寄って、土産だと珍しいものを置いていったり、話を聞かせたりしていた。

「元気そうだな」
「うん。そうだね。元気なのはいいことだよ」

笑って言う半兵衛は心底嬉しそうだ。
空気の清浄な場所でなければ、少なからずとも負担が掛かってしまう身体では行動が制限されることが多い。
時折、用事があって聖地を降りることがあったが、その時でさえ半兵衛は注意をしなければならなかった。
本当なら自分も彼らと同じように色んな場所で、色々なものを見て、そうやって生きたいのではないのだろうか。
カナリアではなく、この聖地で技師として生きる秀吉は、聖地が如何に隔絶された場所かを知っている。
ひっそりと守られるように、隠れるように存在するカナリアたちの村。

「……え」

何か珍しいものがある訳でもなく、ただ日々を安穏と過ごす。
良い生活といえたが、その選択肢しか持ち得なかった人間には些か酷ではないのだろうか、と考え込んでいた秀吉の耳に驚いた半兵衛の声が届く。
珍しい。
彼が此処まで驚きを示すということもそうだが、その後何も言わずじっと文面に目を落として反応も薄い様も。

「何が書かれてあったのだ?」

タイミングを計ったように、半兵衛が文から視線を外すと同時に秀吉は声をかける。
掛けられた声で我に返ったのか、肩越しに振り返った半兵衛が「ああ、うん」と曖昧に返す。
それさえも珍しいなと思っていたら、半兵衛がさらりと言葉を口にした。

「元親に恋人が出来たんだって」
「……ほう?」

半兵衛と似た髪色の。しかし受ける印象は全く違う、その人物を思い起こす。
性格は良い。屹度恋人が出来たとしても元親なら大切に出来よう。

「…それがね」

くす、と笑った半兵衛が軽く手招きをする。
身を屈めて耳を近づけると、手招いた手を口元に持っていって人差し指を立てる。

「これは、秘密だよ」
「なんだ?」
「その相手っていうのが」

”調律師なんだって”


意外と言うよりは、ある意味カナリアにとって禁忌ではなかったのか、と問いたくなった秀吉がじっと半兵衛を見ると本当に楽しそうに笑っている。
手紙を丁寧に封筒に戻して、もう一度視線を落とした半兵衛が呟く声に納得した。


「いいじゃない。好きの対象に、カナリアも調律師も、普通の人間も無い。そうでしょう?」

その通りだな、と秀吉も笑う。
確かに、カナリアも調律師も人間も、好きと言う感情に関係は無いだろう。
結局はみな、同じように感情を抱くのだから。





>>創作カナリア設定話。
   大人しめな半兵衛さんと秀吉。
   どうでもいい設定としては、幼馴染の三人は半兵衛のことを重治と呼ぶんだぜイエア…!
   一応、「逃げた調律師の行方」って題打ったカナリア設定話は此処でおしまい。
   続きとか、この設定でちらほら話は書くと思う。
   ただとりあえず元就と元親のトムとジェリー(追走劇)が終わったって事です。
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プロフィール
HN:
くまがい
HP:
性別:
女性
自己紹介:
此処は思うがままにつらつらとその時書きたいものを書く掃き溜め。
サイトにあげる文章の草稿や、ただのメモ等もあがります。大体が修正されてサイトにin(笑
そんなところです。

ブログ内文章無断転載禁止ですよー。
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