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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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Lが死んで、メロもマットも死んでしまった。
自分の命を賭けることで臨んだ対決は、メロの予測不可能な動きによって勝利を収めることが出来た。そうでなければ負けていた。
必然と簡単に呼ぶことは出来なかったが全てを暴き手段を封じた上でキラを監禁する、その言葉の通りにニアは月を外部とは隔絶された施設に閉じ込めた。
彼以外に閉じ込める人間は居ない、言わば彼だけの為の施設。
其処に彼を移送するのと平行して”L”の名を継いだ。まさに自然な流れだった。
今まではキラを独自で追えば良い、ただそれだけに心力を注いでいれば良かったが、”L”の名を継いだ時からありとあらゆる事件の依頼が舞い込むことになる。予想はしていたが頭の中で想定するのと実際そこに身を置くのとでは違うらしい。
ニアは、全ての事件を我が身一つで背負えるとは思えなかったし、”L”の継いだからとてそう振る舞う必要性は無いと感じていた。抑も初代の”L”を考えれば当然だった。
しかしニアにはもう一つ、精神的苦痛があった。
「…………レスター、彼の元へ向かいます」
月を施設に監禁した直後、唐突にニアは背後に控えるレスターにそう告げた。何かを言い掛けるレスターを黙らせ車を走らせる。
ニアの手には死を操るノートが残されている。幾重にも敷かれたセキュリティの中に、もし誰かが奪うようなことなどないように細心の注意を払って。しかし未だノートは残されたままだった。
「……お前から来るなんてどういう風の吹き回しだ? ニア」
「相変わらず憎まれ口だけは立派ですね。お元気そうで何よりです」
扉をくぐり抜ければ部屋の中で悠然と構えた月が冷たく言い放つのに、ニアはさらりと応酬して返した。
月は拘束具などは付けていない。付けなくとも彼にはこの部屋を出ることは敵わなかったし、出られたとしても施設から脱走するのは困難だった。
「…僕に元気そうと言うのか、お前は。相変わらず性格が悪いな」
「貴方程じゃありませんよ」
程良く空調の効いた部屋は、外の季節が初夏の汗ばむ頃を迎えたなどと微塵も感じさせない。
この施設を用意するまではニアが捜査を行う場所を共に転々とさせ、一つの部屋に監禁させていたのだが流石にそれはニア側にも月側にも負担が大き過ぎた。
「それで?」
扉の前に立ち一歩も動かぬニアに痺れを切らしたか月が立ち上がり一歩近づいた。ニアは動かない。
視線は交わらず視線は床を眺め続けている。
「”退屈だからノートを落とした”」
もう少しでニアに手を伸ばせば触れるという距離で、黙っていたニアが口を開く。月が首を傾げた。
ゆっくりと視線を上げるニアの瞳に感情は映されていない。淡々とした声も同様に、ただ一つの事象を告げる為だけに動く。
「あの死神はそう言いました」
「リュークか」
「そして貴方の名を書くのは自分の役目だと言っていた。……どうしてでしょう」
「何を言いたい?」
「退屈が嫌いなようです。なら貴方が捕まった時にでも名を書けば良かった。何故未だ貴方の名は書かれず生きているんです?」
視線がかち合う。
深い色の瞳と褐色の瞳が探り合うような時間は、しかし僅かだった。
「そんなの、僕が聞きたいくらいだ」
断ち切るような会話は否応なしにニアに一つの結論を導く。
視線を逸らし無機質すぎる壁を見詰めて「そうですか」と呟いた。そして今更過ぎる後悔をした。人間として過ぎた程の思考回路など持たなければ良かった。ニアは何故今更そう思ったのか原因を探らず、ただ自らが弾き出した結論に伴った痛みを堪えるように強く自身の手を握る。
