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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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正午も過ぎ黙々と筆を動かしていた端正な容姿の青年が机を挟んで向かい合い同じように筆を動かす相手に聞こえるよう声を掛けた。
「そう言えば知ってるか?」
その間にも筆は止まらず几帳面で丁寧な字が紙面を埋めていく。
「何をですか?」
「慶だが…、此度の王は女性らしい」
さらりと告げられた言葉に話しかけられた相手は漸く顔を上げた。ことりと筆を置いて何かしらを思案するよう視線を彷徨わせる。
「女王…、ですか」
「うん。そうらしい。…未だ暫くは落ち着かないかな」
「そうですね」
話し相手が顔を上げたのもあって青年はにこりと笑むと自身も筆を置いた。
僅かに開けられた窓から陽気を含んだ風が入り込む。さらさらと癖のない青年の亜麻色の髪が風に揺れ、浮かべている笑顔も助けて酷く爽やかな魅力に満ちて見える。
しかし会話の相手はその彼を酷く胡乱な目付きで見遣った。
「……何か悪巧みしてるでしょう?」
「何故? 今そんな会話だったか?」
「会話よりも貴方の場合態度が雄弁です」
「何処から如何見ても好青年じゃないか」
「私は騙されません」
ぴしゃりと言い返して白状しろと言わんばかりの相手に青年は今度は苦笑する。
「あのね、竜崎」
「何ですか?」
「僕だっていつもそんなことばかり考えてるんじゃないんだ」
「それは知りませんでした」
「…ついこの間の、まだ根に持ってるのか」
「ついこの間のだけで済まされると思ってるんですか?」
ついと視線を逸らした相手の様子を観察するように青年は見詰める。
「竜崎」
「何です」
「慈悲深い生き物のお前が許さなくて、誰が許せるって言うんだ?」
「誰も許せませんよ」
逸らしたばかりの視線を結局は向けて竜崎は溜息を吐く。
この会話は不毛過ぎる。たぶん午後いっぱい執務時間中の息抜きとして続けたとして平行線の一途を辿るだろう。
どちらかが折れることでしか終わりはしないのだ。そして結局の所此処で決定打となりえる一言を持つ青年に竜崎が敵う訳がなかった。
「分かりました。…いいです、もう」
「あれ? 今回は自棄にあっさり引き下がるね」
「まだ万全じゃないんですよ。…付き合いきれません」
先日まで床に臥せっていた竜崎の顔色は平素よりも確かに悪い。
元々血色は良くない方だが、それにしても病的とも呼べる白さが未だ残っていた。
青年がその白さを確かめるように徐に手を伸ばした。触れる前にかわすことも可能だったが竜崎は甘受する方を選ぶ。
「………悪い」
「そう思うんだったら」
「無理だ」
「…知ってます」
長い間の付き合いだ。王として目の前の青年を選んだ時、自分は彼の王としての姿勢を教えて貰っている。
それでも良いのなら選べと言った青年は間違いなく自分が選ぶ唯一人の存在だったのだ。
選んだ瞬間に、否その前から天命が決められているのであれば自分の麒麟としての運命は既に決まっていた。
「で、景王が登極なさってあちらが望むのであれば、支援する形でいくんですね?」
「理解が早くて助かるよ」
「どれ程の付き合いだと思ってるんですか。…それじゃそのように冢宰にも伝えておきます」
「ああ」
「しかし、慶東国に女王…ですか」
「今度の景王が有能であれ、暫くは厳しいだろうな」
「慶国では女の王は良く思われませんからね」
彼の国の女性の王は皆、短命だ。
国民柄とでも言うのだろうか否か。女性の王で長き治世を敷いたものは未だ存在していない。
だからこそ民は女が王に選ばれることを余り良くは思わないのだ。短命で愚かな王ほど手に負えぬものはない。
「彼女なら平気と思うけどね」
「…月君? 此度の景王をご存知なんですか?」
「お前の方が良く知ってるよ。覚えてるだろう? 秋官府にいたナオミ」
「ナオミ…さん? 朝士の?」
「そう。あの豪く勘の鋭い彼女だよ」
「景台輔が彼女を選んだんですよね」
「良く選んだよな」
「天啓には逆らえませんからね。好き嫌いじゃないんです」
嫌味とも取れる言葉をさらりと言って、くすりと笑みを零した竜崎の様子に青年が目を細める。
隣接する慶国には前王の治世の時にも何度か足を運んでいる。其処で些末な争い事に巻き込まれて出会ったのが此度王と選ばれた女性だった。
黒い艶やかで癖のない髪としなやかな印象で、法務と裁判を掌る秋官府にて朝士を勤めていた。
「景台輔と上手くやっていけるか…。それだけが少し心配ですね」
「そこはまぁ大丈夫だろう」
「おや…随分とはっきり言いますね?」
「それはもう、経験で」
にこりと文句も付け様もない完璧な笑みを浮かべた青年に竜崎は溜息を返す。
経験でというのならお互い様だ。
「何か文句でも?」
「いいえ。ないです」
先ほどの嫌味への応酬なのだろう。
走廊を此方に向かって近づいてくる足音を耳聡く拾って竜崎は立ち上がった。
「即位式の際に当方の方針を景王にはお伝えすることにしましょう。それで良いですね? 月君」
「ああ、そうしてくれ」
竜崎が絶妙のタイミングで框窓を開ければ、其処には書類を両手に抱えた冢宰が立っている。
突然の事に驚くかと思えば人の良い笑顔を浮かべた冢宰は最初から分かっていたと小さく礼だけを取り房室に足を踏み入れた。
その麒麟と冢宰の息の合ったやり取りを見遣りながら青年も立ち上がり、宰輔と冢宰に王としての指示を与える為に口を開いた。



>>十二国記ですの…!(略した)
   連日割と短文よりは長い内容量で自分がこれを書いてるのに驚かされます。

   月と竜崎はいつもこんな風に膨大な仕事量をこなしてるんだよ。
   二人とも優秀だから全然苦にしてないどころが暇だとか思っちゃうんだよ(…)
   ちなみに巧国冢宰はワタリ。さり気に影のボス(…)
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