忍者ブログ
謂わばネタ掃き溜め保管場所
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

地を叩く雨音をぼんやりと聞き入りながら投げ出した足を組んで瞳を閉じる。
庭院にある四阿の中で昼寝と洒落込もうとしたまでは良かったが、天候は崩れてしまい四阿に取り残された形となった。
特に急ぎの所用も無い。
雨が上がるまで待とうと持ち前の気楽さで緩やかな時間を過ごしていた時だった。
「嗚呼、こんな所に」
アルトの通りの良い声が振り落ちてきた。
見上げれば覗き込む形で女性が声をかけた所であり、彼女の耳墜が揺れて華奢な音を立てる。
麒麟の持つ金に近い薄い色素の髪を緩く結い上げた女性は遠目で分かるほど美人だった。
「ハル」
「執務室にいないから何処に行ったのか、と」
「それは悪い」
上半身を起こして笑いかければ女性も笑う。小柄な男よりは上背のある女性は上質な衣など気にせずに床に座り込んだ。
「何か急用でも出来た?」
「いいえ。私も仕事が終わったから折角なら一緒にお茶でも…と誘いに来たんだけど」
「…うん」
「仕事はもう終わってるんでしょう? 宰輔」
「勿論ですよ。主上」
色素の薄い金に近い髪色の女性は範西国の王であり、マットはその麒麟である。
「しかし珍しい。此処に雨が降るなんて」
「確かにね。でも嫌いじゃないよ、雨」
隣に座ったハルが「何故?」と落ち着いた声で問うてきた。それにマットが笑う。
雨音は少しずつではあるが弱まりつつある。暫くしたら上がるだろう。
「ハルに初めて会った時も雨だった」
そう言われて女性がその時の記憶を思い起こすように目を細める。もう随分と前のことのようで、しかし鮮明に思い出せる記憶は王として麒麟に選ばれた日のものだ。
朝廷で推薦を受けた州侯の付き添いとして昇山していた。
「そうだったわね。……あの時は散々だったわ。急に雨が降るものだから荷物を纏めている間にずぶ濡れになったし」
突然の豪雨に荷物を掻き集めて濡れないようにして蓬山公に謁見する列で、自分の仕えていた州侯が挨拶に向かうのを見送った。
風が強くて髪は乱れ、服はずぶ濡れ。散々だと思った。
「風に煽られた天幕の隙間からさ、一瞬だったけどハルが見えたんだよ。そしたらさ、自分が濡れるのなんて構わなくなった」
「…え?」
「だって自分が王に選ぶ人間がずぶ濡れで其処にいるのに、その麒麟が濡れるのを厭って御前に参らないなんて…そんな莫迦な話無いだろう?」
蓬山公、と謁見を行っていた甫渡宮の内側から声が上がり、視線を上げた所で人を掻き分けて向かってくる麒麟の姿をハルは見た。
金色ではなく赤味の強い髪が乱れるのも構わずに外に飛び出した麒麟は既に成獣化していて、転化した姿は十八歳程の少年とも青年とも取れる容姿である。
思い出せる。今でも鮮明過ぎるほどに。
視線を逸らすことなくハルを見据えて歩み寄ってきた麒麟は緩やかに膝を折り頭を垂れたのだ。


―天命をもって主上にお迎えする。御前を離れず、詔命に背かず、忠誠を誓うと誓約申しあげる。

その言葉は流れるようで、しかし重みを持っていた。
何を言えば良いのか分かっていても喉からその一言を搾り出すことに酷く長い時間を要したのを覚えている。
後で麒麟に聞けば即答だったというのだから、ハルの感覚がその時麻痺していたのには違いない。
「王って…、直ぐに分かるものなの?」
「……さぁ? 他の麒麟のことは知らないよ。けど、俺は直ぐに分かったよ」
子どもの様なあどけない笑顔を浮かべて範国の麒麟は笑った。
小さく雨音にさえ紛れるような声で、だって光だったから、とマットは自分の王に告げる。
その告白にさえ思える言葉に一瞬目を丸くした女性が柔らかく笑う。
その頃になって漸く雨は止み、眼下に臨む城下町に虹が掛かっていた。




>>十二国記ダブルパロ。
   今までで一番短い話かな…。範国主従。
   氾王はハル。麒麟はマット。この二人はさらっとした関係ででも仲良しさんだと良いなぁ。

   基本的に脳内で、麒麟って言う生き物は可愛い存在だと思ってます。
   なんていうか基本構造(?)が可愛いよね。

PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
カレンダー
08 2024/09 10
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30
プロフィール
HN:
くまがい
HP:
性別:
女性
自己紹介:
此処は思うがままにつらつらとその時書きたいものを書く掃き溜め。
サイトにあげる文章の草稿や、ただのメモ等もあがります。大体が修正されてサイトにin(笑
そんなところです。

ブログ内文章無断転載禁止ですよー。
忍者ブログ [PR]