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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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ねぇ、レイムさん。私と遊びませんか。
そうさらりと寄越された言葉に何も言えなかったのはいつもと違う、本当に悪意も演技もない表情だったからだ。
窓辺に佇む色素の薄い彼は今にも溶けていってしまいそうに支えが不安定にも見えた。
「……ザクス、何を?」
「いや、ね? ちょっと暇だから」
何を言う。
机の上には山積みの書類があって、今も自分のもの以外の書類を必死で片付けているところだ。何を持ってして暇というかと眉を寄せても仕方がない。
以前なら手伝えとも自分の分は自分でやれとも言えた。
今、それを彼に言うことは出来ない。見えていないものをどうやって始末させればいいのか分からない。
「嫌だな、レイムさん。そんなに私と遊ぶの嫌です?」
「違う」
「そうですかね」
「そうだ」
ふ、と。
紙面を滑らせていたペンを伸びてきた血色の悪い手に奪い取られる。ぽたりとインクが落ちて染みを作った。
「ザクス」
「……ね、レイムさん」
影が落ちる。顔を上げれば本当に血の気が余りない白い顔が間近にある。そっと薄い唇が言葉を紡いだ。あまりにもあまりにも悲しすぎて一瞬理解出来ない。
理解が追い付く前にと距離を取ろうとする腕を掴んで引き寄せて、机越しに抱き寄せると積み上がった書類が一斉に雪崩れ落ちる。
あーあと困ったように声が上がり、細い身体を抱き締めた腕に力を込めると子供をあやすように背に手が回る。
「例えですよ。例え」
「馬鹿を言うな」
小さく小さく溜息が落ちる。
とんとんと肩を叩かれて視線を向けると、目は見えていないはずの彼が真っ正面から深紅の隻眼でこちらを見詰めてきた。
ふと細められる深紅の瞳は宝石のように艶やかで僅かに焦点がずれる、それだけが彼の光が失われてしまっていることを告げている。
本当はまだ見ていたかったろうに。
痛みを与えられれば許されていない気がして助かると言った彼が望む言葉は残酷だ。
こんなにも鮮明に鮮烈に自分の記憶に、自分たちの記憶に入り込んで置いて今更、失うと理解しながらその温度を失いたくないと居もしない神に縋りそうな思いを抱かせて置いて今更、忘却を望む言葉を口にするなんて

「お前、本当酷いな。ザクス」
「……ええ。本当。どうしようもないですね」

泣いてはいけないと堪えた声は震えては居なかったはずだ。
けれど白い指先は眼鏡の下に滑り込み目尻を優しく撫で、そして……困ったように笑顔を浮かべる。
「私の我が侭なんて許さなくていいです。許さないで良いよ、レイム」
忘却なんて出来っこない自分を見透かして、言い聞かせるように言われた言葉もまた悲しい。


――ねぇ、もし忘れてくれるなら私のこと、忘れてくれませんか。



>>最新刊を読んだので久しぶりに眼鏡と帽子屋さん。
   この二人が好きすぎてつらい。

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