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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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そこに一つ、綿々と継がれた一つの文化があった。
栄華を尽くしたか、荘厳であったか。今はもう分からない。長い時間を掛けて遺跡となった都市の中心部で青年は立ち尽くす。
乾いた風が頬と髪を嬲り通り過ぎていく。
目に砂が入らぬよう半ば生理反射で目を閉じた青年は瞼の裏に残像を結ぶ。
ゆったりと酷い猫背の男が、金髪と銀髪の子を連れて丁度この場所を歩いている…そんな残像。
「…竜崎」
呼びかければちらりと振り向いた男が、しかし何処か視線を彷徨わせてまた青年から離れていってしまう。
残像は明確に結ばれたのにまた離れていく。
そこで青年は伏せた瞼を持ち上げた。
広がるのは嘗て繁栄した名残も見せぬ打ち捨てられた古都。
乾いた大地には水はなく、既に死せる地にさえ思えた。
ゆっくりと青年は残像が消えていった方向に歩き出す。砂埃が一歩踏み出す度に舞い、肺に埃が極力入らぬよう青年は首に巻いていた布を口元まで引き上げた。
進む先にも人の気配無く、生活の跡も今はない。
到底誰も住めない場所なのは一目瞭然である。見失いそうになる残像を青年はまた瞳を閉じて脳裏に結んだ。
この場所には一度も来たことがない。だから本当は知らない場所であるはずなのだ。夢であるならば何故こんなに現実的に鮮明で見たことのない場所を違うことなく脳裏に浮かべることが出来るのか。
青年には甚だ疑問だった。
「……竜崎」
自信の中で結んだ残像は実像なのか。
ただ青年の通りの良い声で名を呼べば僅かに男は振り返り視線をくれるのだ。
しかし青年はどうやって彼の名を知ったのか覚えていない。最初から知っていた気もするし、彼から聞いたような気もする。だが残像でしかない彼が名を教えることなど出来るだろうか?
青年は考えるのを止めて現実に広がる遺跡に目を向けた。
色褪せたモザイク画の残骸が辛うじて壁となり、地面に散らばった彩りに陽光があたれば影に鮮やかな色を施す。
不安定な足場に気をつけながら崩れかけの壁をくぐり抜け青年はそこで立ち尽くした。
遺跡の中心に位置する広場は崩れた壁が大半を覆い、元の様相の半分は予想も出来ない。
青年は一歩踏み出してぐるりと開けた空を見上げた。容赦なく照りつける日光が目を焼く。
そしてすっと一度息を吸って目を閉じた。
鮮やかに瞼の裏、残像は結ばれる。いや、最早それは残像とは呼べなかった。
男が広間の中心で振り返る。酷い猫背の男は顔色もまた酷く悪かった。男が両脇に連れていた子供も同じように振り返り少しだけ困った様子で笑う金髪の子供と、興味も無さそうに視線を彷徨わせた銀髪の子供が男の両脇で大人しくしている。
この二人の子供のことも、何故か知ってる気がして青年は呼びかけようとする。
男の名は知っている。
―竜崎。
何度も呼んだ。現実でも夢の中でも数えられないくらいに自然と男の名は口に出来た。
けれど男が両脇に連れている子供の名は思い出せない。
「……、夢と現実、私と幻」
「幻想と現実、虚構と真実」
「此処に来れば罪の呵責が消えると思いましたか?」
ふ、と。
今まで幾ら呼びかけても答えなかった三人が口々に言葉を言う。
「…な、に?」
からからに乾いた喉がこくりと鳴った。自然と水分を求めた結果に掠れた声は妙な響きを持ち不自然に浮く。
「目を開けて下さい。月君」
真ん中にいる男が優しくそう告げる。目を閉じた、残像を結んだままではなく現実をと望む声。
従って目を開けば途端に大半が瓦礫と化した都市の広場が視界に飛び込んでくる。先程と違うことと言えば、瞼を閉じなくても目の前に残像としてあった男が存在していることだ。
「竜崎」
「…酷い有り様ですね、此処」
青年の呼びかけに男は答えずきょろきょろと見渡してのんびりと感想を告げる。
何を呑気なと言い掛けて、確かに栄華を極めた文明の末路だとしたら酷い有り様だと思い直した。
男だけでなく両脇に寄りそうにして子供も二人、じっとそんな青年の様子を見据えている。
「追いかけてくるとは思いませんでしたね」
「…どうして?」
「振り返らない覚悟があるのだと思っていたからです。正直貴方にはがっかりです」
白い無地のシャツにゆったりとしたジーンズを穿いた男はきっぱりと辛辣な言葉を投げて寄越す。
日光に晒されるのと対照的に男の血色の悪い白さは際立った。
「……後悔してるんですか?」
「何?」
「……L、」
ふふ、と笑みを浮かべた男をまるで窘めるように銀髪の子供が男の服の裾を引く。
記号のような名で呼ばれた男は応えるように頷いて、空いた手で子供の頭を撫でた。
「月君、此処をどう思います?」
ぐるりと見渡す廃墟のような場所。
嘗ては繁栄と典雅と活気に満ち溢れていたに違いない場所。
「……寂しい、」
「貴方が作ったんです」
青年が言い終わる前に男が告げる。
何の感情も乗せない凪いだ声で告げる。
気遣わしげな視線が金髪の子供から投げかけられ、青年は男の言葉を上手く理解出来ずに首を傾げた。
途端、今まで居たはずの景色は音もなく書き換えられ混じりけのない暗闇に浸される。
「本当、泣いてどうするんです。夜神月」
呆れた穏やかな声は耳朶を打つばかりで、青年は未だ自分の状態が如何様であるのか把握していない。
泣く?
泣いている?
誰が、と思いかけて確かに頬を伝う冷たさに気付いて男の言葉が嘘でないと知る。
「良いですか。貴方が望んだんでしょう? 今更、私達を追いかけても無理です。私達はもう貴方の道とは交わらない」
当たり前だと言い返そうとした青年の声は喉に詰まり反論も出来ない。
「そして、世界は貴方の望む通りに変わったんです。満足でしょう? ……だからこんな現実逃避はいけません」
塗れた頬に低い体温が、さらりとした感触の指先が触れる。
少しだけ笑っている男は何処か悲しげだった。

