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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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どうしたらいいの、僕、ギルの声が聞こえ無くなっちゃったの。
そう言って泣きついてきた少女はもう一時間は泣きやまずに引っ付いたままなので、これは困ったとザクスは途方に暮れた。
魔女はある年齢になると親元を離れ、一人で暮らすようになる。
自分の住む場所を自らで決め、そして魔女として親から教わってきた全てで生活する。
普通の子供ならまだ親の庇護下で育つ年齢で彼女達は自立をしなければならないのである。
「ヴィンセント、そろそろ泣きやみましょう? ね?」
一時間以上泣いているのだから、きっと明日は目が腫れてしまってどうしようもない状態になるだろう。
ぎゅっとしがみついていた少女が顔を上げた。
左右違う瞳からぼろぼろと涙がまだ零れている。
「で、でも、どうしよ……。ぼ、く……何か悪いコトしたのかなぁ?」
よしよしと頭を撫でてあげてザクスは少女の背中に手を回した。
彼女が街に来て、家を探していると言ったので離れの部屋を提供した誼だが、何かと少女は懐いてきた。
まだ親の恋しい年頃だから仕方がないと思っていたのだが、こればかりは手に余る、と頭を撫で続けながらどうしたものかと考えていると「ただいま」と帰ってきた声が聞こえる。
「レイムさん。お帰りなさい」
「あれ、ヴィンセント。来ていた……ってどうしたんだ?」
ひらひらと手を振って挨拶をしたザクスにしがみつくヴィンセント。それを見て旦那は首を傾げる。
ぐすぐすと鼻を鳴らして泣き続ける少女はまた顔を上げた。
「どうにもね……、ギルバート君の声が聞こえ無くなっちゃったとかで」
「ええ? そんなことがあるのか?」
ギルバートとは少女が連れていた猫である。
ちょっと常識はずれた少女を度々窘めていたすらりとした黒猫なのだが、どうやらそれと突然話が出来なくなってしまったらしい。
魔女でなければ話すことが出来ないので、レイムもザクスもその猫と話したことは勿論無い。
「知りませんよ。……でも困ったものです。ずっと泣き続けてるんですから」
「明日になったら普通に話せるかも知れないじゃないか。ヴィンセント」
レイムも小さな少女の頭を撫でるが、少女は泣くばかりでちっともザクスから離れない。
「ううん。今までこんなことなかったもん…!」
ぎゅっと目を瞑ればまた大粒の涙が落ちる。本当に参った、と肩を竦めたザクスにレイムもどうしたものかと目配せする。
肝心の猫は部屋にでもいるのだろうか。
全く経験のないことなので分からないが、猫と話す行為は負担が掛かっていたりするのではないだろうか。
たとえば疲れていれば聞こえないとか。
「どうしよ……、僕、魔力が無くなっちゃうのかなぁ……。そしたら、僕、……どしたらいいんだろ」
小さく呟かれた言葉に頭を撫でていた手が動きを止める。
そっと覗き込むようにしてザクスが優しく問いかけた。
「ヴィンセント? どうしてそんな風に思うんです?」
というか抑も魔女が魔力を無くしてしまうことがあるのだろうか。とレイムは思う。
魔力が無くなってしまえばそれは普通の少女ではないか。
「だって、僕聞いたことがあるの。魔女でも時々魔力が無くなっちゃって、魔女でいられなくなっちゃう人がいるんだって」
きっと僕はそうなってしまうんだ、とまた泣き出す少女が泣き疲れて眠ってしまうまで、結局ザクスは彼女の頭を撫で続けることになった。


