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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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白い壁。白い天井。
白濁する意識。浮上する、途端に落ちる。頻繁に繰り返すようになった頃そろそろだなと月は思った。
ベッドの上に放り出された腕には何本か点滴が差されている。引き抜けば白の世界の中に赤い色が混じるだろうか。
ぼんやりと考えて意味もないと肩を揺すって笑った。
「リューク」
呼ぶ。たぶん刻限だろうと思った。そして面白い結果を見れたとこの世ならざる存在は思っただろう。
久しぶりに喉を突いて出た声は嗄れていて自身の声とも思えないまま、月は白い部屋に黒い影が入り込むのを待つ。
しかしそれはいつまで経っても現れない。
「リューク、」
すっと息を吸えば身体が軋むように痛みを訴えた。耐えて先程よりも大きな声で名を呼ぶ。しかし現れない。
代わりに天井から機械越しの淡々とした声が降ってきた。
『どうかしましたか?』
姿を現さないのはこの場所ではない何処かで”L”としての捜査を行っているからだ。もう聞き慣れてしまった変調器を介さない声に月は薄く笑った。
何十台ものモニターを同時に見て処理出来る能力を持つ相手からすれば、その一つに自分の部屋の様子を密かに映していたとしても不思議ではない。
ただそこまで気を置かれるに至った今の状況を振り返れば、確かに死神が面白いというのも頷ける気がした。
「…、リュークはそっちに行ってないか?」
『いいえ。見てませんが』
「なら良い」
会話が途切れる。天井から機械越しに相手の息を飲む音だけが聞こえた。
それ以外の音は何も聞こえない。相手が何かを言い掛けて止めたのだけは分かった。言葉は想像しようにも投与される薬剤の副作用で混濁する意識の中では掴みきれない。
「…ニア」
『はい』
直ぐに帰った応えに苦笑する。
月は暈ける視界の中で、僅かに反射した光を頼りに監視カメラに視線を合わせた。
「……調子はどうだ?」
『どう、とは…不思議な言い方ですね。変わりありません』
「そうか」
なら良かったと言う言葉は飲み込んで、月は渇いた喉が微かに異音を混ぜるのを何処か客観的に聞く。
『それより、』
「すまない。……ちょっと疲れてるみたいだ。休む」
問われる言葉に何を言ってしまうか分からない。精神力は既に意識を繋ぎ止めるだけで精一杯だった。
一瞬の沈黙。その後に何か悟ったような、それでいて今までで一番優しい声を聞いた気がした。ふつ、と回線が切れた音がする。
「リューク、遅い」
白で埋め尽くされた視界に黒の異形が映り込む。部屋に仕掛けられた監視の為のマイクに拾われないよう小声で、月は死神を非難する。
しかし死神はそんなものは気にも留めず訊いた。
「いいのか?」
らしくないと笑ってしまいそうになった。この期に及んで命乞いはしようと思わない。
それに、
「最初にノートを拾った人間と死神との決まりだろ? 僕が死ぬ直前じゃノートに名前を書き込めなくなるぞ」
「そうじゃなくて、ライト」
「…今だから良いんだ」
情けがあるというのならば今が良いと言外に含ませた言葉に溜息が返る。
異形の死神が腰に引っ提げたノートに手を伸ばした。音もなく開かれるそれに書かれる名前は既に決まっている。
「ライト」
「…馬鹿だな、お前には情なんてないんだろう。楽しかったよ」
「ああ、俺もだ」
最後の言葉さえ掠れた声というのは何とも情けないと月は思う。何かを書き付ける硬質な音が白い部屋に、正確には月の耳にだけ届いた。後何秒とも思わなかった。
志半ばであったというのは間違いではないだろう。もう少しだった。しかし完膚無きまでに潰えた後であれば、月の思想は世界に淘汰されたものであるのだと、世界中を引っ掻き回した癖に簡単に納得する心境が可笑しかった。きっと心境の変化は月がキラとして捕まった後、偶然とも言える関係によって斎らされたものだ。
「ノートは、僕が死んだら燃やされる。お前も、元の場所に帰るんだな」
言われなくとも、と死神が言う。その言葉はゆっくりと瞼を下ろした月に半分も届かない。
世界を作り替えようとした男が最期に視たのはなんてこともない、人間としてささやか過ぎる夢だった。


