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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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石を削り出して出来た階段を上る。一段二段。肩に担いだ重い荷物はその度に肩に食い込んで痛い。
それでもユーリは気を取り直して一段二段と上った。登り切ったら角を左。突き当たりの家の奥さんは決まって野菜を数種類買ってくれる。
その足で三件隣の旦那さんに顔を見せれば、細々とした生活用品の買い足しを言い付かることがあった。
今日はその前にいつもは声を掛けられたことがない家で用命があったし、良い按配だ。
ふうと階段を上りきって息を吐く。
随分と風変わりなこの街に来た頃は、言葉も違う、何も違う、その環境で挫けそうになったが慣れてしまえば悪くはなかった。
確かにこうやって物を毎日売り歩くのは結構骨が折れる。
加えて、この街は掟が全てで、土地番を持たぬよそ者は言葉を発することが出来ない。
体も未発達で力もまだ無い子供のユーリが、言葉も話せないのは随分なハンデだったが、物覚えの悪い方でなかったのが助かって何とか日々のノルマをこなしていた。
一度に重い荷物を運べないなら何度も足を運べばいい。
持ち前の前向きさで、そう考えたユーリは確かに正しい。
とんとん、目的の家の扉をノックしてユーリは中から声が聞こえてくるのを待った。

抑も、ユーリにとってこの街は生まれた場所でもなければ、話す言葉も違う、謂わば異文化だった。
砂漠地帯にあることも相まって乾いた風は砂を含み、ざらざらと感触を伴うようだし、街を行き交う言葉もどこか遠くのお伽話のようだった。
擦れ違った女が着ていた服の裾の刺繍に括り付けられた鈴が、涼やかな音を立てる。
振り返ってユーリは首を傾げた。街の住人達は全員仮面を付けている。
それが掟だそうで、この街に奉公に出されたユーリもまた例に漏れず、街に初めて足を踏み入れた際に仮面を付けたのだ。
最初は制限される視界に戸惑ったし、人の判別は付きにくいしで、困ってばかりだったが慣れた今となっては何てこともない。
毎日与えられる仕事をこなす。
話せない、体も小さい、力もない、言葉も分からない。様々なハンデを抱えてユーリはこの街で半年を過ごした。
今では行き交う言葉の殆どが理解出来るようになり、生活にも慣れ、言葉の話せない状態での意思疎通も出来る。
「やあ」
やっとのことで階段を上ったというのに、目当ての家での売り込みが終わり、また階段を下り始めた小さなユーリの背中に声が掛かった。
誰か物入りで呼び止めたのか、と以前のユーリなら思っただろう。
でも分かる。違う。
声を掛けてきた人物をユーリは、それこそこの街に初めて足を踏み入れた時から知っている。
「仕事、終わりそう?」
階段の上、仮面を付けた自分よりも幾分か背の高い少年が問う。僅かに仮面をずらしてみせる少年にユーリは首を振った。
まだ籠には少し果物が残っている。それを見て取ったのか、軽い足取りで籠を覗き込んだ少年が笑ったようだった。
「僕の好物ばっかりだね。買うよ」
そう言ってまだ肯とも反応を示す前にユーリの手に代金を支払って、少年は自らが持ち歩いていた袋の中に果物を詰めてしまう。
じっとその様子を見てユーリはひっそりと溜息を吐いた。
この相手と言ったら物腰は柔らかな癖に、時に酷く強引だ。
全部を詰め終わるのを見守って、立ち上がった少年がユーリの手を引く。
「行こう、ユーリ」
そして腕を引かれるが侭にして、ユーリはすっかり軽くなった籠を手にしたまま階段を駆け上る羽目になった。

「最近、母さんの具合が悪くてね」
砂の海に太陽が引っ掛かり、全て金色に染まる景色を見下ろせる高台にまで歩いてきて、漸く少年はユーリの手を離した。
首を傾げたユーリに少年が笑う。
「これだって僕より母さんの好物なんだ」
先程果物を詰めた袋を持ち上げ、少年はユーリを手招きする。
初めてユーリがこの街に来た時、まさか言葉を発してはいけないと知らず声を上げ雇い主の男を怒らせてしまったことがあった。
よく分からないまま自分はもしかして捨てられるかも知れないと愕然としていた時、助けてくれたのが目の前の少年だ。
この国の言葉ではなく、ユーリの生まれた時より知っていた言葉を片言ながら使って少年はユーリが言葉を話してはいけないことを教えてくれた。
その後も、分からないことがあったら教えると言った通り様々なことを教えてくれた少年は、仕事途中のユーリを見つけては度々この場所へ連れてきた。
街も外の砂漠も一望出来る見晴らしの良い場所は少年のお気に入りらしい。
身軽に塀に上り腰掛けた少年は、けれど今日ばかりはユーリの目に寂しげに映る。
胸まである塀に肘をついてユーリは少年の手を突いた。
ん、と声だけが上がり、少年は顔をユーリには向けない。
話すことが許されてないユーリが意思疎通を図るには身振り手振りで言葉を伝えるほか無いのを知ってるのに、少年は此方を見向きもしなかった。
本当は、声を掛けられたらいいと思う。
こんな時、名前を呼べたら良いのだろう。
別に喉が潰れた訳ではないから声は出る。でも出せない。それがこんなにももどかしい。
「ユーリ?」
そっと塀に付いた少年の手にユーリは両手を重ねた。それだけで何も出来ない。
落ち込んだ声で母の調子が悪いと言ったからには、本当に具合は良くないのだろう。前々から病を患って居たのは知っている。
家族思いの彼が気に病んで落ち込むのは仕方の無いことだ。
ぎゅっと手を握ったユーリを不思議そうに見返した少年が、ユーリの意図に気付いたらしく気の抜けた小さな笑いを零した。
僅かに震えた指先を握って、ユーリは此処に来て一番悔しいと思った。
多少強引さはあるけどいつでも助けてくれた少年の為に、自分が出来ることはない。
ただ名前を呼んで元気づけることさえ出来ないなんて。
項垂れて塀に額を付ける前に、当たり前だが仮面がぶつかる乾いた音がした。
「……ユーリ、ありがとう」
頭上から消え入るような声が届き、身動いだユーリの頭に少年の手が触れた。数度撫でられてユーリは泣きそうになるのを堪える。
必死で堪えて、誰にも聞こえないよう、隣の少年にも聞こえないよう、少年の名前とこの国の言葉で礼を呟いた。


>>NieR仮面の王とフィーアパロフレユリ。
   誰得なのか最早分からない代物^q^;; 一応リクに答えた形(笑

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此処は思うがままにつらつらとその時書きたいものを書く掃き溜め。
サイトにあげる文章の草稿や、ただのメモ等もあがります。大体が修正されてサイトにin(笑
そんなところです。

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