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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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今日は曇り空でマモノがたくさん出るのだろうと予測しながらいると、僕の横でいつもよりぼんやり歩いていたニーアさんが何を思ったのか首を傾げて言いました。
「なぁ、」
丁度良い高さの聞き障りのない声が僕かカイネさんのどちらか、或いはいつも一緒にあるシロに向かって投げかけられたので、少し前を歩いていたカイネさんが振り返ります。
しかしそれきり言葉はなく、結局痺れを切らす誰かがいるのだろうなと予測していると
「……どうして、みんなわからないことばをはなすんだろう?」
と謎の言葉だけが返されました。

――省略。
意味が分からず小一時間問い詰めたところで、全然趣旨の掴めなかったニーアの言葉を全員が理解するのには更に時間が掛かった。
簡単に言えばニーアは妹と生きるのに精一杯で勉強などと言うものをあんまりしてこなかった。だから文字が読めないということらしい。
しかし妹は本を読むことが好きだったと記憶していたので、識字率を考えても彼だけが少し特殊らしく、加えて昨日までは本当に何ともなかったので、カイネもエミールも首を傾げるばかりである。
「つまり」
「うん」
「ニーアさん、文字が読めないんですか」
正確に言うと会話に含まれる文字も読めない。簡単な文字は読めると言い返す彼に溜息を零すのは最早可哀想だった。
きっと一番切ないのは彼でしかない。
「でも待て。昨日までは普通に会話は成立していただろう?」
「……うん?」
「ニーアさん、いまのカイネさんのことば、どこまでわかりました?」
「えぇと”……までは、に? していただろう?”」
ここまで分からないなら寧ろいっそ清清しくて良いだろう。
「シロさん、あのですね、僕訊きたいことがあるんです」
「なんだ?」
「ニーアさん昨日、頭でもぶつけましたか?」
ふわふわと浮く本がくるくると回る様子は酷く滑稽だ。それを眺めて辛抱強く待つエミールに返ってきたのは一言。
「分からん」
「……あ、そうですか」
この喋る本のもったいぶった話し方は嫌いではないが時と場合によるらしい。今こそカイネにきっかり28頁ずつばらして貰おうかとも思ったが、事態は好転すると思えないので止めた。
何より少しでも話が出来そうな相手が残っている方が良い。
「それじゃ、ニーアさん? ぼくのことばはわかりますね?」
「わかる」
とりあえず本当に簡単な言葉なら読めるらしい。良かった。当面、意思疎通は出来る。
ただし非常に面倒であるのには変わりないのだが。
「……私は知らんぞ」
痺れを切らしたカイネを余所に首を傾げるばかりのニーアの様子は矢張り微妙に可哀想ではある。
「カイネさん、良いんですか?」
「昨日まで普通で、急にこうなったなら、明日には戻ってるんじゃないか?」
「明日になったら全く言葉が通じなくなってる可能性だってありますよ」
楽観的な感想を結論にして早々に面倒事から立ち去りたいカイネに、反対の可能性を示して引き留める。
流石に考え込む仕種で沈黙した黙っていれば美少女が、隣で意味も余り分かっていないのだろう首を傾げる青年を見遣り、見た目的には暢気な様子に苛ついたのか脛を思い切り蹴飛ばした。
痛さで声もなく蹲る彼の様子に純粋に可哀想とエミールは思ったが黙っておく。
完全な八つ当たりなので何か余計なことを言えば自分もされかねない。
「……では、どうするのだ?」
大分様子を見届けてから声を上げた喋る書物は、確かに現在の持ち主であるニーアの現状が宜しくないことを認識している。
このまま放って置いて良いとは決して言い難い。
「原因が分からない以上はどうしようもないだろうが、この」
カイネの形の良い薄い唇が罵詈雑言を吐き出す前にエミールが慌てて口を挟んだ。ここでまた喧嘩を始められても時間が無駄に過ぎるだけだと踏んだ咄嗟の判断だった。
「あ、待って下さい。あの、ポポルさんにお話を聞くのはどうですか?」


……
村に入るのは遠慮しろと言われた割りに適当な理由を付ければ案外すんなりと入れたので、早く用事を済ませようと訪れた図書館の一室で若い女性が首を傾げた。
僅かに眉を寄せたのを見逃さなかったが、今は構わないことにする。
「あら……、どうしたのかしら」
「あ、あの」
穏やかな口調に棘を含む女性の態度に背後でカイネが鼻を鳴らす音が聞こえ、エミールは首を僅かに縮める。
「ごめんなさい。村には入らない約束だったんですが、少し事情があって」
「ええ。分かってるわ。それで?」
笑顔が怖いので単刀直入、早く用事を済ませようと決心する。
説明は端的に、簡潔に、分かりやすく。
「ニーアさんが言葉を読めないと言って、会話もままならないんですが原因を知りませんか?」
呼ばれた名前に反応した青年が首を傾げたが、会話全てを理解出来なかったらしく口を挟むことはない。
突拍子もないエミールの質問に動じることなく赤毛の女性は、エミールとニーアを交互に見遣った。
そして「ああ」と合点がいったのか手を打つ。
背後の棚をまさぐり不透明な硝子の小瓶を取り上げ、あろう事か何も言わずエミールに差し出しながら女性は笑った。
「大丈夫よ」
器用に受け取った小瓶は思いの外重く微かに水音を立てた。
「ニーア? 矢張り無理をしたのね」
そして女性はぼんやりと黙って事の成り行きを見ていた青年の額に手を伸ばし、「駄目でしょう?」と付け足した。

「この子ね、熱が出るといつもこうなるのよ」

あっさりと答えを差し出して笑う女性と、頷いたのか首を傾げたのか分からない曖昧な仕種の青年を見遣りエミールとカイネは同時に溜息を吐いた。
ゆえに渡された小瓶は解熱剤だった。


>>漢字の読めない頭の弱いニーアさんのお話。
   最初にこれを書くあたりどうしようもない(苦笑)

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そんなところです。

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