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夜闇に沈む講堂は静寂が溢れている。
燭台には蝋燭が備え付けられているというのに、それらには一つも火が点されていない。
必然的に講堂内には闇が凝る。天井近く、丸く縁取られた窓から差し込む僅かな月明かりだけが室内を照らしていた。
埃が落ちる様までも捉える清かな月影と静寂は何かしらを予兆するかのような神聖ささえ湛えた。
その静寂を裂くように確かな足音が講堂内に押し入ってくる。
指通りの良さそうな癖の無い髪は月光を受けて青褪めた茶褐色に染まった。立ち止まる青年の顔立ちは端整過ぎて、明かりによって縁取られた造形は芸術に等しい。
講堂の丁度中央で歩みを止めた青年を、待っていたのか。
静寂に埋もれるように瞳を伏せていた人物がゆっくりと瞼を押し上げる。
「お待ちしてました」
穏やかとも取れる静かな声は静寂には相応しく耳当たりが良い。
声の主は月光を受けて尚深くなる漆黒の髪を揺らして振り返る。
「こんな時間に何だ?」
タイミングを計って向かい合った瞬間に清々しさを纏う良く通る声が問いを投げる。
それに答える声は飽くまで穏やかだった。
「大事ではないです」
「では?」
途端不機嫌を露にした険のある声で青年は問う。
自分よりも幾分か年上の相手に接する態度としては相応しくないと思ったが、どうにもならなかった。
僅かに柳眉を顰めた青年に、そんな彼の心情など構わないのか先程と同じ調子の、全く気にも留めていない声が返った。
「そう、急かさないで下さい。貴方らしくもない」
「生憎、僕は暇じゃないんだ」
くすりと笑い寄越された声に尚更眉を顰める。
「はい。そうですね。…私も暇じゃありません」
「ならさっさと用を済ませてくれないか」
時間が惜しいとばかりに態度を変えぬ青年に、一つ溜息が零される。
「………、仕方ありませんね」
何に対してなのか。
青年は訊くことはしなかった。たとえ訊いたとしても満足のいく答えは返らないだろう。
そういう相手だった。
「…、誓言を」
静かな講堂の中、紡がれた言葉に青年は思わず聞き返す。
「何?」
「貴方の言葉を下さい」
それには間髪入れず答えが返った。
沈黙が降りる。息苦しさを感じる重圧に反して、夜の森に潜む鳥の声が耳に入り込んだ。
僅かに安堵さえ齎すその声を聞きながら探るように青年は相手を見詰める。
夜闇よりも深い闇色の瞳はじっと一つも感情を映さず青年を見返してきた。
意図が掴めない、と探る言葉を探すよりも先に青年は確認する言葉を口にする。
「良いのか?」
青年の言葉に相手が微かに、しかし穏やかに笑う。
「二言はありません。さぁ、誓言を」
促す声に迷いは無く、申入れを拒絶する理由が青年には無かった。
青年の唇が、声が、誓いを紡ぐに時間は掛からない。
「天と地の全ての理において汝の真名に音を与えよう。創世より定めは違えず汝は我と共に」
良く通る声は反響の良い講堂内に明瞭に響く。
徐に合わせて伸ばされた片腕は相手の正面に突きつけられるような形だった。
「”終焉”まで違えず此処に、私の全ては貴方の為に」
青年の伸ばした腕に、距離を詰めることなく相手が同じように手を伸ばす。
紡がれる声は矢張り穏やかで静かで、引き継ぐ形の言葉は世界の理によって一つの力を示すというのに。
不思議な程、当たり前に自然に思えた。
伸ばされた互いの手と手は、指先が触れ合うか触れ合わないかの寸前で虚空に静止する。
「…後悔するなよ」
青年の、その強がりにも聞こえる言葉に
「貴方こそ」
同じように強がりとも取れる言葉が返される。
其処で初めて触れ合って指先はどちらとも夜気に触れて冷たくて、二人は顔を見合わせて笑った。
種族の違う二人の、覚悟にしては酷く有り触れた日常で為されるような笑みだった。
―さて、世界の変革を望もうか。
>>同日でプロット(?)っぽいものをmixiに載せていたものの成文版。
その場のノリ過ぎて、特になにも考えてないよ。
だから何も無いよ(…)
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サイトにあげる文章の草稿や、ただのメモ等もあがります。大体が修正されてサイトにin(笑
そんなところです。
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