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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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「あ、珍しいのが居る」
庭院に降り立ったメロは影に潜ませた女怪に話し掛けるように声を上げた。
転化し用意された衣に袖を通している間も彼の視線は或る一点に釘付けになっている。
萌緑の柔らかな色に交わらず酷く印象を残す、その純白。
ふわふわと触り心地の良さそうな癖毛が揺れていて所在無げに視線を彷徨わせているのは、隣国才の麒麟だった。
生国に下ったばかりの麒麟は未だ成獣化してはおらず、発育も良くはないのだろう、年齢よりも小さな体躯に座った椅子は大きく落ち着かぬ様子で宙に浮いた足を微かに揺らしている。
「…珍しいのって采台輔のこと?」
くすくすとメロの背後から楽しそうな笑いを含む声。
聞き覚えのあるその声に肩越しに振り返ってメロは笑い返してやった。
「お前も含めて、な」
「それは酷い言い様」
勝手知ったると言うような気さくな会話に二人は一度黙り込んでからどちらともなく笑い出す。
赤味を帯びた髪を揺らして笑うのは殆ど同じ時期に蓬山に孵った別国の麒麟である。
同じ時期にというのは珍しいが、それ故にこの二人は仲が良い。
「マット、どうしたんだ?」
「今日はちょっとしたお遣いを頼まれたの」
「ふぅん? それじゃ、あれは?」
「途中で一緒になったんだ。お遣いを頼まれたんだって」
控えめに指を指した先には小さな子供。白い髪に白い肌、身に纏う衣は上質な絹で出来ているのだろう、柔らかな紺青がその白い容姿に良く映えていた。
「大丈夫なのかよ」
「…心配してんの? 珍しいね」
「だって、あんな……って何…」
「まぁまぁ。確かに心配だよね。未だ十歳かそこらでしょ。しかも胎果だし…下ったばかりだし」
「…ああ」
にやにやと意地悪気な笑みを浮かべるマットから視線を逸らし、メロは所在なげに大人しく座っている未だ王を据えたばかりの隣国の幼い麒麟を見遣った。
色素が極端に薄い容姿の中唯一深い色味を持つ瞳が、二人の麒麟に気付いたのか向けられる。
じっと様子を窺う視線にただ何もしないのは耐えきれなくなり、メロは幼い麒麟が行儀良く座り込んでいる四阿に歩を進めた。
「お久しぶりです。宗台輔」
淡々とした子供特有の高い声が挨拶の言葉を紡ぐ。
「いや、此方こそ。遣いで此処まで来られたとか」
「はい。急ぎの用だと承りましたので私が行くのが最速か…と」
子供らしさを含まぬ口調である。
そういえば蓬山に在った頃に顔を見に行った時もこのような様子だったと記憶している。
突然環境が変わったせいで感情が追いついていないのかと思ったが、この幼い麒麟の感情の起伏の少なさはどうやら生来のものらしい。
「……いつお帰りで?」
「今日中には」
「今日中?!」
「…? はい、何か変ですか?」
「いや、変じゃないけど」
不思議そうに小首を傾げた幼い麒麟にメロは心底困った色を含んで返事を濁す。
そこに数歩遅れてついてきたマットがさり気なくフォローを入れた。
「才はまだ王が立って一年にもなってないだろ? 夜になれば妖魔だって出る。心配してるんだよ、宗台輔は」
「マット…!」
「ああ…。そうでしたか。すみません、有難う御座います」
麒麟は自国の王にしか礼を取ることの出来ない生物だ。というのに微かに頭を振って感謝の意を示した幼い麒麟は半ば飛び降りるように椅子から立ち上がった。
着地した時に長い裾を踏んでしまい体勢を崩したところを透かさずメロが受け止める。
想像以上に軽い体重に驚きつつも支えてやると小さく「すみません」と返ってきた。
「帰るのか?」
「主上が心配しますから」
「………夜になるぞ」
「でも」
幼い子供が思案するように瞳を伏せる。そうすれば余り目立たなかった睫は思いの外長く、大人しい容姿の子供はまるで人形と錯覚する程だ。メロが困ったように思案していると二人の遣り取りを見守っていたマットが幼い麒麟の肩に手を置く。
「心配しなくても良いよ、メロ。この子は俺が送っていくから」
「マット」
「氾台輔?」
「心配なんだろ? 俺は大丈夫。範に入ってしまえば妖魔の心配もないし」
その言葉に微かにメロが頷くと呆然と二人を見上げた幼い麒麟が「あの、」と声を上げた。
二人を交互に見詰めて心底困った風に首を傾げる。
「どうして…」
「何言ってるの、困った時はお互い様。後は勝手に心配して送っていくだけなんだから気にしなくて良い」
「でも、お疲れなのでは?」
国を一つ越えて奏国に遣いに来た距離を考えれば疲れていると言えたかも知れない。けれどマットは首を横に振った。
「大丈夫だよ」
「……采台輔、送って貰え」
「え…」
「その内、借りは返せばいい」
その言葉に思案するよう視線を彷徨わせた幼い麒麟は真意を推し量ったのか、ゆっくりと視線を上げて微かに頷いた。かち合った視線の先、深い色合いの瞳は静か過ぎる程に凪いでいる。
「分かりました。お二方にはそのうち必ず」
年齢の割に非常に物分かりが良い。麒麟は人間とは生物として根元が違う為、総じて幼い頃から聡明で物分かりが良いのが普通だが才の麒麟はその中でも擢んでて良いようだ。
拱手の礼を取ってメロの手から離れた子供と、付き添うように空を翔けていった顔馴染みの麒麟を見送ってメロはふと庭院の端に視線を彷徨わせる。物陰に隠れるようにして成り行きを見守っていた人影を見つけて笑った。
気配を消し上手く隠れたつもりなのだろう。
距離も十分にあるが故、客人であった二人は気付かなかったようだがメロには通用しない。
「総一郎、そんなところで何を?」
「…見つかってしまったか」
「最初から分かってたけどな」
麒麟は王気を辿ることが出来る。どんなに離れていても自分の王の存在だけは追える。他の存在から隠れられても自身の麒麟からは隠れられない。メロにとって総一郎を見つける事は容易い。
「そうか。…分かってたか」
「で? そんなとこで何を?」
「いや珍しくお前が気に掛けている様子が見えたから、少し会話に混ざり難くてな」
「ああ…」
「采台輔には今日は部屋を用意すると言ったんだが、帰りますの一点張りで。矢張り私も不安だったから、お前に送らせようか考えていた」
「……、成る程」
ならば気を利かせて自分が送れば良かっただろうか。
範国の麒麟は矢張り国を越えた分疲れていただろうし、メロはじっとして居られる性分ではなくあちこちを飛び回っている。その分隣国に送って行くのなど苦にもならない。
「要らぬ気遣いだったようだ」
苦笑する王に麒麟がゆるゆると頭を振る。
「そんなことない。…今度あいつが来てまたそう言う事を言うようだったら俺が送っていく」
「そうか」
「…ま、小さい内だけだがな」
貸しをいっぱい作っておけば良い事もあるだろう? そう言って笑う麒麟に王も笑いかける。
見上げた空は雲一つ無い青空である。二人は蒼穹の下暫く空を仰いでいた。



>>十二国ですの。
   レスターが登極して一年未満の頃の話。
   ニアはまだ小さくて、メロは心配でなりません(笑

   ニアが名前で呼ばれないのは、まだ名前が付けられていないからかな…とか。
   それか付けられて間もないから…かな。
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