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シャトルターミナル内の通路を旅行にしては身軽な格好でザークシーズは歩いていた。荷物受取口で一つ鞄を受け取ったがそれにしても荷物は少ない。
ポケットに入れておいた飴を一つ摘んで外に出ると、すっかり暗くなってしまっている空を見上げて目を細める。
明日まで休暇申請は通っているから、明日は予め自宅に送っておいたお土産を各々に配りに行くとしよう。どこから回ろうか…? と考えを巡らせたところでするりとロータリーに入ってきた車がクラクションを鳴らした。
ザークシーズの目の前に音も少なに付けられた車の、その運転手を覗き込む仕草で彼女は手を振る。
「レイムさーん」
自分の夫を少しだけ間の抜けた調子で呼ぶとパワーウィンドウが下がって、中から夫が顔を出した。
短く揃えられた金茶の髪がターミナルの照明を受けて、鮮やかな色に染まる。
「荷物は?」
問われて手の中の荷物を少しだけ持ち上げると、心得たように後部座席のドアが開いた。
そこに荷物をおざなりに放り込むとザークシーズは助手席のドアに手を掛けて、するりと体を滑り込ませる。
どうにも夫の妙な気配りのせいで後部座席に乗せたいらしいが、彼女にとっては助手席の方が余程良い。
「後ろに乗れ」
「嫌ですヨー。此方が良いです」
既に助手席にちゃっかり座ってシートベルトまで締め終えたザークシーズに溜息一つ零して夫は車を発進させた。
エンジンの低音がどうにも心地良くて座席に全体重を預ける様子に、夫が苦笑する。
「楽しかったか?」
「ええ。今年は去年までとちょっと色が違いましてネ、面白かったですよ」
ザークシーズの祖国で毎年執り行われる祭りは、それに合わせて街全体が華やかに彩られる。
王族の中で選ばれる一人が毎年祭りのために色を決める籤をするのだという。箱は偏光硝子に色を混ぜた独特の細工で、外から中は決して見ることが出来なかった。去年は青。その前は藍。どうにも数年寒色系の色が続いたのだが、今年引かれた籤は違う色だったらしい。
去年は仕事の都合が何とかついて一緒に祭りに出かけられたのだが、確かに綺麗だった。
「今年は何色だったんだ」
「それがですネ」
くすくすと笑うザークシーズがついと運転する夫にその白い指先を伸ばした。
「……何」
「こんな色をしていたんですヨ」
微かに、短く切り揃えられたレイムの髪が白い指に引っ張られる。
嬉しそうに笑うザークシーズを横目で見て彼もまた笑った。
「そうか」
「綺麗でしたよ」
何故か自分が褒められたような気分になる言い方に、少しだけ気が気でなくなりそうな感覚を受けながら相槌を打ったレイムを紅の隻眼が真っ直ぐに見詰めてくる。
「ザクス?」
名前を呼ぶとふっと笑う。
順調に進んでいた車はそこで動きを止める。気付けば家の前に到着していた。
「――でも」
サイドブレーキまで引いて停止したのを見計らったようにザークシーズの手が、レイムの締めていたタイにするりと落ちていく。
その滑らかな動きとは違って少しだけ強引に引っ張られた。
触れるか触れないかのキスを交わして白い指がタイから離れる。
「こっちの方が余程綺麗だ」
満足そうに細められた目に、何を言うとレイムは内心零して宙に浮く白い指を掴み引き寄せる。
反射神経の良い彼女が少しだけ困ったような表情をして、シートベルトを外した。軽い体はいとも簡単に傍に寄る。
狭い空間で上手く抱き寄せてもう一度触れた唇から小さく声が落ちる。
「ただいま、レイム」
「ああ。おかえり」
>>眼鏡と帽子屋さん。
お祭りの話のちょっとした続き。博物館設定にて。
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サイトにあげる文章の草稿や、ただのメモ等もあがります。大体が修正されてサイトにin(笑
そんなところです。
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