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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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確かに手元に置いてあった筈の金属のひやりとした冷たさがなくなって、寂しくなった手先が少しだけ動いた。これを何とかしたいと思ったのに何も出来ないのも酷くもどかしい。
失くしてしまう筈もないから、きっと何処かに置いたのだ。
無意識的にぱたぱたと手はそれを探し、ふと違う何かに行き着いた。
「……、あれ」
それは余りにも温かいので違うと分かる。判断してまた探そうとした指先は何故かその温かさに絡め取られた。
自分よりも幾分か小さい、それは手。
「どういう心算?」
温かさは体温だと判断した瞬間、寝呆けていた意識は全て覚醒へと向かった。容易く微睡みの羊水は破れ、瞳は鮮明に焦点を結ぶ。途端見えた金の色。
「良くないと思ったんだ」
冷たく言い放った問いに悪びれもない声が答える。
まだ声変わりが終わっていない少年特有の声と共に、そのまだ未発達の彼の手には無意識下でも探していたものがあった。
控えめに細工の施された金の鋏。
「何が? 可笑しなことを言うんだね」
「そうでもないよ? オレは思ったことを言っただけだもの」
手を伸ばして奪い返そうとすれば、一歩下がって距離を取った少年がにこりと笑う。
矢張り悪びれも何も無いのだ。
器用に二、三歩後ろに下がり距離を取った少年の手にあるのは、間違いなく自分の鋏である。そういえば前にも「よくないよ」と言われて鋏を取られてしまった事があった。別に何てこと無いのに、何が良くないのかも分からない。少年の言葉は良く分からない。
「返して」
すっと手を差し出して促せば、首を傾げて少年が鋏と手を交互に見遣った。
考えあぐねている仕草と少しだけ困ったように零される溜息。溜息を吐きたいのはこっちの方だ、と思った。
どうして自分の持ち物を奪われて、しかも非難がましく言われなくてはならない。何の謂れもない。
「ヴィンセント」
そっと声が呼ぶ。
「何?」
「ヴィンセントは、満足するのか?」
不意に問われた言葉が何に掛かるのか、理解が追いつくまで時間が掛かる。
満足とは何に対して使われた言葉だ? そう考えた瞬間に彼が答えのヒントを与えるように金色の鋏を揺らす。
「ああ……、そうだね。だから返して」
「答えになってないよ」
人形を鋏で切り落とす、カーテンも、下手をすればクッションや枕も。
いつからだったのかは覚えてはいないようで、でも本当は覚えている。自分と兄に暖かい場所をくれた、そんな人に出会った後に温かさを奪われるかもしれないと気付いた時に鋏を取った。
幼いから剣も何も使えなかっただけなのだが、思えば今も延長にあるのかもしれない。
「それじゃ、君はどういったら満足するの?」
金の鋏は貰ったものだ。刃毀れを起こしてしまった鋏は危ないと取り上げられたので、新しいのが欲しいと強請り泣いたら、その行動を良く思ってなかった筈の兄は困った顔をしながら、それでも願いを叶えてくれた。その時の鋏だ。
だからそればかりは取られるわけにはいかない。
「ねぇ……。本当は、何が欲しいの?」
溜息が一つ落とされて、その後の言葉はまるで幼い子どもに大人があやし問う声だった。
差し出したままだった手の上に少年が鋏を返す。冷たい感触が手に触れる。安心する。
「さっきから可笑しなことばかりをいうんだね」
「……うん。それならヴィンセントも」
ぎゅっと握りこんだ手を見下ろした少年が薄く笑った。

「可笑しな事ばかりを訊くんだね」

それは少しだけ呆れたような冷たさも含み、それでいて不思議な温かさを含んだ。


(――自分が今どれだけ泣きそうな子どもの顔をしているのか、知ってる? ヴィンセント)



>>オズとヴィンス。
   なんか前にも同じように鋏を取り上げたのだけど、それの続きみたいな感じで。

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