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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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「あのな、エノア。話があるんだ」
その日、レイムは数日間気のせいかと思い込もうとしていた事柄について、結局放っておく事が出来ず自分の妻に相談する事にした。畏まった言い方にソファで本を読んでいた妻が首を傾げる。
何かありましたっけ、と言いたげな態度に少しだけ気まずくなりながらレイムは向かい側に腰掛けた。
「どうしました? そんな改まって」
本から視線を外して真っ直ぐ見詰めてくる妻に何から切り出せば良いのかと声を掛けたにも関わらず躊躇う。
その様子に何を思ったか、訝しげに眉を顰めたエノアが細いその指を伸ばしてきた。指先は真っ直ぐにレイムの眉間を捉え、指の腹でぐりぐりと揉み解される。
「何するんだ」
背もたれに体を預けるようにして身を引き、手から逃れたレイムが非難がましく言う。
それに全く悪びれのないらしいエノアが笑った。
「そんなに皺寄せてるからですヨ」
尤もらしく言ってのける妻に、一瞬眉間に伸びかけた手を止めた。
何とも情け無い話である。
「……で? どうしたんですか?」
ちゃんと話を聞いてくれる気らしい彼女が丁寧に栞を挟みこんで傍らに本を置いた。ぱたりと乾いた音が響く。
事の発端は一週間と少し前、自国の王家と血縁関係にある名家の娘が家出したのを保護したことに始まる。
余り大事にしたくないらしい彼の家の希望で、自国出身で口が堅そう或いは事情を少なからずとも知っている人間に娘の保護命令が下った。レイムも例外ではなく、同僚に手をつけていた仕事を任せて奔走することになったのだが、その騒ぎで自分にどうにも噂が立ってしまったらしい。
特段落ち度は見当たらなかったのだが、それからというものアポロンにいても管轄下の三機関に行ってもひそひそと何か囁かれる始末である。最初はそこまで気にせずいたのだが、未だ消えないどころか広がる反応にどう対応して良いのか分からなくなったのだ。
「……エノア。噂話を聞かないか?」
「何のデス?」
「いや、その……、最近一番噂になってるのは何だ、と聞いた方が良いのか」
歯切れの悪い夫の言葉に曖昧に相槌を打ってエノアはにこりと笑う。
「レイムさん」
「な、なんだ?」
「何をそんなに過敏になってるんですカ。人が見ているなら尚のこと、堂々としていたら良いんですヨ」
さらりと言われた言葉は、きっと彼女がずっとそうあったであろうことを容易に告げる。
何処においても、何時においても、例え周りが全て敵であったとしても、彼女は凛と背筋を伸ばして立っていたのだから。
「……、」
「デモネ、私、ちょっとだけ妬いてますヨ」
「は?」
「だって貴方の噂、貴方が一生懸命あんな長距離走やらかすもんだから。珍しいって言われるだけならまだしも、女性職員の中には”レイムさんって格好良かったんだね”っていう子も出てきちゃう始末デス」
「何を言って?」
「若くて可愛い子ばっかりですから、私は気が気じゃないですよ」
ふっと息を吐いた、少しだけいつもよりも落ち着いた声が落ちる。
穏やかに言い切った妻は、そう、自分と結婚した事を悔いてはいないだろうが、後悔はしないと断言さえして見せたが、年が十歳以上離れていることを気に病んでなのか、子が生めない体なのを気にしてなのか、少しだけ引いている部分がある。
何か言ってどうなるものではなく、言葉を重ねても変えられないからこそ、レイムは何も言わないのだ。
「……、エノア」
「何です? レイムさん」
「大事にするって言った筈だぞ?」
「……はい? ええ、そうですネ?」
不思議そうに目を丸くした、その紅い宝石のような瞳を手で遮る。レイムさん、と小さく困ったような声が聞こえた。
「だから安心していろ。お前以外は選ばないから」
視界を覆うレイムの手に白い指がそっと重なる。細くて冷たい指がゆるりと絡みついた。
そして重力に逆らわせないというように腕が下ろされていく中で、現れた紅の瞳がゆっくり細められていく。
「……約束だぞ、レイム」
「馬鹿だな。こんなの、約束しなくたって守れるぞ」
さらりと返した言葉に彼女は今度こそ声を立てて笑った。
何がそんなに面白いのか肩まで揺らして笑う彼女を見下ろして、レイムも笑う。
「もう平気そうですね、レイムさん」
笑い揺れる声音でそう告げる妻に、そうだなと相槌を打ちながら内心参ったと一人ごちる。どこまで計算されているのだかと疑うが、これでいてこの妻はこの方面に関しては全くと言って良いほど天然だ。ある意味無防備で困ってしまうと少しだけ違う心配が掠めたが、既に相談した筈のことなどさっぱり吹き飛んでしまった。


>>博物館設定、眼鏡と帽子屋さん
   アリスが帰った後のお話。この二人何もしなくてもくっつくんだな^q^

   そして私はこれで7月書き始めてから連続更新を成し遂げた…!
   がんばったねー。来月からはまたもったりだよ。。
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此処は思うがままにつらつらとその時書きたいものを書く掃き溜め。
サイトにあげる文章の草稿や、ただのメモ等もあがります。大体が修正されてサイトにin(笑
そんなところです。

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