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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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それは多大な見栄だったのだと言わざるを得ない。嘗ての自分に対して。
しかし過去の言葉は結局目的となったのだと、小箱を掌で転がしながらフレンは窓の外を眺めやった。
新しく挿げ替えられた徽章を眺めて、代行を務めてきたとはいえ実感が沸かないと苦笑する。
正式に騎士団を統べる団長として皇帝陛下から任命を受けたのは先刻。傅いた先で穏やかな声音が最後に労った言葉で漸く現実なのだと実感した。
綺麗に片付けられた執務室の、埃一つない机の上に手をついて、思案する。
ころりと手の中で箱がまた転がり、それはいつかの自分が欲しがった一つだなと気付いた。
今でさえ歳若いと言われてはいるがあの頃の自分は歳若いというよりは、まだまだ子どもだったのだろう。
その分、何事でさえも出来そうな気がしていたとは思う。思うが理想と現実は随分とかけ離れていた。
故に苦しんだのは確かで、その分無我夢中であったから、気付けばここまで来ていたと言う気はする。
ただその間に変わったものも多少はあったという認識もフレンには在った。
転がすのを止め緩く握った小箱には、一つの約束が詰まっている。たぶん相手は忘れてしまっているような、そんな幼稚な約束だ。
何をするのにも一緒。そういう風に言えば語弊が出る。
ただ互いに意思を持って一緒に居るのが当たり前だった幼馴染と、騎士団の門を叩いたのはそう昔では無かった筈だ。
二人で世の中を変えようと誓い合ったのはもう少し前だったかもしれない。
一緒に、と言った。それは当時は隣に幼馴染がいることだと思っていた。
単純な子どもは一緒の道を進む事が、全てだと思っていた。
変わったのは何も周りだけでなく、自分の認識も含まれている。
もしかしたら覚えているかもしれない約束を、幼馴染はどう思うだろう。あの頃とは大分形が変わってしまったとは思うけれど。
「ソディア」
隣の部屋に控えている副官を呼ぶと控えめに応えがある。
騎士団長という肩書きを背負えば、立場が付いて回る事になり、今までのようには動けない。
既に拝命をしたのだから本来なら弁えなければならないが、今日だけは見逃してもらうつもりだった。
「少し出かけてくる」
「……はい。お気をつけて」
護衛を付けろ、と副官は言わなかった。短く簡潔に身を案じる言葉だけを寄越し何も言わない彼女にフレンは頭を下げる。
「ありがとう」
「夜までには戻ってください。それと」
謝辞に僅かに惑う声が帰り、扉越しに少しだけ力が抜かれた進言が続いた。
「明日からはちゃんと護衛をつけて貰いますから」


