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きっと此れは奇蹟なのだろう、と目の前の存在を見て思ったのだ。
人と言うには欠如している部分が多く、人と言うには秀でている部分が途方も無い。
ただ淡々と感情を移さない声が僅か間を置いて自分の偽名を呼ぶときの音が好きだったのだと言ったら馬鹿にされるだろうか。
本当の名を呼ばれたことはない。
だから事の顛末を迎えて別れの時が差し迫った時にふと今更気付いたことが何とも不思議だった。
「レスターにはお世話になりました」
真っ白な容姿に負けず劣らず真っ白なパジャマのような格好の少年にしか見えない青年は僅か頭を下げる。
視線を合わせないのは彼の癖で、真っ直ぐ視線を受け止めることは彼にとっては精神力を酷く消耗することであることも既に知っている。
「此方こそ、一緒に仕事が出来て光栄だったよ」
「何度も命を捨てた気になったのに?」
意地悪く聞いて寄越す声と少しだけ笑った表情。
「ああ、本当生きた心地はしなかった」
「…はい。私もあまりしていませんでした」
淡々と告げる言葉に偽りは無いだろう。
怖いから前に出ないと事ある毎に嘯いていた彼は、それでも全員の命を握って孤独とも言える心理戦の攻防を繰り返していた。
細く小さな、その身体にたくさんのものを背負っていた。
「それでは、」
「ニア」
「……はい」
「また、会えるだろうか」
若しくは彼をこう呼ぶのも最後かもしれないと思った。
彼の名もまた本当の名ではなく、そして世界から彼が次に与えられる名は既に決まっている。
「そうですね」
少し首を傾げた彼がふと視線を彷徨わせる。
「アメリカで、貴方が頑張っていたらまた何かの事件で一緒に捜査するかもしれません」
「ニア」
「……どうか、元気でいてください。レスター」
「…ありがとう、君の方こそ」
彼の方から差し出してきた手を握って祈るように言えば、彼の細い指が微かな力で握り返してきた。
「…、」
ふるりと何かを言いかけた彼が首を振って笑う。
普通の少年のような、自然な表情に目を奪われた瞬間握られたままの手に彼の唇が押し当てられた。
「では、また」
するりと離された手と去っていく背中を呆然と見送って、けれど彼が別れの言葉を使わなかったのに苦笑する。
出会いがあれば別れもあるなど必然のこと。
しかし意志が伴う限り、また会えるのだろう。だからさようならと言わなかったのだ。
「…ああ、また」
そう、だから自分もさようならなどは言わないのだ。
>>私がレスニアなんじゃないよ(…)
もう何も言わない。むつきさんに捧げます。
あー…、ニアってどう可愛く書くんだろう…。
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サイトにあげる文章の草稿や、ただのメモ等もあがります。大体が修正されてサイトにin(笑
そんなところです。
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