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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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人間に姿を見られてはいけないのは掟。
家族と共に過ごしていたなら絶対に守らなくてはならないことだと教えられる常識は、オレにとっては余り馴染みのないものだった。
物心ついた頃から家族と呼べる人は無く、偶々同じ家で借り暮らしをしていた人たちに助けられて幼い頃は過ごした。
自然と借りの仕方は誰よりも早く覚えなければならなかったし、喧嘩の仕方も覚えた。
最初は3つあった家庭が1つ減り、そしてまた1つ減り……。
気付いたら自分以外の小人がこの家にいなくなった頃、オレは身を寄せる場所のない二人と一緒に共同生活をすることにしたのだ。
「ねぇ、ユーリ」
台所で何か料理をしているらしい未だ幼さを十分残す少年の姿の小人が、声を上げる。
とんとんと鍋から木べらを取り上げて、水気を切ると困ったように首を傾げた。
「どうした? カロル」
「今日くらいにさ、また借りに行くんでしょ?」
振り返ったカロルは、矢張りオレと同じく家族と呼べる身内がいない小人だった。
丁度住処を捜して一人分の荷物を小さな身体に担ぎ、しかし不幸なことに猫に襲われそうになっていたところに出会して、それから一緒に暮らしている。
一人だったせいかカロルは年の割にはしっかりしていて、そして手先が器用だ。
借り暮らしをする上で人間の家から電気やガスを引っ張ってくる回線の繋ぎなんかは感嘆するほど上手で、逆に苦手なオレとしては助かった。
臆病で借りをしに行く時には足が竦んでしまって役に立たないこともあったけど、それは得意不得意で持ちつ持たれつ補えばいい。
もう一人一緒に暮らしている小人は、どちらかといえば狩りの方が得意なようだから自分に似ているのだろうが。
女性というのも手伝ってか家庭的な部分があり、細やかな気配りもさじ加減が上手くて矢張り助かっている。
「行くぜ?」
カロルの問いに頷く。
今日の夜、借り暮らししている家の住人が寝静まったら必要なものを借りてくる。
そろそろ在庫が少なくなっていたのはティッシュと調味料少しだった筈だ。あとは何か適当に戦利品があれば貰ってこれれば上々。
「あのさ、……出来たらで良いんだけど」
砕いたビスケットの欠片を皿に盛りながらカロルが遠慮がちに言う。
そんな難しいことなのだろうか。特段そんな難しいことをカロルが言った試しはない。
「角砂糖、貰ってきてくれない?」
「……砂糖?」
「そう。砂糖」
うんと頷くカロルが戸棚に手を伸ばし開ける。其処に確かにストックされてた角砂糖はあと一欠片ほどしかない。
「昨日、ジュディスが色々ハーブを取ってきてくれたんだ。果物も。砂糖で漬けておけばユーリの好物も出来るでしょ?」
甘い物好きという認識をちゃんと持っているカロルが笑う。
ジュディスというのはもう一人の同居人だ。昨日良い塩梅だったと笑いながらたくさんの荷物を抱えて帰ってきた中に確かに幾つか果物も含まれていた。
皮を綺麗に剥いて砂糖で漬けておけばある程度保存が利くし、何より美味しい。
「そうだな」
砂糖の在処は分かっている。少し移動には手間取るが持って帰って来れなくはない。
「でも、出来たら……でいいよ」
カロルも何度か借りに出掛けているせいか、その場所を覚えているのだろう。
少しだけ大人びた表情で笑ってそんなことを言う。特段そこは気を遣うべきところではない。
その彼が言うところのこだわりの髪型を頭を撫でて少し乱してやれば、「やめて」と小さく悲鳴が上がった。
「カロル先生お手製のジュースも飲みたいし、ちゃんと取ってきてやるよ」


……。
「君ってさ、たぶん小人の割りには大胆不敵なんだろうね」
下ろせ。
口に出すのは憚られて黙っていると、しっかり手で捕獲されていたオレに人間である住人は盛大に溜息を吐く。
小人なんていうものの存在を普通の人間は信じないが、目にすれば信じざるを得ない。大抵そうなれば危害が及ぶと小人が引っ越すのだが、ここの家人は変わっていて小人との共存を許してくれた。
家の持ち主は老人だが、最近療養の為にとやってきた少年は矢張り自分の姿を見ても余り驚かなかった。
生まれつき身体が弱いらしく、部屋のベッドで横になっていることが多いが何かと気が合って、人目を盗んでは部屋に行き話をしている。
何より余り健康的ではないからか、少し纏う雰囲気とか。それが何か放っておけない。
金色の陽の光に似た髪は綺麗だし澄んだ空と似た瞳も好きで、要は最初容姿が気に入ったわけだが、気付けばそれ以外にも少年のところに足を運ぶ理由が出来てしまった気がする。
「下ろせよ」
服を掴まれたまま宙吊りにされるのは流石に疲れてきた。
「大胆不敵ってよりは馬鹿なのかも知れないかな」
首を傾げて、灯りも点いていない台所のテーブルの上に下ろした少年は一人で相槌を打った。
誰が馬鹿だ、誰が。
夜中という時間帯、流石に昼間に部屋に忍び込んで話をする時も気を遣うが、それ以上に声を出すのは憚られて文句は飲み込む。
それをどう取ったのか。ついと手がシュガーポッドに伸び、一つ角砂糖を取り上げた。
「はい、どうぞ」
「……フレン」
手渡され、名前を呼ぶと笑う。
困ったような、それでいて優しいような、少し分からない曖昧な。
「欲しいなら欲しいって言ってくれたら昼間にでも渡すのに」
「それは、駄目だ」
「なんで?」
手渡すのもこうやって貰っていくのも、余り変わらないだろう? と問われ黙るしかない。
確かにフレンにとってはそう思えるかも知れない。でも小人達にとっては意味合いは大分変わってしまう。
共存を許してくれているフレンやこの家の主人となら、こういう関係は続くかも知れないが、基本は人と関わらず人に寄り添って生きるのが自分たちのあるべき姿だ。
だから、借りの仕方を忘れるわけにはいかない。
人間が、誰しもこうだと思ってはいけない。
だってこの生活もいつまで続くか分からない。この場所を離れて暮らす時にはあるべきように生きるしかないのだから。
「……君は」
そっと声が落ちてくる。見上げれば凪いだ蒼の瞳が真っ直ぐ見詰めていて、一瞬何処に自分がいるのか見失う。
「ううん、そうだね。……まぁ、いつも通りに取りに来て」
言い直して笑ったフレンの顔が僅かに諦めを含んだ気がした。
たぶん、思っていることを分かられた。
「でも、お願いだから横着して飛び移ろうとしないで堅実な方法で借りていって」

 ――じゃないと僕が気になっておちおち眠れないから。

そんな風に笑って諭されたら、頷くしかない。


>>ゆりえってぃな何か。フレン、Sかもしれない。

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そんなところです。

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