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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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無理はしないで、と言った。
けれどきっと僕の中に存在する無理の規程とユーリの中に存在する無理の範囲は極端に違っていて、それを埋めるには言葉を投げかける位では足りなかったのだろう。
窓から入り込んだ小さな影に読んでいた本から目を離す。
いつも元気に挨拶をする声が今日は聞こえない。
ふと視界の端で捉えた黒い小さな人影が、ふらりとよろつき窓の縁から落ちかけるのに慌てて手を伸ばす。
ぽすんと掌に落ちてきた重さは軽く、僅かに手を突いて身を起こしたユーリと目が合った。
「ユーリ」
「……わ、るい」
顔色が悪い。僅かに首を振った拍子に前に渡したクリップで纏められた髪が揺れる。
所在なげに小さな手が身体を受け止めた僕の手に触れて、困ったように視線を彷徨わせた。その視線が向かう先を追う。
机の上。彼の定位置。
「さんきゅ」
そこに下ろすと小さくお礼を言われる。少しだけバツが悪いのだろう、顔を合わせてはくれず俯いたままだ。
昨日は来なかった。一昨日は確か病院の検査日だったから会えなかった。
「何処か具合が悪いの?」
「……いや」
大人しく座るユーリの表情が見えない。
「怪我、してる?」
小さな身体が、その肩が僅かに震えた。
「してねぇよ」
「嘘」
「嘘なんかじゃ」
「ユーリ、嘘が下手だね」
先程の些細な変化を見逃すほどお人好しではない。顔を上げたユーリの、その紫を帯びた瞳とぶつかる。
見た限りでは怪我を負っているようには見えないが、顔色は矢張りどことなく悪い。
「ちょっと、しくじっただけだ」
「何?」
ぎゅっと利き腕を握ったところを見ると怪我をしているのは利き腕なのかもしれない。なら、この部屋に来るのさえ大変だった筈だ。
僕にとっては何てことの無い距離がユーリにとっては旅と呼べるものになる。尺という意味での認識ならば何となく想像が付く。
「お前がいない日」
「……一昨日?」
「そ。あの日、ちょっと庭でカラスと」
初めて会った日もそうだったが、ユーリはカラスと余り相性が宜しくないらしい。
身の丈も自分より上。挙句空からの攻撃手段と逃げる術を持つ相手と戦うのは不利だと言うのは誰よりもユーリ自身が知っているはずだ。
本当は命だって落としかねない。
それはユーリの同居人から聞いた話だったけれど。
「ねぇ」
「……うん?」
「怪我は酷いの?」
「そんなんじゃねぇよ? 少し……痛い位だ」
利き腕をひらひらと動かして見せるがぎこちない。
たぶん何てこともない顔をしているが痛みもあるだろう。妙な所で本当に気を遣わせまいとするユーリの性分が、結局こうやって彼に無茶をさせる。
「無茶はしないで欲しいって言ったよ」
自由奔放なユーリを縛ることは出来ない。
それ以前に住む世界も何もかも違って、ただ偶然、今一時、僕と彼の存在位置が交わっただけなのだ。
言い換えれば本当に奇跡なのだろう。そんな彼を僕が縛ることは出来ないし、何かを苦言する事も叶わない。
「そうは言っても、……無理だぜ?」
「ユーリ」
ぎゅっと僅かに袖を握ってユーリが笑う。
「だって、お前にとっては何てことも無くて危険じゃ無いものが、オレたちにとっては凄く危険だったりするんだ」
するすると境界線が引かれていく。
こうやって時間を共有しても決して越える事のできない境界線。それをユーリの言葉が引いていく。
「……本当は、こうやって」

――お前と話したり、仲良くするのも、危険かもしれないんだ。

彼らが暮らす世界には掟がある。
僕が知っている、生きるために必要な知識や常識と似たようなものが、全く知らない認識でユーリの住む世界にも存在している。
分かっている。知らないけど、理屈では理解出来る。
そしてユーリが、敢えて掟を破ってまで会いに来てくれている事だって知っている。
「ユーリ」
「……ごめん、言い過ぎた」
どう力の加減をして良いか分からず宙で静止した手にユーリが腕を伸ばす。
そっと触れてきて僅かに伸び上がるようにしてユーリは体重を預けた。小さな、本当に余りに小さな、その存在が嫌というほど確認出来て泣きそうになる。
「オレはさ、フレンのことが危険だなんて思ってねぇよ」
「……うん」
「ただ、オレがお前の世界が分からないみたいに、お前もオレの世界は分からないんだ」
そうだね、と言いたくは無い。けれど否定出来るものは何一つ持ち合わせていないのが苦しい。
危険が想像出来ないほど日常に存在するなら、払える分だけ払って守ってあげたいと言うことさえ出来ない。
一昨日の検査の結果もあまり良くなかった。
無理の利かない体なのは何より僕自身でしか有り得ない。
「出来る限り守ってあげるって」
「……え?」
「言えたら良かったのにな」
そんな行為に甘んじるユーリではないのは知っていても、自己満足でも、少しでも彼に振る危険を払えたなら良かった。
「そんなの、気にするなよ」
「違うよ、ただの自己満足だから」
労わるように僅かに手をさすってユーリが言うのに笑う。
満足に自分が動けないのなら、彼を危険に晒さないためにどこか閉じ込めてしまおうか。
ふとそんな気持ちさえ揺らいで振り払うように笑う。
不思議そうに見詰めていた瞳が細められて、やがて困ったようにユーリも笑った。


――そう、こんな昏い気持ちを君は知らなくていい。
  一時の限られた時間の、たった僅かな見逃された時間での触れ合いであるというならば。


>>ここら辺までくると自分の色が出始めてしまうな……と反省。かりぐらしパロ。
   フレンは、でも、良い子のはずです。たぶん。

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此処は思うがままにつらつらとその時書きたいものを書く掃き溜め。
サイトにあげる文章の草稿や、ただのメモ等もあがります。大体が修正されてサイトにin(笑
そんなところです。

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