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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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きゃっきゃと声を上げてはしゃぎながら駆け回る子供を尻目に、のんびりとした昼下がりの様子をユーリは眺めた。
水道魔導器がさやかな音を作り上げる噴水に腰掛けて温かな光景に目を細める。
遠くで子供の名を呼ぶ、一対の声が聞こえた。
弾かれたように振り返った子供が路地の向こうに手を振って、そして踵を返し勢い良く走っていく。
ユーリの手前に差し掛かった時、石畳の僅かな段差に蹴躓いた子供の姿勢がぐらりと前のめりに倒れた。
慌てて腕を差し出したユーリに子供の体重がかかる。
どさり。
利き手に下げていた剣が同時にからりと固い音を立てた。
「……大丈夫か?」
転び掛けたことにも、突然横から差し出された腕にも、そして直後に上がった音にも驚いたのだろう。きょとんと目を丸くしていた子供が、自分とユーリを交互に見て放心気味にこくこくと頷く。
路地の方から足音が駆けてきていた。
子供を先に立たせ、自分の僅かに汚れてしまった服の裾を払ってユーリは子供がまだ若いといえる年回りの男女の元へ掛けていくのを見守る。
ここからでは聞こえないが、指を差しながら何かを言う子供の頭を撫で、二人は同時に頭を下げた。
それに手を振って応え、ユーリは自然と詰めていた息を吐き出す。
手元から僅かに離れた愛剣の鞘を引っ張り、引き寄せ立ち上がろうとして横から差し出された手に苦笑した。
「いつからいたんだよ」
躊躇わず手を取って立ち上がると、案の定見慣れた金髪が揺れる。
「子供が転びそうになったのを助けたあたりから」
「……あのね」
普段着込んでいる甲冑や騎士服ではなく、ラフな平装に身を包んだフレンは僅かに笑んだ。
騎士団の仕事に忙殺されながら、こうやって外に出てくるのは容易ではない筈なのに何でもないことのようにやってのける。
腕を引き促され、噴水にまた腰掛けながらユーリは先程の親子が歩いていく路地を見遣る。
「なに?」
じっと視線を定めたままのユーリの様子にフレンは問う。それに曖昧に相槌を打って、先程子供を庇った手を看ていたフレンに視線を移した。
気遣わしげに傷が無いかを確かめる手を、指先で軽く叩く。
上げられた視線を絡めて、そういえばこの瞳の色は父親譲りの色だと思い出す。
「大丈夫。怪我してねぇから、お前も座って」
「でも怪我が残ったら。君は一応女の子なんだし」
「大丈夫だから」
念を押されて観念したのか、ゆっくり手を離したフレンが隣に腰掛けた。
二人が押し黙る沈黙は路地のそこかしこの談笑に埋もれていく。
「なぁ、フレン」
「……ん?」
「思い出したんだけどさ」
「何を?」
「オレ、お前のとこの両親好きだったなぁって」
そうなの、と聞き返すフレンにユーリは笑う。
幼い頃から両親の居ないユーリにとって、フレンの両親は憧れそのものだった。
騎士だった頼りがいのある父と優しくて暖かい母。フレンの家に遊びに行った時、二人はよく寄り添って優しく笑い合っていた。
なんて温かいのだろうと幼心に思っていたものだ。
「良いなぁって。いつかオレもあんな風に家族を作れるかなって考えたことがあったよ」
しみじみと言うユーリの視線が、真ん中の子供を手を引き歩いていく男女二人に止まる。
遠くなっていく背中をどこか憧憬に似た響きで語る幼馴染みの顔をフレンはまじまじと見詰めた。
男勝りな性格と口の悪さが相まって、どちらかというと印象では薄れがちだがユーリは綺麗だ。
日に焼けても白い印象の肌と引き立てる漆黒の髪、整った顔立ちは黙っていれば通りすがった異性が気にして目に留めるほどには。
「ねぇ、ユーリ」
うん? とぼんやりとした声に、ユーリの利き腕を引く。
咄嗟のことに姿勢を崩したユーリを抱き留めて、次にユーリが口を開いて文句を言う前にフレンは耳元で囁いた。

「だったら、僕と目指してみる?」

何を言われたのか理解が追い付かず瞬きを繰り返したユーリが俯く。
馬鹿、と小さく呟き、くすくすと笑みを含む声にフレンはユーリを抱き締めた腕に力を込めた。

>>11月22日はいいふうふの日!ってことで書いたふれにょゆり。
   私の技量では男でも女でも変わらないユーリちゃん涙目。くそぅ。

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此処は思うがままにつらつらとその時書きたいものを書く掃き溜め。
サイトにあげる文章の草稿や、ただのメモ等もあがります。大体が修正されてサイトにin(笑
そんなところです。

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