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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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手を伸ばす。夢の中で絶対に駄目だと何度も再三言われ続けて、求めてはいけないのだと何度も何度も諭された。それは自分が思い出すだけの行為だったのだろうか。それとも何か外因があったのだろうか。分からないけれど、声は良く聞こえていた。
遠く近く距離はいつだってまばらに、でも理解して欲しいと真摯な響きで、この耳にいつだって届いていた。
記憶では、その声がする方に手を伸ばせば冷たいと心配になるような温度があったのに今は触れることさえ叶わない。
どうして? どうしていなくなったのなら。
こんなにも声は聞こえて、あの時確かに姿は実像を結んだのだろう。
追いかけて求めないで欲しいと言われても、残像はいつだって自分を呼ぶばかりでこの感情が何であるのかなど分からないままで、純粋に思うのだ。

――会いたい。

感情を見失ったままで、そんなに単純な事だったのかと思い至った瞬間ふと笑ってしまう。
違う。分からなかったのではなくて、知っていたではないか。少しだけ困ったように笑って初めて背中に寄りかかられた時に、ちゃんと自分はこの気持ちを理解していた。
掛替えのない存在だったのだ。友人という枠を超えて、たぶん一人の人間として好きだった。


   ...手を伸ばして、君に届く


「何とも可笑しな話ですけど」
その日、困ったように首を傾げたブレイクはレイムに話を切り出した。外はとても良い陽気で書類なんて放って庭で昼寝をしてしまいほどである。そんな中、珍しく書類を片付けて部屋に来たブレイクがぼんやりと言ったのだ。
「私はね、レイムさんにだけは敵わない気がするんですよネ」
掴みどころも、行動も、いまいち読めない人間だが、確かに本質は心得ているつもりだとレイムは思いつつ「何故?」と問い返す。
その声にブレイクが首を傾げた。
「分からないんですけど、なんかそう思ったんですヨ。レイムさんは凄いなぁ」
言葉の意味が良く分からない。
レイムが得意な事と言ったら事務処理くらいで、特段優れた所など見出せない。彼に「凄い」と言って貰える様なところは何一つ持ち合わせていないように思えた。
パンドラ構成員の中でも指折りに入るだろう優れた戦闘力は、全て彼本来の力によるもので、普段はとぼけているが優れた観察眼だって彼は持ち合わせていて、何も敵う所など自分にはないのだ。
それなのに彼は屈託も無い言葉で敵わないと言う。
体良くいつもあしらわれるだけのレイムに彼が敵わないと思うことがあるなんて思っても見なかった。
「ザークシーズ、疲れてるんだろう? お前」
「うん? なんでそうなるんデス?」
色々と考えてはみたが自分では答えなど出せる筈も無く、変なことを言うのは相手の体調が悪いのだろうと踏んだレイムに、それこそ不思議そうにブレイクは目を細めた。
そして気付いてしまった、とばかりに小さく笑う。
「あのねぇ、レイムさん」
とん、と机に手を置いて顔を至近距離で覗き込まれる。隻眼の鮮やかな瞳が真っ直ぐに見据えて、冷たいばかりの指先が寄った眉間の皺をつついた。
「別に嘘でも、困らせたくて言ったんでも、無いですからネ?」
「あのな」
「……ただそう思ったってだけで、そうなんだなぁって受け取ってくれたら良いんですよ」
溜息を吐いたレイムににこりと笑ってブレイクは詰めた距離を離した。
「ザクス……」
「つまりはネ? レイムさんは私にとって大切な友人だ、ってそういうことです」
その言葉は酷く飾り気が無く、虚実も無く、簡素だった。きっと彼の本質に近いところで告げられた言葉だと感じて、レイムは相槌を打つことしか出来ない。レイムの心中を察したのか少しだけおどけた口調で「何ですか、つれないですネェ」と宣ったブレイクがくるりと踵を返す。
片手をひらりと振って部屋を出て行った後姿を呆然と見送った後、まるで告白のようではないかと思い至って俯いた。
彼がレインズワースに保護されてから、彼の過去を詳しく聞いたりする事はなかったが、彼が極力人との係わり合いを持とうとしていないのを感じ取ってはいた。寧ろ必要が無いと切り捨ててしまっていると言ったら良いのか。
対面的に接する事はあっても、自分から誰かに歩み寄ろうとすることをしない。
そんな彼が自分を友であると言う。それ自体、彼にとっては特別な事なのだろう。
だから普段言わないようなことをさらりと口に出して、それこそ羽の様な軽さで言ったくせに、自分だけで意味の重さを背負ってしまうのだ。いつだって、たぶん。
何に於いて彼に敵うのかなど知る由もないが、ならば自分は彼にとって気づいたら体を預けられる存在に為り得たなら良いとレイムは思う。
口を噤み、背負うものの重さを誰にも悟らせないならば。
何も聞かず倒れそうなときに支えてやれたら良い。彼の想いにそう応えたいと思うのだ。

――でも結局、自分は彼にとって多少なりの支えと為り得たのだろうか?