「さあ、起きて下さい。また貴方の、貴方が望んだ世界での、一日が始まります」
 ―そしてもう、私達を追ってはいけませんよ?


突然浮上していく意識の中、様々なものが逆巻きに記憶として再生される。
男の両脇で大人しかった子供の名も今は頭の中にあったし、自分が何であって、自分がどうしなければならないのか…青年は全てを理解していた。
その中で、夢を見ていたと結論づける中で、結局あの男の名前だけは忘れなかったのだと何故か笑いが漏れた。
全てを勝ち取り、姿の見えない具現化された神となり秩序となった青年は自嘲する。
男も二人の子供も自らが世界から葬ったのではないか。
それを追う残像を見るなど。確かに罪の呵責とも取れて笑ってしまう。
「……、でも違う。僕は、」
敵対したその三人を葬った事に対しての罪悪など無い。あるのは期待だったのだ。
選んだ道、交わった道、最初の選択が無ければ決して無かった邂逅を、それでももしかしたらと考えてしまうそれ。
心の何処かで望んだ期待を青年は夢の中で残像として追った。既に叶わないからこそ。

 

そっとそこまで考え目を開けた青年の視界に窓から差し込む光が柔らかに映し出された。
ああ。やっと夢は終わったと納得するのと同時に、男が最後に投げつけた言葉でもう二度と同じ残像を追うことはないだろうと思う。
寝具から身を起こしながら光を遮るように瞳を閉じた。
男の言う通り脳裏はもう残像を描かない。
「ああ、本当にお前はいつまで経っても気にくわない」
青年はぽつりと呟いて笑う。自嘲というよりは、泣いてしまいそうになったのを誤魔化したような笑みだった。
その日から青年の夢は残像を映さず、抽象的でなければいけなかったはずの一人の人間の正義が押しつけられた世界は青年の瞳にモノクロに映って見えるようになった。
最後に残像を追った夢の景色の意味を青年はゆっくりと噛み締める。
認めたくないのに、苦労して青年が作り上げた世界の秩序が青年の瞳に破綻を映した。




>>デスノって現実的な表現も、抽象的な表現も良く合うと思う。
   個人的には月をどこか崩れかけた遺跡にいさせたかっただけのネタであったりしました。

   Lもメロもニアも破れて、新世界の神になった月の少しの後悔。

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そんなところです。

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