***


小型ラジオのような器械のつまみを回して、ザクスはふうと息を吐く。
泣き疲れて眠ってしまったヴィンセントを部屋まで抱えていったレイムがいないので部屋は静かだった。
ざぁざぁとノイズ音が流れて突然音が止む。端的に「何だ、私は忙しいんだ」と声が帰ってきて苦笑すれば、その声は訝しげな音を含んで問いかけた。
「ヴィンセントじゃないのか?」
勿論だと言いたいが、間違うのも尤もなことだ。この器械は魔女としての知識がなければ使えない遠隔会話を可能とする機器であって、普通に考えればこれの持ち主の少女が使っていると思うだろう。
「ええ、違いますヨ。お久しぶりですね」
「……その声、ザークシーズか」
「はい。お久しぶりデス」
相手の僅かながらも驚きを含む声音にくすりと笑みを零すとザクスは首を傾げる。
ヴィンセントを寝かしつけて戻ってくると言っていたレイムが戻る気配はまだ無い。
「どうして、お前が?」
「聞いてないんですか? 彼女、私のおうちに居候中です」
「お前の?」
「正確には私の旦那の、ですけど」
そうかと相槌を打つ相手には寝耳に水のことだったらしい。沈黙が続いて、結局切り出すには自分から言うしかないのかとザクスは口を開いた。
「ところで」
「……お前から見たらどう思うんだ」
問いかけるよりも先に問いかけられた。一瞬何を? と分からなくなりそうになったが言いたいことは分かる。
つまりは急に使い魔にあたる猫の声が聞こえなくなった少女の状態をどう見るのかと問うているのだろう。
一応ヴィンセントはまだ薬を作ることが出来るし、箒で空を飛ぶことも可能なようだった。今のところ何とも言えない。
「不安定期、なんじゃないですかネ?」
まだ成長途中の少女の精神に、左右されたとしても不思議ではない。
魔力が無くなると考えにくかった。
「たぶん、大丈夫だと思います」
「そうか?」
「ええ。そんな簡単に魔力が無くなるものじゃないって、貴女なら知ってるでしょう?」
ヴィンセントの母親に当たる魔女はその言葉に沈黙を返した。
部屋の静寂が耳に痛く、言葉を待ち続けるとやがてぽつりと返ってくる。
「では、お前は?」
「嫌ですネェ、私はまた特別ですよ。魔力が無くなることが分かってたんですから」
「天才と言われたのに」
「期限付きでした。私は、そのうち自分が魔女としては生きられなくなるのを知っていましたし」
――だから、大丈夫ですよ。
そう付け足せば相手が小さく息を吐いたのが分かる。
猫の言葉が話せなくなった時点で母親に泣きついたが相手にされなかったと少女は言っていたが、母親は母親なりに考えて少女を突き放しているのだろうと分かって苦笑する。
自立させなければいけないのだから不用意に手は伸ばせない。そう思っている相手を安心させるように言う。
「安心して下さい。とりあえず気に掛けておきますから」
甘いとは思うけれど。
「……すまない」
「良いですよ。昔馴染みの娘さんですからね」
それに自分も魔女として生き続けていたなら、同じように悩んだかも知れないとなれば無碍にも出来ない。
ありがとうの言葉にどういたしましてと返してザクスは機器のつまみを先ほどとは逆の方向に回した。
「結婚していると言ったな」
小さくなっていく声が最後に問うのに、ザクスは「知らないですよ」とだけ返してぷつりとノイズが途絶える。
人間として普通に生きていくことに苦労はなかったが、嘗て魔女であったことをザクスは魔女として過ごした街を離れてから誰にも明かしたことはない。
だから結婚した相手がその事実を知ることもないのだ。
でも、どうだっていい。
彼と自分は人間として出会って共に過ごすことを望み結婚したのだから。

「ただね、空を飛べなくなるのは少し寂しいですからね」

魔女として独り立ちしたばかりの少女に声を掛けた理由。
それは空を楽しそうに飛んでいる少女の笑顔が輝いていたのと、もう一つ。自分が飛べた頃を思い出したが故だった。
だからこそ少女の魔力が無くならないことを祈る。
とても楽しそうに空を飛ぶ少女を見送るのが、今の自分にとっては大事な一つの日課となっているのだから。



>>まじょこさんネタ。ヴィンスの宅急便(笑)
   キキがヴィンス。ジジがギル。お母さんはグレンさん。
   そしてパン屋夫婦はレイムさんとザクス兄さん。

   そんななんちゃってネタ。続かないよ。息抜きなだけ^q^

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そんなところです。

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