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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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メールだぞ、と心地良い低音が告げる。黒髪を後ろで一つに括った青年は呼びかけても動こうとしない少年の様子に首を傾げた。
一回、二回。メールが来たことを告げた後青年は黙る。部屋の隅に蹲った少年がもぞりと動き、けれどメールは見ようとしない。
「……誰から?」
細い声が聞いた。
「ナンから」
簡潔に答えた青年に少年が唸る。
見ないのかという質問は答えが分かり切っていたので、青年は蹲った少年の隣に座り込んだ。
膝を抱える少年の表情は見えない。
「……”なんで、メール返さないのよ、馬鹿”」
「え?」
ふと、少年が顔を上げた。
「メール。オートリード機能付き」
「マナーモードにしておけば良かったね、ユーリ」
「ひっでぇ」
そう言いながら青年は気を悪くした様子もない。からからと笑う声に少年も僅かに笑った。
携帯が人型をとる機能は少し前から定着したものだが、少年は自分の携帯が彼で良かったと思う。
勿論、機種によっての個体差が存在しているのとカスタマイズ次第で基本性格に多様性を見せるのだが、彼は少なくとも少年が手にした時から余り変わらないような気がした。
「で、読まないのか、カロル」
「……そこまで言われたらね、怒らせたら怖いしね」
「未読メールは2件です」
「差出人は全部同じ?」
「勿論」
人型である部分と端末は別。差し出された端末を手にとって見た文面に笑いは出ない。
酷く情けない話、恋愛感情を持ってる女の子に慰められて心配されるなんて情けなくて仕方ないと少年は思う。
じっと画面を見たまま動かない少年が、困ったな、と呟いた。
本当に、実に本当に情けない話なのだ。
頑張っているつもりだが、いつも成績が悪く、今回の定期テストで赤点ギリギリ補修確実の点数を心ないいじめっ子たちからクラスメート全員に晒されてしまった。
その中に少年が密かに恋心を抱いていた少女も含まれていたわけで。
案の定、頑張り屋の彼女は眉根を顰めて少年を見詰めていた。
誰だってそうだが好きな人の前では格好良いところを見せたい。全く逆の状態に少年は泣きそうになるのを堪えて、何とか家に帰った。
もう本当に情けなくて仕方なかった。
「……ねぇ、ユーリ」
「うん?」
「ボクって情けないよね」
「……うーん。どうだろうな?」
立ち上がった少年が端末を突き返す。受け取った青年は同じように立ち上がって、幾分もしたの少年を見下ろした。
「でもさ、好きな子がちゃんと連絡くれたのに返さない方が」
俯いていた少年が顔を上げる。
「ずっと、情けない……よね?」
聞いてくる言葉は既に答えを出してしまっているようで、彼の携帯は笑って頷いた。
抑も携帯は持ち主の意見を、例えおかしいと感じても優先するように出来ている。挙げ句プログラムされた人格分の判断においても少年の答えは好ましかった。
「ユーリ」
つい、と袖を引く少年に青年は応えて身を屈める。
未だ慣れず少しだけ緩慢に耳元に口を寄せる少年が、「通話お願い」と言うのを携帯は黙って聞いた。


>>・思春期なんてそんなもの
   携帯擬人化。持ち主カロル、携帯ユーリ。
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此処は思うがままにつらつらとその時書きたいものを書く掃き溜め。
サイトにあげる文章の草稿や、ただのメモ等もあがります。大体が修正されてサイトにin(笑
そんなところです。

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