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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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心の闇に、過去と現実と未来の間で叶わない願いを切望する声に、深淵に住まう存在たちは惹かれる。
引力には逆らえないと歪んだ空間の綻びから顔を出した異形にオズは容赦なく大振りの鎌を振り下ろした。断末魔はほぼ上がらず異形は形を成すことも許さないと言われた様に砂塵と化していく。
冷ややかな視線で一瞥した後、オズは息を吐いた。
少し離れた所で気配を探る黒ずくめの友人であり従者でもある青年に声をかける。
「どう? ギル」
「今日はそれだけみたいだ」
それだけを言って一つだけ明かりの灯った窓を見上げる。
「オズ……、そろそろカバーし切れないと思うぞ」
「うん」
「日を追う毎に多くなってる」
「分かってるよ」
ギルバートに言われなくてもオズには分かっている。レイムが心の整理を付けられず無意識で求める声にチェイン達が反応を示し、空間の綻びを抜けて接触を試みようとしている。それは、彼が契約の誘惑に乗る可能性が非常に高い事を示唆していた。
聡明な彼のことだ。そう簡単には落ちはしないだろうと思う反面、その誠実さゆえに危ういとも感じている。
何よりも彼は、自身が今どういう状況にあるのかを理解出来ていない。
彼の失ったものに対する呼びかけは”過去を変えたい”という願いに似て、チェイン達がアヴィスから外界に干渉出来る多大な力となっている。
時間でしか解決出来ない問題があるが、彼の思いはたぶん時間を置く毎に切望に変わっているのだ。
だからこそ最近はレイムに近寄ろうとするチェインの気配を頻繁に感じる。
アヴィスとの空間を繋ぐ能力を持つ”鴉”を持つギルバートからすれば、空間の綻びも多いという。
今はオズとギルバート、他に彼を気に掛ける契約者が気配を見つけては追い払ってはいるが、それを掻い潜って彼の元に辿りつくのは時間の問題のようにも思えた。
「……困ったなぁ」
「オズ?」
「いなくなってしまったなら、その後絶対に姿を現しちゃいけなかったんだ」
少年の呟きに従者は首を傾げる。
何の話だ? と言わんばかりの視線を受けてオズは微かに笑みを零すだけだった。

――ねぇ、ブレイク。例え、それが大事で。救うにはそうするしかなかったんだとしても。

不確定に望みを持たせるような行動は、理性では押さえの利かない願いを抱かせてしまう事になるのだから、してはいけなかったんだ。


   ...開かずの扉


あの晩、レイムが違法契約者のチェインに襲われた一件はパンドラ内部では物音を聞きつけた”オズ”がチェインを退けたという形で処理されていた。何よりもそう報告するより良い方法が無かったとも言える。
アヴィスに関わるものを”消滅”させる力を持つのは、オズの”黒うさぎ”とブレイクの”イカレ帽子屋”だけだった。
”イカレ帽子屋”と契約していたブレイクが事実上死んでしまったとされた中で、オズ以外の誰かが”消滅”の力を使ったことには出来なかった。だからそのように報告したのだ。
実際のところ、それで納得しなかったのがレイムの主とブレイクが身を寄せていたレインズワースの人間である。
「……そうですか。わたくしの”一角獣”でも最近は捉えられないチェインも増えてきましたし」
カチャ、とカップとソーサーの触れる軽い音を立てて、繊細な指がテーブルの上にそれらを置いた。
困ったように瞳を伏せた少女とお茶に同席しているのは、レイムの主であるバルマ公とオズとギルバートである。
レイムがチェインに襲われた時、レイムを救った存在はオズではない。それを自らの口で、報告とは違う事実を告げたオズは、為しえたのが”イカレ帽子屋”以外の存在であるとは考えにくいとも伝えた。何よりもその持つ能力が稀過ぎる。
抑も”黒うさぎ”はアヴィスの中で異端なのだ。アヴィスの核となる少女が望まずして生まれたチェインである事に間違いは無く、それ故に望まぬ力を持っていたとしても無理はない。
しかし”イカレ帽子屋”の、”黒うさぎ”と同等である”消滅”の力は普通に考えればアヴィスの意志の元で生まれたものである。
どんな経緯があって生まれたかは分からないが、ともすれば自分のお人形全てを消し去ってしまう力をそう簡単に作るとは考えにくい。たぶん与えられたのは唯一だ。
と考えが至れば、オズ以外にチェインを消す事が出来るのは”イカレ帽子屋”の能力以外に無い。
「限界かの。我も最近、良くあれの側で空間の歪みを感じるのじゃ」
「日に日に寄って来るチェインも増えてきていますし。……どうしたらいいのか」
空間を繋ぐ黒き翼のチェインを持つ二人は、まだ契約を為していないチェインが彼の元に向かおうとするのを敏感に感じ取っている。お茶菓子を一つ摘んだオズがふと視線を上げた。
「ブレイクが戻って来てくれるのが一番ベストだけど、そうもいかないし」
つい言葉にするには皆が戸惑う言葉を口にする。
悲しそうに眉を顰めたシャロンと、その言葉自体に面白そうに口角を上げたバルマ公、そして気遣うようなギルバートの視線を受けてオズは苦笑した。
首を竦めてみせて「ごめん」と言う。
戻ってきて欲しいと願うのは何も自分だけではなく、その思いだけならばシャロンの方が強いと思うのだ。
しかし、オズの言葉はシャロンや他の者達が望むものとは異なる意味も含んでいる。
彼女達が望むのは人間であるザークシーズ=ブレイクの帰還。無事とはいかなくても生きていてくれたら良いという願望。
しかしオズのものには彼が例え人間でなかったとしても、という仮説も含まれている。
「とにかく、レイムさんがもう少し落ち着いたら……。現状をお話しするのが一番な気がしますわ」
気が進まないことではあるが、と内心滲ませたシャロンが全員に同意を求める。
それには頷くしかない。
「でも……、難しい気はする」
一度、もう戻らないものを追いかけるのは止めて欲しいと言った時に返ってきた言葉。
レイムは頭では全て理解しているように思うのだ。ただ願望を捨て切れていないのであって。
それが痛いほどに見て取れる故に、全員がどうしたものかと対処に困っているのだが、今は何とか保っている現状は長く続きそうに無い。



