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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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僕は大体この時間になると窓を少しだけ開ける。
虫が入るからと嫌う家政婦さんには悪い気がしたけれど、こうしないと姿を見せてくれないから仕方がない。
読みかけの本は1ヶ月前に何とはなしに読み終えてしまったものだ。夕方には頼んで置いた新しい本が来るけれどベッドの上でやることは殆ど無い。
寝ているのも過ぎると疲れる。
風がカーテンを揺らした。陽光が透けて光の波紋を床に作り広げる様を見遣りながら、今日は来ないだろうかと思う。
起こしていた上半身を大きめの枕に押しつけるようにして目を瞑った。
そういえば彼と出会った日は、今日のように天気の良い午後で、カーテンが風で揺れる度に光が模様を作り上げる穏やかな頃合いだった。
だというのに不釣り合いな騒がしさが庭先から聞こえ微睡んだ意識が引き戻されたのだ。
ばたばたと羽音が聞こえていた。
何事かとベッドから抜け出して窓から庭を覗けば、花が咲き乱れる庭先には不釣り合いな漆黒の鳥が頻りに何かを威嚇しているようだ。
猫でもいるのだろうかと思ったが違う。どうにも猫の姿は見えない。
時間帯的に家政婦さんは外に買い出しに出ている。多少なら外に出るのも障りはないだろうとベッドから抜け出し、階段を下り、サンダルを突っかけ出た庭先で、僕は彼に出会ったのだ。
カラスが威嚇していたのは彼だった。漆黒の髪を揺らしてきらりと光を反射した針の切っ先をカラスに向けて、素早く身を翻す姿を咲き乱れる花の合間に見つけた時は、目を疑った。
小さい。
本当に小さい人が其処にいた。
それは子供の頃に読んだ絵本に出てくる小人とか妖精とか、そういった類のものと寸分も違わない。
葉の間を駆けていく姿を追うカラスが翼を羽ばたかせくちばしを地面に突き出した。足下を掬われた形になった小人は手をついて前転し何とか難を逃れると再びカラスとの攻防に移る。
数秒、呆然と状況を傍観して、そうではないと思い至った。
暴れるカラスに近づき追い払う。そう簡単に諦めてくれないかと思ったが、分が悪いと分かったのか空高く飛んでいった。
少しだけ上がった呼吸を整えていると後ろから声が掛かる。
妙に耳障りが良く心地良い低さの声だった。
視線をゆったりと下ろした先で、針を仕舞いながら笑った小人はユーリといった。

「フレン」

思い返す内に少しだけ眠りの波が来ていた僕を呼ぶ声がする。
ゆっくりと目を開けると窓辺に映る小さな影がある。手を振って、もう一度名前を呼んで、器用に窓枠からサイドデスクまで移動してくるのを僕は待った。
「やぁ、ユーリ」
ちょこんとサイドデスクに置いた本に座った彼に挨拶をする。
「今日は来ないかと思ってた」
「何で?」
不思議そうに首を傾げるのに合わせてユーリの漆黒の髪が揺れる。邪魔なんだと言ったから、あると何かと便利だと妹が筆箱に忍ばせてくれたクリップを前に渡した。それが存外気に入ったらしく、渡した次の日から彼は外に出る時にはクリップで髪を纏めているらしい。
髪に合わせたように黒い服と、随分と外で元気に駆け回る癖に余り焼けない白い肌。
じっと見詰めてくる瞳は精巧な人形と比べるのは失礼なほど、生きる意志に満ちている。
「あんまり庭が騒がしくなかったから」
「なんだよ、それ。オレがいつも喧嘩してるみたいじゃねぇか」
肩を竦めたユーリが笑う。
「違った?」
「いいや、違わない」
そして悪びれもなく返った答えに知らずに溜息が出た。
彼ら小人は人間達の家の床下に住居を作り、人間の家から少しずつ食料や電気といったライフラインを”借りて”生活しているのだという。
僕たちにとって小さな虫や動物たちでも小人たちにとっては大きな敵となる。
最初にユーリに会った時、カラスを相手にしていたわけだが自分よりも大きく翼を持っている相手と戦うなんて言うのは普通の小人なら選択しない行為らしい。
無謀なのか勇敢なのかは知れないけれど、ユーリは見ていて肝を冷やすところが多々ある。
普通なら逃げるところをユーリは逃げない。
前に理由を聞いたら「オレ、強いもん」と返された。確かにそうかもしれないけれど、強くても絶対はない。
「ねぇ、ユーリ」
「うん?」
小さな来客の為に砕いて置いた飴に齧り付く彼を見る。
「あんまり危険なことはしないでよ」
「大丈夫だよ」
苦笑で返される言葉は不器用なユーリなりの優しさなんだと知っている。
そして彼のことだ、こんな言葉で縛られないことだって知っている。
「君が心配なんだよ、ユーリ」
よいしょと立ち上がったユーリが困ったなと笑った。幻滅しただろうか。
でも本当に心配なのだ。この目の前の小さな友人が。
後で聞いた話、カラスに襲われていた時は実は相当危ない状況だったらしい。あの時は偶然居合わせて助けられたが、次にまた同じように助けられるとは限らない。
抑も生まれつき弱い身体のせいで、自分の身だって自由にならないことが多いのに。
押し黙った僕を見てか、ユーリがううんと小さく唸った。
本当は出会った時のように危険な目に遭ったら僕が助けてあげると言い切れれば良いのに、言えないのはもどかしい。
「分かったよ。善処する」
小さく告げられた言葉に顔を上げた。
机上の友人は
「お前、本当に心配性なんだから」
そう笑った。その言葉に無性に泣きたくなった僕は、ちゃんと上手く笑えたろうか。


>>かりぐらしのユリエッティ^q^
   病弱フレンちゃんって、なかなか良いんじゃないかなーとか(笑)

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サイトにあげる文章の草稿や、ただのメモ等もあがります。大体が修正されてサイトにin(笑
そんなところです。

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