[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
初めて彼を見かけた時、それはそれは鮮やかな髪を翻して転がっていくので驚いたものだ。
今日もまた、彼は転がって、自身の身体は傷だらけで。
どこに向かうの? 終わりが見えないので、という彼をどうやって扱えばいいのか自分にはよく分からない。
本当は気になりもしなかったら、たぶんいつかは満身創痍になった彼が終わりを見つけて諦めたのだろうとは思うのだ。
だって彼は馬鹿ではなく、寧ろ聡い。
綺麗な深紅の髪なのに、彼は名前を灰と名乗った。
「ねぇ、まだ続けるんですか、アッシュさん」
「そりゃあ、続けなければ意味がないからな」
「寧ろそれ自体意味がないものに思えます、アッシュさん」
「そう思うんなら、付き合うんじゃねぇよ、お前も暇だな」
名前は余り呼んで貰えない。
どうしてかと思ったらどうにも名乗っていなかったらしい。
だから転がる彼に付き合いどさくさに紛れて名前を教えたら、少しだけ不思議そうに目を丸くして、その後笑った。
いつも真っ直ぐ前を見据えて、険しい顔つきをしてるから気付かなかったが、年相応の幼い笑みだった。
それから彼は時折、名前を呼ぶ。
不思議と自分の名前はすとりと転がらず地面に落ちるので、彼は矢張りこんな事を繰り返すべきではないと思うのだ。
「まだ、」
そう呟いた彼の腕には包帯が巻かれ、既に痛々しいくらい満身創痍。
何の為に? と投げかけた疑問はふと首を傾げ寂しそうに笑った彼に黙殺される。
今日もまた怪我を負うのは彼だけど、自分もまた苦しくてこれは息を止めるようだと、それは酷く曖昧に気付く。
もう転がれませんよと言うのは簡単で、彼の手を掴んでしまうのは簡単で。
しかし彼は何か不器用に繰り返す行為の中で、生きる意味を探している気がした。
「昔、馬鹿みたいにまだ良い子だった頃。……俺は居場所をとられた気がしてた」
生きる意味なんて、もう無いと勝手に絶望もしたと彼は言う。
まだまだ自分で掴み取る前に与えられていたかったのだと寂しげに言う。
それはそれは酷く叶わない、ささやかな夢。
痛みの中で、息を止める行為で、今日を全力で転がってぶつかることで、彼は不器用に生を実感する。
世界の片隅、整わない呼吸で無様に息をしてやっと自分の居場所を確認する。
「アッシュさん、もう……良いじゃないですか」
坂道を転がり落ちそうになる手を初めて引いて引き留めた。
誰も彼もが、彼を否定するだろうか。少なくとも自分はしない。
けれど少しだけ悔しそうに俯いて彼はまだ、まだ駄目だから、と弱々しく子供のように呟いた。
これ以上続けたら、きっともう彼は動けなくなってしまう。聡いから諦めると思っていたのは逆だった。
彼は妙に聡い故に刹那的に存在を確かめる方法に縋りついている。
本当は、本来なら、もっと穏便で温かな方法を誰しもが選ぶのに、拒絶が怖くて、過去が怖くて、一番無謀な方法で。
もう、居場所を確かめる為の方法を、こんな所に見つけなくても良いじゃないか。
転がっていく毎日の中で、誰もに触れずに生を実感するのは酷く酷く孤独で寂しい。
手を挙げてそのままで転がっていくのは、潔いけれど、でも自分は悲しい。
「アッシュさん、もう良い。ねぇ、止めましょう」
「まだ見えないって」
「もう良いよ、だってそれはそうしたって見えないんです」
頭を振った彼を、頑なな表情をもう本当、馬鹿だなと思う。
勝手に身体は動いた。抵抗する前に傷だらけで、おざなりに手当てされた包帯だらけの腕を引く。
少しだけ鼻につく消毒液の匂いは、不快感よりも愛しさが勝って自分も大概馬鹿だと思ってしまった。
だって傷ついてぶつかって精一杯生きた彼がいる何よりの証は、こんなにもこんなにも歪で拙い。
なんだって、もう、こんな。
「ね、」
腕の中に収めた彼は思ったよりも頼りなく、揺れた。
「そろそろ、疲れたでしょう。……ね?」
呆然と頷く、彼が流した涙は抱きしめてしまった自分からは見えず、ただ引き留めた彼は次の日から転がることはしなかった。
>>ローリンガールパロ。ギンジとアッシュ。
只の趣味です。
02 | 2025/03 | 04 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | ||||||
2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 |
9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 |
16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 |
23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 |
30 | 31 |
サイトにあげる文章の草稿や、ただのメモ等もあがります。大体が修正されてサイトにin(笑
そんなところです。
ブログ内文章無断転載禁止ですよー。