「おかしいですね」
「何?」
「……いいえ、何でも」
ぽつりと呟いたニアの言葉を耳敏く拾った月に答えは返されない。
俯き、強く拳を握ったままのニアに気付いた月が手を伸ばした。
触れる寸前に僅か身動いだニアが逆に伸ばされた月の手を掴み取る。冷たい指先だった。
「ノートはどうした? 燃やしたか?」
「いいえ。未だです」
「あれは”史上最悪の殺人兵器”なんだろう? 何故処分しない」
「所有権を放棄すれば記憶が消える。それで一度貴方はLを欺いた。……、燃やせば記憶は消えるんでしょうか」
「さぁな。あの死神にでも聞けよ」
溜息混じりの言葉にゆっくりとニアの視線は上がった。捕まれた手は力の差を考えれば容易く振り解けたが、冷たい指先が微かに震えた気がして振り解く気にはなれなかった。
「そんなのとっくに聞いてますよ」
怯えなのか動揺なのか分かりはしないが表情にも声にも微塵も乗せない気丈さに月は内心苦笑する。
嘗て対峙したLと違い未だ未完成というのが相応しいのか、それともニアの性格故か、どうにも極端なバランスの中に酷く脆い部分が時折見え隠れする気がした。
そう思ってしまうのは年齢の割に幼い容姿のニアが、異性だというのにも起因するのかも知れない。
てっきり男だと思い込み回線越しに何度も心理戦を繰り広げた相手は紛れもなく女性だ。
身体の線を略隠してしまうパジャマのような服装と中性的な容貌のせいで少年に見間違われがちだが、月の手を掴む細い指も、それを無理矢理引き寄せれば容易く腕に収まるだろう小さな身体も間違いなく女性のものである。
「やったことがないから分からないと言っていました」
「あいつは嘘つきだぞ」
「嘘つきじゃなくて、本当のことを言わないだけでしょう。それが嘘つきとは限りません。……が、」
なんとなく要領は掴めましたとニアは囁くように付け足す。
「ノートは燃やします。私の手によって、間違いなく。ただ…、それによって貴方の記憶が消えてしまうのは本意ではありません」
「………僕が何故ここにいて、こんな目に遭うのか分からなくなるからか?」
「別に記憶がなくなって、自分の置かれた状況についていけず気が狂ってしまっても構いませんよ」
するりと冷たい指先が離れる。
にこりと初めて嫌味ではなく笑ったニアの顔はある意味見惚れるほどに婉然としていた。
「では?」
「分かりません。こんな風に思ったのは初めてです」
頭では冷静に早くノートを燃やしてしまえと言う。いつもは抑えられる感情がそれを良しとしない。
大切な人間を奪った人間が自分の罪を認知しないまま閉じ込められ死んでいくのが嫌なのか、又は別の理由があるのかニアには分からなかった。
「ノートは燃やせ」
「……だから、」
「お前は僕の記憶があれば良いんだろう? なら燃やせ。所有権を放棄しない限り記憶はそのままだ」
「貴方…」
何故、とニアが言う前に月が大きく一歩を踏み出した。合わせてニアが身を引くが背後にある扉に阻まれて距離は縮まる。
背中に無機質な冷たさが伝わり僅か眉間に皺を寄せたニアが改めて月を見上げた。
「信用できません」
「お前にとってはどちらだっていいだろう? 記憶が残ろうが残るまいが、僕を罪人として、最重要危険人物として、此処に閉じ込めて置けばいいだけだ」
「………」
「何を躊躇う」
とん、と月がニアを逃さぬように両腕を扉に突いた。
至近距離で見る月の顔は端整で、こんな状況だというのに確かに普通の女なら騙されるだろうと頭の端で思う。
嫌いである筈の人間に向ける感情は、憎悪は愛情に似ていると昔誰かが言った気がした。確かに執着という意味では似ているのかもしれないとニアは内心自嘲する。
自分の感情の何が今、理性に勝っているのかニアには良く分からなかった。
今、自分を閉じ込める形の腕に指を掛け、ニアは布越しの体温に少しだけ安堵する。
「……確かめたいだけです」
「何を」
「私は―…………」


