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半分を失った視界は酷く感覚を掴むのに苦労が要った。それは原因が原因故だとも思われたし、自身の精神状態も作用していたのだろう。
ふとした折に感じる以前とは違う不自由さに苛立ちを覚えたのだ。
その度に振り上げられた手をやんわりと嗜めたのは、まだ幼さを残した声の少年で。
「ああ、そうかぁ」
今度は完全に何も見えない中で、息を吐くのと一緒に言葉を吐き出す。
被ったままだった薄手の掛け布が小さく衣擦れの音を立てた。
半分を失った視界と完全に視えなくなった感覚は、想像とは大分違う。
気配を探ることに慣れていれば人や動物なら大体何処に誰が居るのかは感知出来るが、困ったことに無機物に関しては通用しない。
気取られぬように確かめる仕草も勘が良ければ看破されてしまうのは当然の事であるし、現状に慣れない限り動けないならば誰一人として知られず済むとは思えなかった。
「何だ?」
でも、彼に気取られてしまうのは想定外と言うか。
「いいえ、この状態なら良く聞こえるんだなぁ……と思いまして」
「ザクス」
「大丈夫。すぐに慣れます」
眉間にきっと皺を寄せただろうな、と容易く想像できてブレイクは小さく笑みを零す。
元々無理が既に利かない身体で無理を強いたのだから、これくらいは覚悟の上だった。もっとも視力を失うとは思ってはいなかったが、いつ死んでもおかしくないと覚悟は出来ている。その上で動いている自覚もある。だから自身は平気なのだ。
問題は自分ではなく、
「そういえばね」
この時間軸に戻されて、自身に関わってきたもう一度守りたいと思わせてくれた存在たちなのだ。
「ちょっと不便ですね、これ」
「……当たり前だろう」
「怒った顔したでしょう、今」
「してない」
決して戻らない視界を、見えていた残像を追う。その過程は酷く難しく容易い。
暈けて輪郭が不鮮明になるものも在れば、鮮明すぎるほどに脳裏で描かれるものもある。
「嘘つきー。そんな風に誤魔化したって分かるんですからネ」
「それならな、ザクス」
「何ですか?」
「お前も、そんな風に誤魔化すのは止してくれ」
そっと気配が動く。
わざと分かるように緩やかな動きでレイムが一度肩を指先で軽く叩いた後に、触れる。
気遣いが上手いと純粋にそう思った瞬間に頬に掌があてられた。
動きの見えない中で全く悪意の無い自然な動きは注意しないと感知出来ず反応が遅れる。
「レイムさん?」
「一番こんな状態になって歯痒いのはお前だろうに」
「嫌ですヨ、自業自得ですから」
「だとしても」
「……嫌ですよ、レイムさん。それ以上は言わないで下さい」
するりと声の位置から距離を測って伸ばした指先は、かつんと硬質な何かに当たる。
首を傾げれば、「もうちょっと下だったな」と答えが返った。失敗してしまったらしい。
「上手く行かないなぁ」
「起きてすぐになれるものじゃないだろう」
「でも、ネ」
「分かった」
眼鏡のつるに触れてしまった指先を彷徨わせれば、掴まれて目的地まで引き寄せられる。
この声でこの距離なのだ、と教えられているような感覚が浸み込むと同時に笑った。
本当問題は自分自身ではなくて、置いて行くであろう身近な存在たちなのだ。
目の前の友人も然り。少女の姿のままの女性も然り。
「……ありがとう、レイムさん」
離された指先で今度は間違いなく相手に触れる。
失った視界で鮮明に像を結ぶ存在がどんな表情で仕草をするのか、もう想像するしかないのが悔やまれるけれど、その分を補うために働く感覚で何とも矢張り分かってしまうのだ。
身勝手なことばかりをしている自分をいつだって温かく迎え入れる彼らに、きっと自分は何も反すことが出来ない。
だから、ごめんなさい。そしてありがとうと、小さく心のうちで呟く。
>>GF11月号を読んで辛抱たまらなくなったので、妄想補完。
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