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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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誕生日はいつ、と何の気兼ね無しに聞かれたことがある。
駆け引き無しの純粋な問いに弱いと内心苦笑しながら、さてどうしたものかと考えた。本当のことを言っても差し支えはないだろう。ならば嘘を言う必要もないか。
「10月31日です」
「ハロウィン? 何だか出来すぎだな」
そう笑みを零した月に曖昧に「そうですね」と答えた竜崎は内心笑う。
甘いものしか食べぬ嗜好にハロウィンと来れば出来すぎの嘘だと感じるだろう。当たり前のことだ。
二人の会話を横で聞いていた松田が本当の誕生日はいつだと聞くので、それも上手くはぐらかして、結局Lというのは誕生日も教えてはくれないという結論で落ち着く。
それも当たり前に取れる行動なので竜崎は曖昧な返事で肯定も否定もしなかった。
全て相手が取る通りに、疑うのなら疑うままに、そして会話を打ち切る。

―さて、それはいつのことだったか。

 

”L、日本捜査本部の皆さんから荷物が届いておりますよ”
通信を知らせる電子音にモニターを振り返れば、自動的に開かれたメッセージの文面はこうであった。
差出人はワタリで嘘を吐くわけもない。
「……みなさんから、ですか…」
別段何かあっただろうか。改めて送られるものなど何もないはずであったが。
『L、部屋の前に運んでおきましたから確認して下さい』
今度は文字ではなく音声が流れた。優しい言い聞かせるような声音に、親指で下唇をなぞりながら竜崎は視線を天井に浮かせた。通信越しの声は何だか楽しそうでもある。
「分かりました、ワタリ。確認します」
ぺたぺたと裸足で部屋を移動して扉を開ける。確かに部屋の目の前に積まれた箱が何個か。
一番上にある箱をまじまじと竜崎は見遣った。季節柄かオレンジの飾りの付いたリボンが掛かっており、それを指先で摘むと僅かに衣擦れの音と共にリボンが解ける。
包み紙は無く、しっかりとした作りの箱の蓋を開ければ小さめのタルトが現れた。
赤い実は美味しそうに艶やかに光り、ちょこんとその上に乗せられたプレートが…、
「……ワタリ」
竜崎は思わず回線を繋いだままの相手へ、言葉を投げかけていた。
『はい、何でしょう?』
どういうことか、と訊こうとして止め、指先に少し付いたクリームを舐め取った。程良い甘さが口の中に広がる。美味しい。
積み上がった全てに甘いケーキやらお菓子が詰まっているのだろうか。
タルトの上に乗っていたプレートと同じような言葉が添えられて。
『お茶を用意いたしましょうか?』
全て見越す提案が為される。平素通りの丁寧な口調には矢張り楽しさや嬉しさに似た感情がある。
何分長いこと共に仕事はしていない。
「……、そうして下さい」
長く息を吐いて開けてしまった一番上の箱を抱えて竜崎は部屋に戻る。
画面の前には通信を示す一文字のアルファベット。
『畏まりました』
「それと、」
『はい』
「下に皆さんも居るんでしょう? 私も其方に行きます。申し訳ないですが荷物は運び直して下さい」
返事は待たなかった。
ぷつんとモニターの電源を切って、腕に抱えた箱はそのまま部屋を後にする。
竜崎の行動を何もかもお見通しの通信相手は今頃手際良くお茶の準備を始めているか、それか既にもう為されているのかも知れない。
器用にタルトを摘み上げて口に運び竜崎は笑んだ。
下の階へと移動しながら口の中の甘さを味わう。一つ、タルトの上に鎮座していたプレートを一度じっと見詰めてそっと独りごちた。
「何だか慣れないな。こういうのは」

 

竜崎が下の階に着いた頃には一体どんな早業を使ったのか。部屋の前に積み上げられていた荷物も全部揃っていた。
カートに人数分のお茶を運びながら紳士然とした初老の男が笑う。
「皆さん、お待ちでしたよ」
随分遅かったですねと誰かが言い何故か全員が笑顔なのに、一瞬目を丸くした竜崎がにやりと笑った。
出来過ぎた誕生日ならどうせ嘘と取ったとばかりに思っていたのだが。
「月くんがね、竜崎の誕生日は10月31日で間違いないと思うって言ったんです」
お喋りの松田がにこにこと答えを容易く与えた。何故とは聞かず、ワタリのお茶の用意を手伝う青年を見遣る。
視線に気付いたのか視線を上げた月が、音にせず唇の動きだけで何か伝えた。
それはタルトのプレートと同じ言葉。

”お誕生日おめでとう”

 

<追記>

「ところで、月くん」
竜崎の誕生祝いの筈が既に勝手に酒を飲み盛り上がり始めた面々から、少し離れて避難していた月の隣にたくさんのお菓子を盛った皿を持ちながら移動してきた竜崎が声を掛ける。
「うん?」
「どうして、分かったんですか?」
皿の上のいかにも甘そうなお菓子を摘んで口に放り込みながら竜崎は問う。
その質問に月は「ああ」と頷いた。
「あの時、お前は嘘をついてなかっただろう?」
さらりと宣った言葉を疑うように竜崎が視線を向けてくる。
「…そうでしたか?」
「ああ、そうだったよ。だって意味もない。だから嘘じゃないと思ったんだ」
嘘つきなのはお互い様だが、余り意味のない嘘を竜崎は吐かない。本当とも嘘とも言わぬはぐらかし方を月は真実と取った。
「私、嘘吐きですよ? まぁ…。こうやって怒られもせず甘いものを食べられるので良いですけど」
ぷいとそっぽを向いて皿の上に積まれた甘味を平らげ始めた竜崎の姿に月は思わず笑う。
それは肯定と一緒だ。
「ああ、そうだね」
素直になれない、その素直さに月はもう一度、今度は声にして祝いの言葉を口にした。




>>Happy  Birthday !!  L.Lawliet

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そんなところです。

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