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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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同じ顔をしていたから、だから気持ち悪いと思う前に嫌悪感が来た。暗い、底の知れない瞳を自分のものだと思いたくなかった。
だからこそぶらりと利き手に握られていた剣を見ようとはしなかった。そこを流れ落ちる血液を見ないことにしようとした。
お前はオレで。オレはお前。
そういわれる言葉を否定するために首を振るのは簡単だった。
違う違う、お前とオレは違う。違う違う。
だって、知らない。そんな風に躊躇いも無く人を切り捨てるなんて、そんな馬鹿なこと。

「出来るんだよ、お前は」

だってオレが出来るんだから。
目の前で、腰にまで届く漆黒の癖の無い髪を揺らして笑う、とても自分によく似た男の、その表情に目眩がした。
それが最初で、その後からは酷く疲弊した頃に男は自分の前に現れた。

しかし、それも今日で終わるのだろうな、と思う。

自分の判断だけで人に手を掛けた自分は、きっとあの時の男と同じ表情をしているのだろう。
忠告だったのかもしれないとさえ思えるのに、選び取った選択肢を間違いとは思えない。思いたくも無い。
思えば後悔するということになる。思ってはいけない。思うことは自分を壊すことに他ならない。
だから、ふらりと夜の街の闇に紛れるようにゆっくり歩いてきた人影に、その男が浮かべる表情がたぶん今の自分と寸分違わない事に、笑いがこみ上げた。
「馬鹿だな」
建物の影から歩み出てきた男が言う。冷めた声ではなく、酷く温度を保った声だ。
見詰めてくる瞳も暗さだけを湛えるのではなく、どこか凪いだ静けさで、自分を映す。
手にしていた得物の柄を差し出して、男は言う。
「何も、こっちに来ることは無かった」
差し出された柄に手を掛けて、相手の手に鞘を残したまま引き抜く。やけに馴染む得物だと思った。
それもそうかと納得する前に口から言葉が滑り落ちる。

「そんなの無理だろ? オレはお前なんだから」

妙に納得し切った声音に自分でさえ可笑しくて笑えば、顔を上げた男が困ったように笑う。
背格好も顔も、背中を滑り落ちる漆黒の髪も、同一。
声もたぶん同じ。そんな男と自分は向かい合って、違う笑みを浮かべる。
「そうだったな」
落ち着き払った男が頷き、利き手に持った得物を引き寄せるように腕を引いた。刃が触れて相手を傷つけると思った瞬間、男の腕が背中に回る。
抱きしめられたのだと認識するより先に埋められた刃の先が見えた気がした。
「……どうして?」
掠れた声は自分のもので、抱きしめられたまま男の身体に埋められた刃を引こうとしてその手を捕まれ阻まれる。
軽い力でぽんと肩に手を置かれ、ゆっくりと離れていく距離と鈍い感触で抜けた刃を滴り落ちる血液にくらりとした。
平気そうな顔で、それでも笑う男は、「覚えておけよ」と一言だけ言う。
「お前は、それでも道を踏み外すな」
戻れなくなるからと囁くように耳元に吹き込まれ、僅かに身を震わせれば小さく笑い声が耳を掠めた。
流れる血液は既に感触としても無く、手に合った得物をするりと奪い取って男が一歩後ろへと距離を置く。
手から抜けた感覚に視線を落とした瞬間、別れの言葉を聴いた気がした。顔を上げれば、そこに男の姿はない。ただ、残ったのは男を刃で貫いた生々しい感触だけで。
利き手を乱暴に掴んだ際に重なった体温が、溶けたように思い出せないのは、それが幻ではない幻像を結んでいた証拠なのかもしれない。


>>感じをつかみたかったゆりゆり。こういうのが好きみたいだね、私は。

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そんなところです。

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