***


「話をしたいんです。バルマ公」
話を終えて暫く廊下を進んだ先で少年が声を掛けた。それに姿は若いが、年齢で言えば老人に当たる彼が目を細めて笑う。
予想していたかのような表情だ。
「あの二人には聞かれたくない話かの? ベザリウスの子」
「オズです。……まぁ、はい。二人にはちょっと聞かれたくない話というか。聞きたいことがあるんです」
知識が一番価値あるものという考えを持つバルマ公ならば何らかの答えを持っている可能性もあると踏んだオズに、しかし彼は首を振って前置きをする。
「一つ言うておくがな……、たぶん汝の求める答えは我は持っておらん」
先を読む言葉にオズは思わず笑ってしまった。
前置きをした行為は非情にも思えるが、きっと彼なりの気遣いであるのだろう。寧ろ上手く振舞えない不器用さが微笑ましい。
「構いません。……ただ、自分だけで考えるのにも限界があったから」
本音を漏らせば「ふむ」と相槌を打ったバルマ公が一番近い部屋の扉を開けた。明かりは点いておらず無人であるのを確かめると入るように促し、自身も暗い室内にするりと身を滑り込ませる。
ぱたりと扉が閉まったのを確認してオズは振り返った。
「まどろっこしいのは無しで良いぞ。……先ほど汝は言ったな? 『帽子屋が戻ってきてくれたら』と。それが言葉以上に意味を持つのは分かる。何を知っている?」
単刀直入な問いにオズは目を丸くする。
彼は確かに知識欲に貪欲なのだ。だから些細な言葉の違いに気付いたらしい。
「あの晩、オレが駆けつけた時には既にチェインは”消滅”していました。それは前にも話したはずです」
「……何か見たというのか?」
「良くは分からない。最初は見間違いかとも思ったけど」
時間を掛け考えを纏めようとすればする程、一つ与えられた知識が酷く浮き彫りになるのだ。
「前にブレイクが言ってたことを覚えてますか?」
「何?」
「アヴィスに堕ちた人間がチェインとして生まれ変わるって話です」
それはブレイクが嘗て違法契約者としてアヴィスに引きずり込まれた際に深淵の主から直接与えられた知識。
深淵の核が嘘を吐かない限りは真実だろう、その――。
「”イカレ帽子屋”を見たのか、汝は」
「……はい。たぶん」
頷いて思い返す。
何かの聞こえない断末魔を感じて、通常ではない物音を頼りに暗い路地を走った先で、闇に紛れない銀糸を見た。
背筋を凛と伸ばして立つ影はオズの気配を感じてか、僅かに首を傾けて、目深に被った帽子で表情は見えなかったが確かに笑った。それは良く知っている笑みだった。
「それで、汝はどうするつもりだ?」
「ギルに頼もうと思ったけれど、貴方にお願いしたいんです」
「……何を?」
「アヴィスへの扉を開けて欲しい」
「馬鹿な」
思わず漏れた言葉にオズがにこりと笑って返す。
少年の言いたいことは全部言わなくとも理解が出来る。つまりオズは確かめたいのだ。
ザークシーズ=ブレイクの契約チェインであった”イカレ帽子屋”が現在どのような形で存在しているのかを。
「危険だ」
一度アヴィスに堕とされた経験があるなら、あの永遠の監獄と呼ばれる深淵がどれほど危険かを理解出来ているはずだ。
幾らアヴィスへ繋がる道を開く能力を有するとはいえ、ちゃんと戻ってこれる確証など無い。
「でも、確かめるのが一番な気がしているんです」
はっきりと告げるオズが、眉を顰めたままのバルマ公を安心させるかのように笑う。
「今は”黒うさぎ”の力もあるし……、それにバルマ公だって知りたいでしょう?」
誘うような言葉だった。
知識が何よりも尊い宝だと豪語するからには、人がチェインとなる可能性とその真実を確かめたくないわけがないだろう。
狡い手でオズは年長者を唆す。小さく溜息を零したバルマ公がふるりと一度頭を振った。
「良かろう」
上手く乗ってきたとオズが思った矢先、ふと視線を合わせてきたバルマ公が笑う。
「その代わり、この話は事情を知っている者に伝えた上、ほぼ全員の同意が得られたら……じゃ」
それでは色々と混ぜ返して混乱してしまう。思わず拳を握りしめたオズの肩にそっと優しく手が触れた。
「レイムのことは心配じゃ。何とか最善を尽くそう。……けど、それとこれとは話が別じゃ」
一つ、何かを堪えるように呼吸を置いたバルマ公が言う。それは普段は余り聞けない彼の心の一端。

――失う可能性のあることに、賭ける気に今はなれぬ。



>>もしも設定。ルー君が変に大人^q^

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此処は思うがままにつらつらとその時書きたいものを書く掃き溜め。
サイトにあげる文章の草稿や、ただのメモ等もあがります。大体が修正されてサイトにin(笑
そんなところです。

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