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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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身勝手だな、と。我が侭だな、と。思うことは許されはしないのだけど、けれどこれは流石に我が侭だとユーリが思ったのは、「うるさい」と言い捨てられて強制的に電源を落とされた時だった。
ぶつっと切れた意識は今度は起動と同時に再浮上する。
「ユーリ」
「……気は済んだか、フレン」
「うん」
覚えているのは意識が落ちる前、窓の外は夜だったことくらいで、片手で姿勢を支えて覗き込んでくるフレンの向こう、どうやっても外が明るいということは一晩は電源が落ちていたのだろう。
その間、着信が無かったとは言い切れない。
携帯の電源が切れた際に履歴を残すサービスを意図的に切ってしまっている持ち主の意向で、ユーリには与り知らぬ事だ。
「……で、機嫌は治ったのかよ」
「可笑しなことを言うね、君は」
憎たらしいくらいの笑みを浮かべたフレンにユーリは溜息を吐く。
電源を切られる直前に聞こえた声は心底冷えた声音だった。相当堪っていたのは分かるが、自分にだって存在意義はある。
人格プログラムが形成されているとはいえ元は携帯だ。携帯電話の一番の存在意義と言ったら連絡手段としてのものなのだから、しつこい着信に携帯主が嫌気を催していても一応伝えなければならない。
ユーリは自分の仕事をしたに過ぎない。
「さっき、こっちに電話が掛かってきたよ」
ふ、と。
視線を自らの手に落としたフレンの利き手には受話器が握られている。
何度携帯に連絡を入れても繋がらない。挙句電源が切られた。手段は家の固定電話に行くのは考えれば当たり前のことだった。
「全く、しつこいよね」
出る意志がないんだって何故分からないんだろうと冷めた声で言うフレンを見上げながら、ユーリは受話器を握っている手に触れた。
僅かに震えたのをユーリは見逃さない。
「フレン」
「……うん?」
「どうせ電話に出るんだったら、素直に出た方がいいんじゃないのかよ?」
それともオレは嫌か? と付け加えればフレンが首を振った。
肘を突いて上半身を起こすのに合わせて身を退かしたフレンの、その手にまだ触れたままでユーリは問う。
「フレン、答えろよ」
「君が嫌いなら、とっくに変えてしまうか。壊してるか、してるよ」
ふと笑う。その言葉に嘘はないだろう。
前に購入履歴を辿った事があるが、フレンは数回携帯を壊してしまったことがあるらしい。
「じゃあ?」
受話器をベッドの上に放り投げたフレンが首を傾げる。
「嫌じゃない? だって君から嫌な人の声を聞くなんて」
「……え?」
「冗談じゃない」
腕を引かれ、体勢を崩した先でフレンが小さく呟く。
命令としての言葉にユーリが逆らえる筈もなく頷くしかないのを知っていて、フレンは命じた。
でもそうしたらお前が追い詰められるんじゃないのかという言葉を飲み込んでユーリは間近に見える碧眼を覗き込む。
フレンの家庭事情が複雑なのは本人が何も言わなくても分かる。養い親とは随分と前から上手くはいっていない。
「満足か?」
「そうだね……。あとは、僕がちゃんと独り立ち出来たら、君にこんな苦労はかけないよね」
「お前、それまで変えない気?」
彼が就職して独り立ちをする前に少なくとも後二年はある。
なんだかんだと付き合いは一年近くになるし、携帯としてそこまで使う気なのだろうか。
「大事にするし……。もし機種変更することになったら君のデータ全部写すよ。少し色々掛かるけど構わない」
「馬鹿」
余りにも真剣に言うフレンにユーリが笑う。

早速着信があったのだけれど、フレンが命じた通り着信拒否をしてユーリは空になったフレンの手を取った。


>>沈黙の手前。
   携帯擬人化フレユリ。持ち主フレン、携帯ユーリ。

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そんなところです。

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