前触れも無くいなくなってしまった友人に問いかけようにも、術もなければ返される言葉も無い。
また夢を見ていた、と薄暈けた視界の中でレイムは思う。
意識が落ちては夢ばかりを見て全然休めた気がしない。心配と迷惑を主だけではなく他方にかけているのは感じ取っている。
自分の状態は自覚が無いだけで決して良くは無い。過去に捕らわれているのか、願望に取り付かれているのか、或いは両方かもしれなかったが、チェインにとって付け入る隙のある格好の餌なのだろう。
だから彼は「追いかけず求めず、手を伸ばさず、ただ受け入れて欲しい」と願ったのだ。
子どもっぽい言動ばかりが目立つように振舞った彼は酷く大人で、自分のことを良く知っていたのだと思う。
きっと自分の気持ちにも気付いていた。だからあの時掴んだ手を振り解かずに受け入れてくれた。
「……、そうか」
自分は前から友人の枠を超えた感情を持っていて、きっと相手はそれを知っていて、それでも振り払いもせず離れもしなかったのなら、彼もまた同じ答えを持っていたのかもしれない。
知っていたから「忘れて欲しい」と聞こえない声で呟いたのだろう。届いていた、その言葉をやっと理解する。
途方も無く情けなく、馬鹿だと思い至ってレイムは笑った。可能性全てが現実へと繋がるように、不鮮明だった自分の立ち位置が明瞭になっていく感覚を覚える。
何度も聞こえた声はきっと自分が見せた記憶の再生ではなく、彼が存在して言い聞かせるように呟いてきた言葉なのだ。
そうでなければ鮮明すぎる訳でもない記憶が何度も繰り返され、鮮明さを増す筈がない。
「私もお前も不器用なんだな」
自然と笑みが落ちた。微かに夜闇の静寂に支配された時間の中で揺れる気配を感じて外套を羽織る。
求めない声であったから気付かない振りをしていたが、ずっとそれらの声はレイムに届いていた。
そんなものからも守られていたのだと振り払うように宵闇の支配する室外へ足を踏み出した。



***


一つ、二つ、三つ。
着地をした足を軸に体を反転させて、感性に従ったまま杖を振るった。背中まである銀糸が宙を舞いさらりと肩に掛かる。
ざらりと砂のように崩れ落ちる異形たちを見下ろして”イカレ帽子屋”は帽子を被り直した。
そこに近寄る足音に眉を寄せる。振り返りはしなかった。
「……ザクス」
呼ばれる声に反応してもいけない。姿も見せず、本当は悟られる事もしてはいけなかったのだと分かっている。
近寄ってくる気配がその手を伸ばす前に、
「私はお前の支えとなれたのか分からない」
触れてしまう前に姿を消さなければと思った途端、投げられた言葉に動けなかった。心地良い声は障りが無く飾り気も無い。
実直な彼の性格が酷く滲み出ていて、それ故に揶揄する時の頼りなさとは裏腹に回転も飲み込みも良い彼が想像しうる可能性全てを引き結んで、現状を把握したのだと理解した。
「……お前はいつだって私を助けてくれたのに」
それは違う、と反論しそうになる言葉を飲み込んで”イカレ帽子屋”は闇に紛れるため一歩を踏み出した。
かつんと靴が硬質な音を立て静寂の中浮かび上がる。
「”イカレ帽子屋”」
背中から今度は今与えられている名が呼ばれる。引き止められてしまうが故に、そして今の自分を知られたくなかった故にレイムには決して呼ばれたくなかった名を彼の口が紡ぐ。
「今も助けてくれたんだろう?」
けれど声は”イカレ帽子屋”として存在するものの本質を誤ることなく捉えている。
違う名を呼ぶくせに前と変わらぬ温かさで掛けられる言葉に”敵わない”と思った。
いつだって彼は、自分が誤魔化し紛れさせようとする本質を見抜き、見誤らずに受け入れてくれていた。それに何度と無く救われてきたかは分からない。
何もしていないという彼が、そこに在って接してくれる事が何よりの支えとなっていた。
一歩も動けなくなった”イカレ帽子屋”の手をレイムが掴む。確かに触れて、そしてゆるりと視線を上げ肩越しに振り返った先で笑う。
「やっと触れた」
笑う彼にどう反応して良いのか分からず視線を彷徨わせた先、彼の後ろで蠢く異形を見る。影は一つだけではない、――数が多い。
手を振り解こうとした瞬間、凛とした響きを持ってレイムが宣った。
「……”イカレ帽子屋”、私はお前との契約を望む」
”イカレ帽子屋”は目を見開く。言葉は不可視の効力だった。



>>もしも設定7話目。
   次が最後だよー^q^(笑)

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此処は思うがままにつらつらとその時書きたいものを書く掃き溜め。
サイトにあげる文章の草稿や、ただのメモ等もあがります。大体が修正されてサイトにin(笑
そんなところです。

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