***


鐘の音は無い。
弔事も無い。元より存在しないものとして、世界から消したのだから必要性が無い。
ただ名前を密やかに彫らせたのはせめてもの餞のつもりだった。この世界から存在を抹消しようと決めたことに変わりはない。
風が強く吹きニアの癖のある髪を攫っていく。
「名前を書いたんですか」
小さな墓標に一人、立ち尽くすニアが口にした言葉は投げかけるものだ。漆黒の羽が視界に入り込み異形は姿を現したが、答えを返さない。
代わりに口元を歪めた。笑ったようだった。
「あいつが言ったんだ」
「でしょうね。でなければまだ時間はありました」
淡々と色素の無い髪が風に曝されるのをそのままにニアが言う。季節は冬を過ぎ春に差し掛かる。空気は暖かさを増したが吹き付ける風は冷たさを十分に孕んでいた。
白い身体の線を覆い隠す寝着のような服を好むニアにしては珍しく、漆黒に近いコートを羽織り、護衛も付けず一人で居るのは些か不用心とも取れたが、元々人出の少ない場所であるのを踏まえた上での行動だ。慎重に慎重は重ねてある。
一定の距離を取ってレスターたちも控え、何が起こったとしても咄嗟に対処出来るよう計算されていた。
「……あいつが、」
「あの時、彼は貴方を呼んでいました」
死神の言葉に被せるようにニアは言う。淡々とした声は平素通り無機質さも備えて風の音の中でも消えない。
風がコートの裾を翻し、しかし冷たさを微塵も感じさせぬ表情でニアは墓前で人ならざる者と会話する。
「その直後ですから、馬鹿でも貴方とノートの存在を知っていれば分かります」
死神の持ち得る存在価値でなく人間がノートを扱った場合どうなるか。
退屈を嫌い、面白ければそれで良いという理由で”キラ”を直接生み出した死神が、キラとして捕獲され行動も侭ならず、一見面白味の一つさえ無くなったように見える男を殺さなかったのか。少し考えれば一つの結論は弾き出される。
長い時間捕まっているのでは、所有権を移されぬ限りリュークは監禁される月と共に居続けなければなくなる。
何も無くただ死ぬまで、死神にとっては些細な時間であったとしても、それが退屈を許容出来るとは限らない。
なら許容範囲だったとしたら。
目の前の死神にとって、月が捕まりノートに名前を書けなくなるギリギリまでの刻限が許容範囲内の時間であるならば何も急ぐ必要は無い。
一番死神の性格を知っていたのは月自身だったろう。
無言で宣告を受けたようなものだ。
「人間の寿命は教えてはいけなかったのでしたね」
「掟だからな」
「……無言で知らしめるのは良しですか?」
命の刻限を死神はその口で人間に伝えることを禁じられているという。
裏を返せば話さなければ良いのだ。示唆などせずとも優れた思考力の持ち主に対し伝わる場合は不可抗力と言ったところか。
「俺は教えてないからな」
「随分と勝手な存在ですね、死神は」
「…そんなこと言ったら人間だって勝手だろ」
さらりと宣った死神がつと視線を宙に浮かせたのに釣られる。
「良い、天気だなぁ」
呑気に呟かれた言葉は埋葬されたばかりの墓前には似つかわしくないほど明るく、そして空虚の響きを持った。
仰いだ空は確かに何処までも青い。
「ライトは死んだ。…ノートの所有権を死ぬまであいつは放棄しなかった。死んだ今、所有権はノートを持つお前に移る」
「ノートを持ち続ければ貴方がついて回る訳ですね。そして貴方が面倒になったら私の名をそれに書けばいい」
ニアの指がリュークの腰に下がったノートを指し示す。
リュークが視線を落として、次に人間では不可能な角度に首を傾げた。
「今は書けないけどな」
「………?」
ぽつりと零された言葉にニアが首を傾げる番だった。にやりと笑って死神は続ける。
「燃やすんだろう?」
