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親愛のキスと愛情のキスは違うんです?
そうふわふわした容姿の姫が言ったのに動揺したのは他でもない次期騎士団長殿だった。
「何を仰るんです、エステリーゼ様」
「……え? でも気になったんです。フレンは違いが分かるんです?」
反応すれば問われるに決まっているのにわざわざ丁寧に反応を返すとは、と横目であたふたするフレンを見遣りながら、食べかけのケーキを頬張ってユーリはフォークを咥えた。
至極真面目な様子のエステルに、至極真面目に狼狽えるフレンの図は面白い。
面白いことには面白いが。
「……あ、のですね」
「それじゃ、フレンはキスはしたことあるんです?」
ちらりとフレンの視線がユーリに向けられる。質問している本人は必死なのでともかく、遣り取りを見守っていた中には聡い人間が含まれているので、ユーリに投げられた視線に気付いたことだろう。
実際僅かに自分に向けられた視線を居心地悪く感じ、ユーリは更に残った最後の一欠片を口に放り込んで立ち上がった。
がたりと鳴った椅子にエステルの視線が動く。
「ユーリ?」
「……腹いっぱいになったら眠くなったみたいだ。オレ、先に部屋に戻ってるな」
特段エステルの言及を躱すのは容易い。
厄介なのは寧ろ向かいで悠然と足を組んで座り笑みを浮かべている長身の美女や、草臥れた上着の裾のほつれを気にしながら猫背の姿勢で座る中年の男だ。
ユーリの行動の意味も多分に理解しているのか、見上げて笑みを増々深めたジュディスは「そうね」とだけ相槌を打つ。
「ユーリはここ数日、寝ずの番をしてくれたもの。疲れていると思うわ」
「……あっ、そうですよね。わたしったら気付かなくて、ごめんなさい」
素直に頭を下げたエステルの手前、黙ってこの場で耐えた方が良かったかも知れないという選択肢は断たれる。
今更逆にやっぱり良いという方が不審がられるのは目に見えているので、溜息が漏れそうになるのを必死で飲み込んでユーリは頷いた。
ああ、もう。
「それじゃ、悪ぃけどお先」
ひらひらと手を振って階段を上がっていく手前で、いつまでも外されない一つの視線を感じてユーリは首だけ巡らせる。
エステルの質問を困りながら躱す幼馴染みの視線が僅かに絡んで、瞬間ユーリは笑んだ。
フレン以外の視線は生憎と自分から外れている。声には出さず唇だけを動かして、言葉を言うとユーリは今度こそ階段を上がった。


親愛と愛情のキスがどう違うか。

それはたぶん正確には分からない。曖昧な線引きは存在しているのだろうが、言うなれば大きな違いは欲求かも知れないと思う。
「フレン」
「……なに?」
「エステルをどうやって捲いたんだ?」
「捲いたって……君ね」
溜息で返す幼馴染みが隣のベッドで身じろぐ気配を感じ、ユーリは寝返りを打つ。
あの場から逃れる為の詭弁は実のところ的を射てたらしく身体を横にしてしまえばユーリの意識が落ちるのは早かった。
目が覚めたのは部屋で気配がしたからだ。目が覚めた瞬間覗き込むフレンの顔を視界いっぱいに入れ込んで、まだ一晩は過ぎていないと悟った。
「で?」
「別に。……僕にも分かりませんって答えただけだよ」
ベッドに腰掛け、手入れしていた剣を置いてフレンが答える。
そんな答えでエステルが引き下がるとは思えなかったが上手く誤魔化したのだろうか。
白いシーツに散らばった自分の髪の先が見え、おざなりに湯を浴びてそのまま横になったから珍しく変に癖が付いたなと指で摘んだ。
まだ乾ききっていない。
「フレン」
「ちゃんと拭いて寝ないからだよ、それは」
ユーリの視線がどこにあるのか分かった上で溜息を返される。
名前を呼ばれた意味をどう取ったのかお小言まで付け足しそうになる幼馴染みにユーリは視線を投げた。
「違う」
そうじゃない。
「……しつこいね、さっきの質問?」
「そうじゃない」
僅かに首を振ればぱたぱたと乾ききってない髪がシーツを打った。視界も髪が邪魔をする。少し煩わしい。
「ユーリ?」
「……いや、そうかもしれないけど」
髪を掻き上げ漸く遮るものが無くなった視界に、不思議そうに首を傾げた幼馴染みが身を屈めて覗き込んでくる姿を捉える。
目が合った瞬間。そうだな、と思う前にユーリの身体が動いた。
肘をついて身体を素早く起こし、近づいてきたフレンの唇を掠めるように奪う。
ちゅ、とわざと音を立てて離れれば目を丸くするフレンが名前を呼んだ。
「これは親愛」
「は?」
目を丸くしたフレンが何かを言う前にもう一度唇を合わせる。
「……それは愛情?」
離れた瞬間に問われて、どうかなとユーリは首を傾げた。
不安定な体勢でいるのは結構辛く少し姿勢を変えようと意識を逸らした瞬間に、今度はフレンから口付けを仕掛けられる。
腕で支えていた自身の体重の他に加わるのは流石に支え切れず、後頭部からベッドに倒れこみそうになった頭を後ろに回った腕が支える。
「……ん」
思わず息を呑んだ瞬間に僅かに角度を変え口付けが深くなった。
合間息継ぎの仕方が分からなくなったように、少しの目眩を覚えてユーリは目を閉じる。

「……でも、僕にとってはどっちも同じかな」
唇が離れた瞬間に落とされた言葉は何とも区別が付かない言い難さで、見上げた先で海の色をした瞳が笑んだ。
何で? と問うには些か気が引けてユーリは息を吐く。
見越したように付け加えられた言葉にも返事は返せなかった。
「欲しいと思う劣情みたいなものが違いだろうから」


>>フレユリでキスのお題を頂いたので。
   ……なんかもう、ごめん状態。

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そんなところです。

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