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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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打ち合わせの時間に遅れてしまいそうだ、と近道しようと細い道をわざわざ走って通り抜けようとしていたというのに、よりにもよってそんな状態で、隆景は足を止めた。
ふと呼び止められてしまうような微かな空気の震え。気付かなければそのままだったのだろうに。
でも僅かに琴線に触れる感覚に足は自然に失速してついには止まってしまったのだ。仕方の無いことだ。
(……歌?)
冬の名前を抱く想い人とは声が違う。だから彼ではないというのは分かるけれど、何か似ている気がするそれに自然と惹かれてしまった。頭の隅では自分で架した時間のリミッターが赤く点滅している。一度立ち止った時点で間に合いそうにもないと結論を出してしまったので諦めた。
細い路地を暫く歩くと角を曲がる。少しだけ開けた場所は四方を壁に囲まれていた。
「……あれ?」
確かに此処から聞こえていたと思ったのだ。しかし足を踏み入れた隆景以外に人影はなく、立ち去ったのだとしても道は一つだけ。隆景と擦れ違う筈なのに誰にも会っていない。
気になった歌は既に消えてしまっている。
「気のせいだったのかなぁ」
もしかしたら空気に震えて、自分は彼の歌声を思い出したんだろうか。
或いは記憶させたデータベースから無意識に情報を引き出したか。
考えても答えはわからず、仕方ないと肩を竦めて隆景は踵を返した。
本当、今からでは打ち合わせには間に合わないのだが……。走っていく方がマシだろう。軽い足取りで一歩を踏み出すと今度こそ目的地へと駆け出した。


***


―――あのねぇ、冬さん?
―――『どうしたの、景ちゃん』
―――デメテルとアテナのさ、第3区画間の抜け道の路地知ってるよね?
―――『知ってるよ。どうしたの?』
―――そこでさ、今日の昼間誰か歌ってた気がしたの。知らない?
通信回線越しの会話で相手が考え込む沈黙が流れた。
―――『ううん、僕は知らないな』
―――そっか。変なこと聞いてごめんね。
―――『良いけど。明日も早いんだから、もう寝た方が良いよ』
―――そうする。お休み、冬さん。
なんだ。彼でも分からないか、とベッドで寝返りを打って隆景は目を瞑る。
打ち合わせには多少遅れたが自分が怒られなかったのは、アテナの担当職員だったザークシーズも自分と同じように遅れてきたからだ。珍しい事もあるものだと首を傾げれば、彼女も少しだけ困ったように「少しだけ用がありましてね」と返して寄越したのだが。
ふわりと彼女の服から漂った香りに覚えがあった。
確かに今日、どこかで。と思ったのだけれど、思い出せずに打ち合わせに入ってしまって結局聞けず仕舞いだった。
ゆっくりと睡魔に誘われる思考回路の中で、ぼんやりと隆景はそうだと思い出す。

(そうだ。あれ、……あの路地を抜けた先の花畑の、)

だったら。あの優しい歌は彼女のものだったのだろうか。



>>強化期間は終わったので、今度は時折書けたら良いね具合にしようかなとか。
   そろそろ違うのも書いてみたいな

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