***


一緒にこの世界を変えよう。
そう言って幼馴染と約束を交わした。実際世界を変えるなどというのは難しく、問題は山積している。
結局は延長線で存在する世界をがらりと全て変えられるわけはない。少しずつ問題を片付けて進むしかなかった。
騎士団に入ってから自分の手の届く範囲、出来る事、なるべく取り落とさぬようにこなしていくのに精一杯で、気付けば、騎士団の腐った実態に幼馴染が辟易して出て行くことさえ止める事が出来なかった。
何をするにしても自分には敵わないと笑っていたが、決してそうではなかったと思う。
規則に対して緩かったし、組織として働くには奔放な性格過ぎる。
けれど、自分には無かった絶妙なバランス感覚の良さや器用さは、正直羨ましくもあり素直に敵わないと認める部分でもあった。
信頼していたからこそ、共に世界を変える約束を、騎士団で同じ道を目指す事によって、夢を支える事によって叶えるのだと思っていた。
「けど、違ったね」
下町の広場に位置する水道魔導器に寄りかかっている見慣れた背中を見つけて、フレンは一人ごちる。
街角のあちらこちらで夕餉の香りが漂っていた。陽も既に暮れかけている。
ああ、色は大分違うけれど、同じ理想を追いかけるのに必要なのが一緒の道を行く事だけではないと、認めた日と同じ空だと思った。
漆黒の癖の無い髪に、合わせたかのように黒で統一された服装で幼馴染はその空を仰いでいた。
風が路地を吹き、僅かに掛かった髪を払い、肩越しに振り返って笑う。
「よぉ、フレン」
本当に距離も時間も何も感じさせない気軽さで挨拶を寄越す幼馴染にフレンは苦笑する。
「どうしたんだよ? 良いのか? 一人で」
「今日だけはね、許して貰ったんだ」
「よく許して貰った、」
「約束を果たしたいんだってお願いしたら、許して貰ったよ」
その言葉にユーリが首を傾げる。
記憶を攫うように視線を彷徨わせて、困ったように微かに笑った。
思い出せなかったわけではなく思い出した上での、笑みなのだと直ぐに分かる。記憶から探し出せなければ眉間に皺を寄せるだけだったろう。
「フレン。悪ぃけどそれは」
「”君と僕、どちらかが騎士団の上に登り詰めたら、そうしたらずっと一緒にいよう。”
 確かにその約束は無理だけど、でもその後もう一度約束しただろう? それなら一緒だっていう証くらいはって」
同性同士で、手の中にあるものが意味を為さないのは良く分かっている。
溜息を吐いたユーリが「それで」と聞き返した。視線を手の中の小箱に落としたのにつられてユーリの視線も小箱に移る。
木製の全く装飾の無い箱は実によく自分達に合ってると思う。中身は別として。
「受け取ってくれる?」
中身がしっかり見えるよう目線に合わせて差し出し開けた箱に、ここ数年は見ていない驚きに目を丸くした表情を見せてユーリは固まった。
人が集まる広場には、みな夕飯の為に帰路についてしまった為、自分達以外の姿はない。
数秒。
じっと小箱の中身に注がれる視線は瞬き一つもしない。
「……指輪」
やがて小さく呟かれた声は、誰も居ない広場でも紛れてしまうくらい小さなものだった。
「大丈夫。つけても気にならないように、極力装飾は控えてあるから」
幼馴染が手を伸ばすのをためらっている理由がわかっているにも関わらず、わざとそんな見当はずれなことを言う。
この様な駆け引きめいたやりとりが出来るようになったのも、既に自分たちが昔のままではいられないことの象徴なのだろう。
しかし、だからこそどうしてもこの指輪をユーリに受け取って貰いたかった。いや、受け取って貰わなければ困るのだ。
「なぁ、フレン。俺は、」
「ちょっと待って。僕に先に言わせて」
ユーリが何か言いだそうとするのを事前に遮る。こうでもしないと、この幼馴染は一人で出した結論に勝手に納得し、決して自分の意見を聞かないだろうから。
この機会を逃してしまえば、幼き日の約束が果たされる時は永遠にこないだろう。
これまでに戦ってきた、どんな強敵と相対していた時よりも遥かに緊張している。そんな自分を落ち着かせるようにフレンはもう一度手の中の小箱を握り締め、真っすぐユーリを見据えた。
「君は、僕が何でも一人で出来る人間だと思っているのかもしれないけど、それは違う」
騎士団に入ったのも、平等な世界を作ろうと思ったのも、全部ユーリがいたから。二人で約束したハズなのにこの幼馴染は、それをちゃんと理解していない。もしもユーリが“いなかった”としても、フレンがこの道を歩んでいただろうと考えている節がある。そんなこと、あるはずがないのに。
「君が、僕を支えてくれているから、今の僕があるんだ。君の存在があるからこそ、僕は今の道を歩いて行ける」
君も同じじゃないのか?と、問いかける。何も知らない人からすれば随分と図々しい質問に聞こえるかもしれない。しかしフレンはユーリにとっての自分の存在が、どれほど大きな影響力を持っているのか正しくわかっていた。自惚れではなく。
「昔は、同じ道を同じように目指すことで、ずっと支え合って一緒にいられると思っていた」
しかし、道を違えたことによって気付いた。自分たちは、たとえ別々の道を歩んでいようともどこかで――そう、一番深い部分で通じているのだと。まるで、光と影のように、どこまでも、確かに繋がっている。
「でも、離れようとしたって無駄なんだ。だって僕たちは、二人で一つなんだから」

