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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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笑った。
そいつは事もあろうに、ただ笑ったのだ。
穏やかに享受する意味合いを込めて、「殺してやろうか」の一言に笑いやがった。黒い影は見えない。
彼には未だ、見えない。
なればまだ死ぬ時ではないのだ。彼は死なない。良くも悪くも今は死ねない。
「馬鹿」
それだけを呟いてエレフはそっぽを向く。小さく笑い声だけが聞こえた。「そうだね」と相槌も追って聞こえた。
自分より幾分も年上であろう男は何も言わずとも育ちが良いのだろう、何かにつけて仕草や表情でそれを垣間見せる。
本来ならば肩を並べて話す人間でもないのだろう。
剣を取り、立ち上がり、身分など切り捨てたが故に手に入れた一時の権利。
頭の端で昔から聞こえる聞きたくもない声が言う。
「どうせそれも喪われるものだ」「苦しいのは息仔、お前なのだ」と、言い切られた気がした。初めての断言であった。

「煩い」
「…何?」

思わず口から出た言葉に彼が不思議そうに首を傾げる。「何でもない」と告げた。一人言と似たようなものだ。自分にしか聞こえない声に苛立ちと憎しみと反発を抱いて反論することは、周りから見れた盛大な一人言に過ぎない。
長年のことにすっかり言い訳も板が付いたエレフが頭を振って答えれば、しかし彼だけが今までの人間と違った反応を見せた。
「顔色が悪い。どこか具合が? それとも私が何か不快にしただろうか」
先程の問いに対して、あの反応だ。確かに不快な思いを抱く人間もいるだろう。
そろりと伸ばされた手がエレフの長い前髪に少しだけ触れ、労るように払われて、その後は躊躇いも何もなく額から相手の体温が伝わった。
少し低めの暖かい温度だった。
「…あのなぁ」
「熱はないみたいだね。良かった」
そう言って笑う彼に先程の刹那的な雰囲気は見えない。ただ優しい気遣いにエレフも暫く無愛想を貼り付けていた表情を緩めた。
広い世界で離れ離れとなった手。その手を掴んだ時には冷たく、きっともうこの暖かさには触れられないと思い込んでいた。常に死の影を見る先天的な能力も間接的にそれを手伝った。
エレフは笑うことも何もなく、ただ妹を殺した世界と運命を呪ったのだ。
魂の片割れ。残酷な運命が引き裂いた別れを、未だに渦巻く残酷な運命の連鎖を断ち切るために剣を取った。
だからこの暖かさは確かに自分にしか聞こえないあの声の言う通り「一時のものでしかない」のだろう。
「子供扱い、するな」
額にあった手を振り払いながらエレフは少しだけ泣きたかった。暖かさは残酷な世界では優しすぎる。
払われた手に一瞬きょとんとした年上の男の笑顔も優しすぎた。 


何故、名前を聞かなかったのだろうかと思う。
聞けばどうにかなっただろうかとも思う。
結局運命が全てを残酷に廻していく世界なら仕方ないのだ。しかし享受など出来ない。
暖かさも全てを奪うそれを「仕方ない」で済ますことなど出来ない。
嫌だと死んだ奴隷仲間がいる。泣きながら押し潰された人間もいる。
言葉もなく優しい笑みを浮かべて犠牲となった妹がいる。目の前に現れた男もまた、間違いなく犠牲者なのだ。
糸に絡め取られている。縦糸、横糸、世界を織りなす大きな存在に誰もが絡め取られ、逃れられない。
「名前を聞いておけば良かった」
そうしたら、誤魔化された名前でも呼べた。
喩え一時でも、もう少しだけ違った何かを手繰り寄せられたかも知れなかった。

「……ミーシャの、仇」

抜いた剣。構えられた槍。
驚いた表情は一瞬。結局憎しみは消えないのだ。世界で、運命を憎むエレフの前では一時の温もりでは深淵の絶望を拭えない。
エレフの瞳に映った暖かな笑顔を持つ人にも死の影が付き纏う。負けることがないのを知って、何故か哀しかった。


残酷な《運命》の統べる世界で、その渦中でエレフはただ泣くことさえ出来ない。
「《運命》よ、これが」


―――貴柱の望んだ、




>> タイトルの通りを思って考えついたネタ。
    今年初めての話がこれとか暗すぎて笑えます。SHなのも笑えます^q^

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そんなところです。

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