***


夢を見ている、と自覚する。珍しいこともあるものだとぼんやりと思った。
あのときの自分は半分以上自暴自棄になっていた気がすると、十年ほど前を振り返って小さく笑うと掛けられていた毛布に気付く。
急に覚醒した頭は思ったよりもクリアで偏光硝子越しに覗く外の様子は丁度朝焼けを空に映し出した頃だ。
夢を見ていた時間はそんなに長くは無い。
余り夢を見ないニアが見た夢は、夢とは言えない代物だった。あれは過去の記憶そのものだ。ただの一片。
キラと対峙し勝利を収め”L”を継いだばかりの自分の記憶。
まだ夜神月が生きていた頃の記憶だ。
不自然な姿勢で寝ていたせいで軋んだ身体を緩慢に起こして、ニアは掛けられた毛布を引き摺りソファに沈み込んだ。
ユイに父親のことと、その父親がキラであったことを知られていたこと、その手掛かりを何処で手に入れたのか気になるところだが、それ以上にキラと対峙していた自分がどうしてその男の子供を産むことになったのかという経緯を話すことの方ばかりに気を取られる。
どう説明すればいいのか、未だにニアにはよく分からなかった。
「……自棄になってたっていったらどう思うでしょうね」
ぽつりと呟いた言葉は半分本当だ。
あの頃の自分には”L”を継いだことと、キラを監禁し続けることの他にもう一つ、一番非常に煩わしい問題があった。
一蹴するには未だ意志が弱く、ニアはあの時ほど自分の性別を呪ったことはない。
毛布を胸元にまで引き上げてふと自身の細い指を見た。
今まで考え事に没頭していて気付かなかったが、眠ってしまった自分に毛布を掛けてくれたのはユイだろうか。
あの後逃げるように部屋に戻っていったのだから、てっきり一晩は外に出てこないと思っていたが違ったらしい。
器用に殆ど身動ぎせず毛布にくるまるとニアはゆっくり目を閉じた。
目は覚めてしまったが、身体が睡眠をもう少し欲しているのを感じたが故だ。直ぐにでもまた睡魔は襲ってくるだろう。
また夢を見てしまうだろうか。
(………今頃、いい気味だと思っているかもしれないな)
利用したと言えば利用したことになる、あの男は。


***


規則正しい寝息は記憶と変わらない。
ソファで器用に丸まって眠るニアを起こさぬように、その柔らかな癖毛に触れて月は溜息を吐いた。
記憶は、自分の息子と出会う前日まで無いと言っていい。正確には十年前の意識を失くす直前から、息子に出会う前日まで空白があると言えばいいのか。寧ろ現状どうして存在出来ているのかが不思議なくらいだ。
ただ、意識が覚醒した時には分からなかったが有り得ない記憶が蓄積するにつれ理解したことが一つある。
この状況は長く続かない。おそらく、あの子供の誕生日が期限となるだろう。漠然とした理解だった。
記憶よりも大人びたニアを見下ろして、その真白な容姿であの日悲鳴じみた言葉をぶつけられた時を思い出す。
『私にどうしろっていうんです?! 私だって好きで、女に生まれた訳じゃない』
そこまで言い切ってふつりと糸が切れたように下ろされた細い腕と、諦めたように笑う表情に、気付いたら引き寄せて抱き締めていた。
女など利用する為にしか思ってなかった筈にしては不可解すぎる行動に、月こそどうかしていたのではないのかと思う。
ただ自分は死に、残されたニアはその結果に対し全て抱えたまま生きてきた。
清算をすると言うのなら、その時期のために自分が僅かに存在することを許されたというのなら、誰の悪戯かなど知らない、死神は嘗て人は死んだら須く無に行き着くと言ったのだから分からないが、世界は其処まで捨てたものではないらしい。
「……お前を、僕がいい気味だなんて、思うわけがないだろう」
囁くように呟く。けれど、声は相手には一つも届かない。

 




>>少しの過去。
   理由は、何とも次にでも。タイムリミットはもう少し。
   5話くらいで終わらせるつもりが10話くらいになりそうなのか、それ以上なのか
   私にはもう分からないぜ(こら

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くまがい
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性別:
女性
自己紹介:
此処は思うがままにつらつらとその時書きたいものを書く掃き溜め。
サイトにあげる文章の草稿や、ただのメモ等もあがります。大体が修正されてサイトにin(笑
そんなところです。

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