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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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幻視する。錯覚する。世界が回る。目は覚めず夢は続く。世界の基盤が反転する。逆様になった所で視点は動くのを止めた。
目覚めは近い。
ぼんやりとそう認識してふるりと頭を振った。
「…、嗚呼」
呟いた声は寝起き特有の微かな掠れを伴い、点けっ放しであったモニタの灯りが目に痛い。
『…L? どうしました』
「いや、少し眠っていたようだ。……それよりもワタリ」
『はい』
「日本への手続きを」
『向かうのですか?』
「……今回に限っては此方から出向かなければ」
画面越しの溜息は何より身を案じてくれたが故のものと知る。だから少しだけ申し訳なくなって笑った。
それが届く訳のないことを知っていて、笑うことさえ見越したように穏やかさが含まれた声は返る。
『―畏まりました』

 


横暴過ぎます。
何度目かの抗議はじろりと睨みを利かせて黙殺する。判っていることを云われる事ほど不快なものも無いと内心呟いた。確信はしているのに確証がない現状況が私自身をどれだけ追いやっているのかは知れない。
そういえば普段よりも甘味の摂取量が多い。事件を追っている時は、オフの時に比べて甘味を摂取する量が多くなる。それは必然でもあった。
けれど今回はその比ではない。これを取ってもまだ自覚症状はないが今までに無い程のストレスが掛かっているのが判るというものだ。
だから最近ワタリは良く気遣う言葉を寄越すのかも知れない。
「良いですか。私は、」
既に溶かしきれない砂糖が沈殿した紅茶を一口啜って告げる。
前代未聞の殺人犯は、その疑いは。
摘み上げた写真には整った顔立ちのまだ少年の雰囲気を引き摺った青年の姿。
姿は似ていない。
けれど、妙な確信はもう一つあった。
「彼を、夜神月を…キラだと思っています」
息を飲むその音さえも黙殺する。理解する前に判る感覚は珍しい。直感とも違う。勘ではない。だから矢張りそれは確信なのだ。

―彼は私によく、似ている。

法律には穴がある。弱者は所詮弱者でしかない。報われない事は多い。
世の中の理不尽さは到底払拭は出来ないだろう。それを理解していても腹立たしい事がある。
世界は決して綺麗なものばかりで構成されるものではないのだ。
光は闇がなければ認知出来ず、闇は光が有ってこそ存在する。それと同様に正義が有れば悪も存在する。
相反するものが存在して世界は存在する。清濁併せ呑むとまでは行かずとも、人間はその矛盾に折り合いを付けて生きているのだ。しかし偶に非常に可哀想な事ではあるが許容量の少ない人間も存在する。
それが、若し酷く器量が良ければ尚のこと可哀想だと思った。知らなくても良い事まで理解出来る聡明さを備えていれば苦しみは大きくなる。
監視するうち、話をするうち、理解した。
夜神月という人間はまさにそれだった。そして、それが私と彼が違う一点。

 

「月君、」
「何? 竜崎」
「私、時折ふと不安に捕らわれる事があります」
「へぇ? 世界の切り札であるお前が? どんな?」
「私は私の考えで死ぬのではないのか、と」
「……何?」
考え倦ねているようで眉間に皺を寄せた彼の手首には手錠。誂えさせたそれは鎖が長い。硬質な音を立てて弛んだ鎖が床を打つ。そのままに近づいてじっと窺う視線を逸らさない彼の隣に腰掛けた。
「お前の頭脳は命を狙われる。策士策に溺れるともいうから、…若しかしてそう言う意味?」
「はい。ちょっと違いますね」
「それじゃ、はいじゃないだろ」
「半分は合ってる気もしていますから」
困ったように肩を竦めた彼の瞳は影がない。
あれほどまでにキラであると確信を得ていた、その確信足る何かが今の夜神月からは欠落していた。
「それじゃ、何?」
「いいえ。………只、不倖ですね…という話です」
勿論自分のみの話で出た言葉ではない。
自分の考えで死ぬのは、たぶん私という存在もそうだが目の前の彼もまた同じだろう。
不穏な響きでも受け取ったか彼が表情を映さない瞳でじっと窺ってくる。しかしそれでも影はない。
「竜崎」
「はい」
「考え過ぎだよ」
「…そうでしょうか」
「そうだよ」
それに、と付け加えた彼が穏やかな笑顔を浮かべる。
何だってそんな風に笑うのかと問い糾せばまた殴り合いの喧嘩にでもなるだろうか。
「お前も僕も不倖なんかじゃない」
その言葉に不覚にも一瞬呆けてしまった。頭の回転が速く油断の出来ない相手だというのは十分に分かっていた。しかし。
「私も、月君もです、か」
「ああ」
「だと……良いんですけどね」
まさか、こんな言葉を投げつけてくるとは思わなかった。今の夜神月には世界に対する希望がある。
初めて大学で言葉を交わした時には感じなかった、希望がある。
「竜崎?」
疑問符を付けて名を呼ぶ彼に笑いかけるくらいしか出来なかった。
確信は未だ間違いであったと見直す必要もなく、確信のままで自身の中に存在する。
だからこそ互いの命を懸けて決着を付ける時が来る。
「泣いてるのか?」
「いいえ」

―いいえ。

「私は、泣く事は出来ませんから」

自分の為に流す涙は最初から持ち合わせていない。為れば此の頬を伝うものは彼の為の。

 


私と彼はよく似ている。
根本も思考も能力も、似ているのだと思う。
外見は全く違う彼をまるで自分の写し身を見たように錯覚したのだ。
存在する訳のないもう一人の自分。
民間伝承の自己像幻視の通りであるならば、それは死刑宣告によく似ているのだろう。
命を懸ける意味であるならばそれは間違いなく正しい。
決着を付ける時はどちらかがどちらかの未来を奪う時。それに違いないのだ。

「………本当、まるで」
「…え?」

続いた異国の響きに、その独り言に困惑の声が上がったのに笑う。
初めて出会った自分が認める存在がもう一人の自分であるならば、片方が命を奪われるのは当然の事なのかも知れない。



>>椎名○檎のポルターガイストの対がドッペルゲンガーと知ったので
   同タイトルで…と思ったら関連性もない話になったというオチ(苦笑

   自己像幻視における民間伝承は、出来れば見たら死ぬ間際ではなく
   見た時にドッペルゲンガーに殺される、のイメージの方が強い。
   今回はそっちを採用。

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そんなところです。

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