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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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死にたくない。
逝きたくない。

その声は、普段の彼の清涼さを含ませる声とは程遠かった。
叫びにも似た悲痛な声はこの不安定でありながら、絶対的な空間に響き渡り地面など無いはずなのに足下が揺らぐ。
ぐらりとバランスを崩した姿勢を何とか持ち直して耳を塞いだ。
こんな声は、知らない。
なんと、なんと、憐れなことなのだろうと思わせないで欲しい。
それはただの我侭だ。
知っていたけど、行き過ぎた思想の行き着く果てなど考え詰めるまでもなく分かっていたことだけれど。
「…………、お久しぶりです、ね」
久しぶりに絞り出す声は思いの外掠れていた。ぼんやりと焦点を合わせていく彼の瞳がゆっくりと光を取り戻す。
「…竜崎」
「まだ、その名で呼んでくれるんですか?」
その言葉に久しぶりに見た彼は笑う。こうやって会話をするのさえ酷く懐かしい。
「此処は?」
「何もない場所です」
質問には答えず質問で返す行為でやり過ごした相手が、不思議そうに首を傾げた。
何もないなら何故お前は此処にいるのだと言わんばかりの反応に思わず笑う。
「何?」
「いえ、月君でもそんな顔をするんだな…と」
「どういう意味だよ」
「そのままの意味ですよ。言うまでもないんですけど、」
「言わなくて良い」
言葉は強い口調で遮られる。記憶より幾分も大人びた彼の容姿は、しかし補正を掛けるまでもなく記憶の彼と一致する。
「そうですか」
「ああ」
「認められないからですか」
「逆、だよ、竜崎」
「逆…」
「信じられない位に痛感した。だからこそ受け入れるしかないだけだ」
「ああ、そう言うことですか」
「お前は、」
「私は、」
「いや、止めよう。不毛すぎる。今更だし」
「………そうですか」
沈黙が落ちる空間には二人以外の何かは存在しない。元々自分以外認知できなかったのだから、この状況下の方がおかしい。
「竜崎」
「はい」
「参ったよ。お前の名前、」
「Lだって言った筈ですが?」
「そうだった。だからこそ腹が立ったよ」
「ああ、そうですか。……それは光栄ですね」
嘘っぽい真実は時に真実を隠蔽する。信用されなければ真実は虚実と同じ。
だからこそ最初から名を明かした。目論見は上手くいったが、結果的には全てを読み切れなかった自分が負けてしまった。
「エル、」
「………、はい」
「僕は死んだ。…だから今お前と話せる。非科学的だし非現実的だし、まるで願望のようだから」
「貴方の好きなように解釈すればいい」
「お前」
「私はもう随分と此処にいますからね、そんなことを考えるのは馬鹿らしいという結論に達しました。私は自分が思った通りに解釈します。例えば、今二人で話しているのも自分の夢想ではなく本当に貴方と」
「…そう。どうして?」
「月君は私の初めての友達ですから」
くしゃりと相手の顔が歪んだ。笑おうとして失敗した時の顔だと思った。小さく馬鹿と呟く声は途中で彼が飲み込んでしまう。
俯いてしまった相手の纏う空気が置いて行かれた幼い迷い子に似ていて思わず手を伸ばしてしまった。
思っていたくせに彼にこうやって触れるのは初めてだった。

「……私も、貴方も、馬鹿ですね」

待っていたのも。
期待していたのも。
たぶんどちらも無ければ繋がらなかった 無 であるだろうから。



>>死後の世界。L視点。
   なんだか、二人を会話させるのが好きなんだろうね。本当。

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