――だからユーリ。君もいい加減に諦めてよ。

手を汚してしまったから、自分はフレンにふさわしくないなんて。そんな理由で一緒にいられないなんて絶対に認めない。この唯一無二の存在を、離してなるものか。

しばらく黙って聞いていたユーリだが、段々とその緊張がほぐれていくのが感じられる。どこか呆けたような、成るべくしてなった結果に安堵するような、何とも言えない表情をしていた。
「お前、どんだけ自信家なんだよ」
その声が、微かに震えているのをフレンは聞き逃さなかった。どんなに強がっていても、やはりお互いに離れることなど一生出来そうにない。
そっとユーリの手を取り無言で小箱を押しつける。ユーリも今度は拒否するようなしぐさを見せなかった。その手にしっかりと握らせて、フレンはゆっくりと手を離す。
目線で箱を開けるように促すと、ユーリは大人しくそれに従った。そこから現れたのは、質素な箱に不似合いなシンプルであるがそれなりに高価なものであるとわかる指輪。
「ははっ、なんだよこれ。噂の給料三ヶ月分ってやつ?」
「……どうかな?まぁそこそこ頑張ったつもりではいるよ」
「俺なんかの為にここまでして……お前も大概馬鹿だよなぁ」
俺も人の事言えないけど、と呟くユーリに、指輪はめてあげようか?と問いかける。ユーリのことだから、断られるだろうと思いつつもからかいの意味を込めての発言だったのだが、予想とは裏腹に返ってきた答えは是だった。
「これつけて、俺がお前から離れるなんてこと考えないようにしっかり見張ってろよ」
「君ってやつは…さっきまでと随分調子が違うよね」
「腹ぁ括ったから、な」
そういって手を差し出すユーリの薬指へと、ゆっくりと指輪をはめていく。聞いたことがあるわけでもないのに、サイズもぴったりで少しだけユーリが呆れたような顔をしたが気にしない。完全にユーリの薬指へと収まったその指輪は、日の光を浴びてか先ほどよりも輝いて見えた。その手を空へかざし、眩しそうに目を細めながらユーリが呟く。
「しっかし、これ、こっ恥ずかしいな……」
「僕もしているよ、お揃いだね」
ほら、といつもつけている篭手を外し、素手を露出させる。その薬指にはユーリに贈ったものと同じタイプの指輪がはめられていた。それをみてユーリが再び溜息をつく。
「お前、これから騎士団長になるってのにそんなのしてていいのかよ」
「ん?そうだね。折角騎士団長になるんだし、いつか同性でも結婚出来るように法を作りかえる努力とか、してみようか?」
そういうと、ユーリが嫌そうに顔をしかめる。お前が言うと洒落にならない、と。全く冗談のつもりなどないが、ここは深く言及しない方がよいかと笑って流しておいた。ある日、突然プロポーズして驚かせるのも悪くないかもしれない。などと考えていることをもちろんユーリは知らない。

「ね、ユーリ」

これからもずっと一緒にいてね。

その言葉に、ユーリはどこか泣きそうな表情をしながらも、それは幸せそうに頷いた。

幼き日の約束。もう果たせないと思ったこともあったけれど、それでもいつかは叶うと信じて片割れと精一杯支え合って生きてきた。それが、僕らの選んだ道。



>>前半くま。後半れあさん。の合作。……ちょっとだけ所用に載せておきます。

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サイトにあげる文章の草稿や、ただのメモ等もあがります。大体が修正されてサイトにin(笑
そんなところです。

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