暗にそうしろと不自然に背中を押された形にニアがくすりと笑みを零す。感情が余り読めない笑みではないそれは、純粋な穏やかささえ含んだ。
「…はい」
そしてたった一言。肯定を示す言葉にさえ感情が含まれる。
音もなくコートの中から引き出されたノートは二冊。黒の表紙に中身は何処にでも売っているようなキャンパスノートのページ。
一見、何の変哲もないノートが世界中に影響を及ぼした”キラ”の能力であると誰が考えつくだろう。
名前を書きさえすれば、その名が正しければ、等しく殺すことが出来るノートの存在など人間の範疇を超えている。
だからこそ死神という存在をあるがまま受け入れられる要因とも為ったわけだが。
「ああ、そういや…」
ニアがコートのポケットから取り出したマッチを器用に片手で点け、ノートを火の先端に近づけた。
暖かな色をした炎はノートに移った瞬間、青白く変わり勢いを増す。ニアの指先を離れ墓前に落ち燃えていくノートは幻のように呆気ない。
「躊躇わないんだなぁ」
「元々、燃やすつもりでしたから」
感心してるのか分からない口調のリュークにニアが答える。
青い炎が舐め尽くすように二冊のノートを灰に変えていく。ノートの燃える音に混じって風に掻き消されるはずもない魂の怨嗟が聞こえた気がしてニアはふっと息を吐いた。
元々人間の手に渡るはずのない代物だ。ノートにしては燃え方が異常であるとか、幻聴に似た音も許容範囲である。
すっかり灰になってしまったノートの残骸は暫く塊となって留まった。
「帰りますか?」
「もうノートもないし、面白いことも終わった」
何よりと死神は言う。人間に情を移すことはない。抑も情があるのさえ分からないとリュークは思う。
けれど自分はあの男を、気紛れにノートを落とし最初に拾った夜神月という男を存外気に入っていたらしい。
「ライトも、もういないしな」
だからこそ素直に口を突いて出た言葉にニアが目を丸くした。
「本当、貴方は勝手ですね」
非難するわけでも無い口調を受け止めてリュークが背中の羽を広げた。一度大きく羽ばたかせて宙に浮いた存在をニアは見詰める。
「元気でな」
「……おや、死神らしくない言葉です」
羽ばたいた際の風圧を受けてノートの残骸が風に浚われていく。
微かに焼け残った表紙の欠片は元の黒なのか焼けて焦げたのか判断がつかない。
空に舞い去っていく黒い影を、青い空にぽつりと不釣合いな黒が見えなくなるまでニアは見送った。
真新しい墓標と残った僅かなノートの灰を交互に見遣って踵を返す。
ニアの行動に気付いて視線を投げかけて寄越したハルに微かに頷いて、一度何かを確認するように振り返った。
「……、」
小さく声に出さずに唇が告げたのは別れの言葉。無意識に風から身体を庇うように肩を竦めてニアは歩き出し、二度は振り返らない。
その必要は無かった。相手もそれを望みはしないだろうから。



>>パラレルif11話目。
   過去しかないとかどういうことだ…^q^
   次の展開で、一応最後を見ます。だからやっぱり13~15くらいが目安かな…。
   自分の頭の悪さが最近嫌になってきた。話しの一つもちゃんと書けるようになりたいものだ(…

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くまがい
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此処は思うがままにつらつらとその時書きたいものを書く掃き溜め。
サイトにあげる文章の草稿や、ただのメモ等もあがります。大体が修正されてサイトにin(笑
そんなところです。

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