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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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幾重にも巡らされたセキュリティを通り抜ける。一つ、二つ、三つ…十五を過ぎたところで数えるのに意味を見出せずに諦めた。リノリウムの床に革靴が立てる硬質な足音が続く。
無機質な扉の前で立ち止まり、同行していた体格の良い男がセキュリティを解除する。
壁を埋め尽くすモニターが視界に入り込み、その中ただ一つ頼りない細い人影が振り向いた。
白い柔らかそうな髪が拍子に揺れる。
「来ましたね」
肩越しに投げかけられた声は淡々と感情の断片も浮かべず、またモニターに戻された視線は此方に向くことはない。
「レスター、ご苦労様でした。席を外して下さい」
「しかし」
「…大丈夫です、レスター」
心配そうに声を上げた男に再度言葉を重ねることで黙らせると、男が退室したのを見計らって今度は振り返った部屋の主の表情はモニターという光源から逆光の形で見えない。
「お久しぶりですね、夜神月」
「どういうつもりだ?」
「どういうつもり、とは?」
表情も考えも何も読ませぬ声音で相手が問い返す。
記憶よりも幾分身長の伸びた相手は元々器量は悪い方ではないのだろう、今まで浮かべたこともないような曖昧だが何処か諦観を含ませた微笑を浮かべた。
「まぁ、貴方相手にこんな会話は不毛ですね。時間の無駄ですし」
「分かってるんなら用件を言え。態々監禁したはずの施設から連れ出して、此処に連れてきた理由は?」
「二十八回」
「…?」
「貴方の自殺行為の回数です。報告に上がっているだけの数ですから、もしかしたらもう少しあるのかも知れませんね」
歌うように滔々と告げた声は何も含まない。真実だけを浚う真摯さで紡がれる。
「別に自殺しようとした訳じゃない」
「その度に治療しなければならない。無駄な手間を掛けさせないでくれますか」
「なら放っておけばいい」
「そうも行きません」
モニターには様々な情報が映る。言語も違うから世界中の情報が流れているのは容易に知れた。
溢れ返る情報量の中で決して溺れることなく全てを掌握する能力は嘗て世界の切り札と呼ばれた男よりも勝っているのだろう。今はその名を継ぎ、幾重のセキュリティの奥にいる珠玉の存在は。
「ニア」
「…はい」
素直に返事をした存在に、笑みを佩く。
「無駄です。私は、貴方に何も見出してはいませんから」
意図を読み取りそう言った声に微かに感情が交じった。諦観以外の何処かしら寂しそうな響きに、最後に会ったのは倉庫で身柄を拘束され様々な検査と尋問を受け大分落ち着いた後、存在を隠匿するように外部からの接触を断たれた施設に入れられて一週間経った頃だったと思い出す。
あの頃は年齢の割に未発達な小柄な身体と決して贖罪は与えぬと静かな怒りが見て取れた。
しかし今は其れがない。
「絶望したか?」
「何にですか?」
「世界に」
「いいえ」
緩く首を振るニアに偽りはないのだろう。
ただ事実を、物事全てを、結果の侭に受け入れ続けてきた。それしかないのだろう。
心も感情も全てを切り離しあるが侭を受け入れることは個人的な全てを排除するに等しい。そうまでして頑なに名を継ぐことに何を見出したのだろうか。
「それより、私は貴方の愚行の理由を訊いていたんですが?」
「ああ…そうだったな」
施設は外部と接触出来る術が悉く排除されていたが、それ以外であればある程度身体の自由は許されていた。
何をするでもなく無為に過ごす時間。
日の浮き沈みで一日の経過は分かるし、季節の移り変わりで一年も大体分かる。しかし流れる時間は自分にとって何の価値もなく、生きているというのに死に等しかった。
だから確認したのだ。麻痺していく精神で、自分が今生きているのかどうなのかを。
それだけの行為だ。だからこそ自殺行為ではない。少なくとも周りからそう評価されようが自分にとっては違う意味合いを持っていた。
「…死にたいのなら勝手にすればいい」
ふと、淡々と声が紡ぐ。
「先程余計な手間を掛けるなと言わなかったか?」
「言いました」
「矛盾してるな」
「正確には”無駄”な手間を掛けさせないで欲しいと言いました」
普段会話の相手とは視線を合わせないニアがかち合う位にしっかりと視線を向ける。
色素の薄い容姿の中で唯一深い色合いの瞳は底知れず年下だというのに幾分の年上の人間と相対している錯覚さえ与えられた。
「……生きている実感が欲しいですか? 夜神月」
「何?」
問いかけてきた言葉は、自分の行動の真意を全て掴んだ上での問いだ。
誰も理解しない中で目の前の相手だけは何も言わずとも真意を読み取ったらしい。
「ただ何もせずに生きているのは死んだも同じと思っているのでしょう? あれは自らの生存を確かめる為の行動にしては酷く幼稚で無意味です」
