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詩がある。声がある。音がある。――全てが、そこで合う。
瞬間息を吸い込む、あの独特の緊張は嫌いではなかった。変に本番に強い方だったし、何より歌が好きだったから。
気付いたら光の洪水かと錯覚するようなステージの上にいて、おかしいと内心笑ってしまったことだってある。
ただ自分の好きなことをやってきただけ。そういう言い方は良くは思われないかも知れないが、それで気付いたらユーリは”歌姫”の座を手に入れていた。
(面倒臭いの、な)
目深に被った帽子に遮られた視界で、街中を眺める。
一番最初に目に留まったショーウィンドーにはすっかり秋めいた今年流行のワンピースを着たマネキンがいた。
流石にサングラス着用とまでは行かないが顔が極力隠れるようにした今の格好は不本意だ。
何分全てに置いて自然体が信条である。
ごそりと色々詰め込んだトートバックに手を突っ込んで、手帳を引っ張り出す。
次の予定まで3時間。ふらふら買い物をして時間を潰すのには丁度良い。
そういえば見ておきたかったとカントリー風の雑貨が並ぶ店に入った。
店内をぐるりと見渡し、そろそろ誕生日の近い友人へのプレゼントに丁度良いかと木目の柔らかな風合いのアクセサリーケースを手に取った時、ふと店内を流れていた音楽が変わる。
聞き覚えのあるイントロに自然と顔を上げた。
不思議な話。
自分の歌がそこかしこ街で流れるのは未だに慣れない。
「あ、この曲好き、いいよね」
「新しい曲? 初めて聞いた。良いね」
店内で買い物をしていた女子高生が一人、歌に気付いてそう言う。隣を歩いていたもう一人が相槌を打った。
視線を下げて手元に視線を落としながらユーリは少女達が後ろを通り過ぎる、その会話をこそばゆく聞く。
なんか恋愛してるって感じ、と言われて少しだけ笑ってしまう。
そうじゃないんだけど、とは独り言でも言えない。
恋愛の歌じゃなかった。単に友愛を歌ったのだけど、それでも聞く人が聞けばそう取れるらしい。
アクセサリーケースをレジに持っていき放送されるのを待ちながら思い出す。
ついこの間、作詞をしている際に言われたことがあった。
とてもとても不本意だが。
――ユーリちゃんさ、恋したことある? 一目惚れとか。いや……どちらかというとされるタイプなのは分かってるけど。
(もっときらきらしてても良い、か。……おっさんの言うことよく分からないんだよな)
自分のマネージングをする中年の男が言った台詞はとてもじゃないが容姿とはかけ離れていて、その時は笑ってしまったのだが。
確かに恋なんてしたことない。いや憧れた先輩とかは居たこともある。でも、一目惚れなんて経験はない。
(つーか、抑も今時一目惚れなんてあるか?)
綺麗に包装された箱を受け取って、ユーリは店の扉を開け。
――考えに耽っていたのがいけなかった。
「……え?」
ごつん、と鈍い音と感触が手に伝わり思わず声を上げる。
扉を見て、その先で動いた金色に思わず目を留めた。
痛いと小さく上がった声は学校の制服を折り目正しく着込んだ、いかにも優等生と言った様相の男子学生のもので。
声を掛けようとした瞬間、その学生が顔を上げる。
綺麗な色がそこにあった。
空というよりは空の色を映した海の青。髪は陽光を織り上げたような柔らかな金色。
眼鏡をかけてはいるが嫌味な感じを一つも与えず、真っ直ぐに見詰めてきた瞳にユーリは声を飲み込む。
「……あ、」
「大丈夫ですか?」
耳通りの良い声、と思う。間違いなく自分の不注意で扉をぶつけられた方の学生は気遣わしげに、動かないユーリを首を傾げて覗き込んだ。
「あの、」
「ぅ、だ、大丈夫ですっ。……というより、あんたこそ、大丈夫か?」
近づいてきたおかげで分かる。癖毛の前髪に隠れた額が仄かに赤く染まっている。
間違いなくぶつかってしまったと伸ばしかけた手が、金色の前髪に触れた瞬間我に返った。
全然知らない人間に不用意に、こんなこと。
「ごめ、」
「大丈夫ですよ。少しぶつかっただけで、怪我もしてませんから」
慌てて手を引くユーリに、男子学生は笑う。
にこりと柔らかな笑みに何故か理由も分からないまま、心臓が跳ね上がった。
店の出入り口で立ち往生するわけにも行かず何とかその場から退いて、ユーリは深々と頭を下げる。
「本当、ごめん……! 少し考え事をしてて」
「いえ。本当に大丈夫ですから。それより貴女の方こそ大丈夫ですか?」
問いにユーリが今度は首を傾げた。
何も心配されるような事はなかった。顔を上げると純粋に心配する表情を浮かべる学生と視線が合う。
「怪我とかは」
「してない……、です。全然平気」
緩く首を振ったユーリに「良かった」と告げた学生が、ふと気付いたように時計へと視線を移す。
そして一度困ったように視線を巡らせてから、ユーリに視線を戻した。
「あまり考えに耽ると危ないですから、気をつけて」
それだけを言って、踵を返した背中に声をかけようとして思い留まる。
先ほど彼が視線を移した時計に目を向けると、自分もまた時間が少しずつ迫っていて、半ば駆け足でこの場を去った学生を追いかける事は躊躇われた。
彼の髪にほんの少しだけ触れた、指先を見下ろす。
跳ね癖のあった髪は色に似て柔らかかった。
(あれ、なんだ、この気持ち)
自然と頬に集まる熱は、時差を伴ったらしい。
(まさか。……そんなこと)
指先を軽く握ってユーリは目を瞑る。もしかしなくてもそんな馬鹿なこととも思えず。
そして多分間違いなく、次に書く歌は恋の歌なのだと知った。
>>ツイッタでお世話になってるKさんちの歌姫パロふれゆり。
典型的な少女マンガ風を目指して撃沈したorzorz
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サイトにあげる文章の草稿や、ただのメモ等もあがります。大体が修正されてサイトにin(笑
そんなところです。
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