「何を言ってる?」
「……貴方にはもうキラとしての力はない」
ノートは燃やしてしまいましたから。
そう告げたニアには何一つ表情は浮かばない。ノートの所有権を放棄すれば使用した人間の記憶はノートに関してのみ消える筈だった。しかしどういう訳か所有権を放棄せずノートが消失した場合は記憶が消えないらしい。
ノートが消失したのは間違いない。自分に憑いていた死神が確かにそう言ったのだから変えようがない。
長い長い心理戦を制したのは不確定で不安要素を抱えたまま立ち向かってきたニアの方で、万端の準備で迎え撃ったはずの自分は膝をついた。
「私は貴方を死んでも許さない。…そして貴方を殺さない。しかし」
一歩も動かなかったニアが言葉を切り足音もなく手を伸ばした。触れるか触れないかの距離に伸ばされた指は矢張り白く、それでいて頼りないほどに細い。
「貴方の才能は、惜しい」
「……へぇ?」
「生きている実感が欲しいか? 夜神月」
「ニア。それは、お前が僕の存在を必要としているように聞こえるんだが?」
敢えて傲慢に言い放ってやれば僅かに不快を表して眉を寄せて、しかし声だけは何も映さず続ける。
「そう取っていただいても構いません。それと、質問しているの私の方です」
言い切ったニアの言葉に強いものが混じる。
「…さて、答えていただきましょうか」
「そうだな。一つ、訊こう。生きている実感と言うがお前は僕に何を与える気だ?」
「私の話を聞いていませんね? 質問しているのは私です。……良いでしょう」
一歩、無防備とも取れる動きでニアが近づく。成長したにしては矢張り細い体躯は世界の切り札という名を持つには酷く儚いものに見える。同じように細いのだとしても嘗ての”L”は儚さは感じさせなかった。少なくともこのように纏ってはいなかった。
「貴方には、私の…いいえ。”L”の手足として動いていただきます」
「確定事項みたいな言い方だ」
「だってそうでしょう? 貴方はいいえとは答えません」
言葉を紡ぎ出した唇がゆっくりと笑みの形を取る。
瞬間、目を奪われた。この外見で言えば酷く現実離れした夢のように白い人間に、まさか自分が。
「答えは? 夜神月」
今までの感情という感情一切を排した態度からは想像も付かないような、穏やかで儚い笑みを浮かべたニアが最終勧告だと言外に含ませて問う。
思い通りになるのが悔しいと思ったのに、だというのに自分の喉元から滑り落ちる言葉はもう決まっている。
既に死んだも同じならば改めて感覚を与えるというのならば。
「良いだろう、ニア。……お前が望む答えをくれてやる」
「捻くれた答え方ですね。素直にはいと言えないんですか」
「そんなことをいうのは、お前の望む僕ではないだろう? ニア」
「…そうですね。では、夜神月…貴方には」
するりと一度感情を落として、ニアは告げる。
「”L”の片腕として、その為の存在として、ワタリの名を与えます」
二代目を引き継いだ嘗ての老齢になるワイミーズハウス院長の代わりとして、その為の存在として与えられるものを想像して薄く笑う。甘いと言ったらいいのか。
「良いのか?」
「はい。…貴方は、―もうキラではない貴方は私を殺すのが無意味なことなど百も承知でしょうから」
素直に頷いたニアがしかし遮る暇もなく言葉を重ねた。
「いい加減ロジャーも歳で中々世界中を飛び回るのは辛いようです。私は行動力に欠けるし、優秀な人物が必要なんですよ。例えばそれが狂気的な大量殺人者であっても」

―私が貴方を憎んでいたとしても。

そう言って笑んだニアは、確かに嘗ての”L”とどことなく似ているのに、本質的には自分により似ているのだと認識する。
きっと個人として理解し認められずに、だからこそ切り捨てた今容認するのだ。
達観し諦観し、それでも”L”の名を継ぐことに価値を見出した一人の人間の苦しみさえ捨てた選択。
「分かった。…”L”の望む通りに」
執事が主にするように恭しく礼の形を取るとニアの個人としての微かな感情が浮かぶ。少しだけ、痛みを堪える表情に知らず笑った。


確かに生きる実感は、得られるだろう。
今までとは違った意味で。



>>なんという俺様ロードな月なんだろうか…^^^^
   ifな、もしもあの時月が死なないで負けていたのだとしたら…でお送りします。
   ネタはむつきさんから頂いたので、須くむつきさんに。

   しかしうちの月は本当にどうしてこうも可愛げ無いんだろうね^^^

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此処は思うがままにつらつらとその時書きたいものを書く掃き溜め。
サイトにあげる文章の草稿や、ただのメモ等もあがります。大体が修正されてサイトにin(笑
そんなところです。

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