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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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永久。
本来時間の隔たりによって消え失せる筈であったものがある。精霊と、人と、世界と、全てを結び応える歌声。
契約にも、予め定められた理にも似た其れは音と認識出来るものでありながら、既に音としての領域を逸脱している。
たった一声とは言わぬ。一旋律で人間の与り知らぬ世界の奇蹟さえ引き起こす存在は、存在の神秘性を示すように皆性別の区別が付かぬ怪しく麗しい容姿をしていた。
その、音の統率者ともいわれる存在を歌貴と呼ぶ。
紗の被り物を頭からすっぽりと被り、星明りだけを今頼りに歩く線の細い人物もまた歌貴であった。
彼らが彼らだと外見で見分ける唯一の統べた額にある翡翠のツノ。
顔半分を覆うようにして被った紗で隠したとは言っても、本来この人物の持つ雰囲気なのだろうか。
既に尋常ではない静謐さを携えていた。
「………おぉい」
その細い背中に、やけに鷹揚な声が掛かる。
僅かに視線を其方へやれば、星明りの下、まるで星影の残滓を集めたように極端に色素の抜けた髪がぼんやりと暗い中で浮いた。
「元親」
形の良い薄い唇が名を呼んだ男の名を紡ぐ。
さらりと耳に心地良く通りの良い声は僅かな大きさであったが男に届いたらしい。
にっと元親が笑い大股に歩み寄り、すっぽりと顔を覆う紗の被り物に目を留め眉を顰める。
「こんな時間に何処に行くってぇんだ?」
「……無粋なことを」
「まさか逢瀬なんてことは言ってくれるなよ?」
元親の大きな手が肩に掛かっていた紗に触れ、そして一気に引き抜いた。
はらりと音も略立てず露になった顔は矢張り男とも女ともつかぬ中性的さを持つ端正な面差だった。
「元親」
咎めるような響きに元親が笑う。
「隠すのは勿体無ぇだろ? 元就」
元就と呼ばれた歌貴は、元親の手から紗の布をひったくる様に取り戻すと頭から被るのは諦め、流れるような動作で羽織った。
柔らかな髪が紗に触れた拍子にゆらりと揺れる。
「で、何処に?」
「特段決めておらぬ」
元親の質問にきっぱりと返る声。
人目のない場所でも気にはなるのだろう、細く形の良い指先が落ち着かぬ様子で自身の翡翠のツノに触れたのを元親は見逃さなかった。
「こんな時間に散歩…ってか?」
「今日であるから、だ」
全く意図が掴めぬといった様子の元親に溜息を返して、元就は空を仰いだ。
時間の偶然か。月は空に上っておらず、ただ星空を敷き詰めた強弱様々な光が空を埋め尽くすのみである。
「嗚呼、成る程」
天にある星明かりの帯を見て元親はからからと笑った。
意図が読めたと笑う男に元就もつられて苦笑を返す。
「確かに無粋か」
「…今年はよう晴れた」
まるで最初に会ったときのようだ、と呟いた元就の肩を逞しい腕が気遣うように抱いた。
体の重心を預けるようにして見上げる空に雲は一つも見当たらない。
「こうやってられるのも、な」
「うん?」
頭から声をかけられる形で元就が身じろぐ。
視線を向ければ、海の色を写し取ったような瞳がじっと元就を見据え、労わるように声は続いた。
「また…色々と先行きが怪しい」
「…戦か」
「その時になったらまた、力を借りることになる」
静か過ぎる声に元就は微かに頷いた。
「そのように気に病むことではない」
「…いや」
「自分で望まなければ、歌は歌えぬ。…我はお前だからこそ意味を預けた」
歌貴の歌は人間には理解できぬ響きを持つ。
真に歌貴の恩恵を受けるには、其の歌貴の言葉の意味を知らねばならなかった。
歌貴が言葉の意味を教えるのは自分が心を許した相手、民のみ。
元就はふと笑い、今身を預ける男がまだ子供であった日のことを思う。
矢張り今日のように夜空を見るために、年に一度天の王に引き裂かれた二人の逢瀬が許された夜に空を見るため、元就はその夜も顔とツノを隠し暗闇を歩いた。
満天の星空の下、出会った少年の髪は光の残滓を纏い、余りにも儚く綺麗でふと足を止めてしまった。それこそ運命のようではないか。
年に一度会うことを許された恋人が出会う夜に、出会うなど。
「…ああ」
掠れた元親の声が耳朶を打ち、元就はゆるりと過去に浸かっていた意識を戻した。
元親の大きな節くれだった手が優しく髪を梳く。
許すように瞳を閉じて元就の唇が、微か、音を紡ぐ。
性別も分からぬ不可思議な神秘性に満ちた、その静かで優しい音に元親が笑った。
歌貴としての力を行使するため歌う歌と違い、それは純粋に元就の紡ぐ歌である。

「初めて会った時に歌った歌だな」


答えの代わりに続く旋律が、やがて一つから二つ、多重に重なっていく。
元就の声に応える様に、世界に宿る精霊たちが音を辿って追っていく。
歌う元就の背中から腕を回すように抱き込んで、元親は神聖な響きを享受して空を仰いだ。
出会った時と寸分違わぬ夜空が其処にあった。



>>七夕の季節とかけて。壱夢庵、朋子さんから借りた設定でのお話。
   ああああ。しかし全然、駄目だったああああ…!orz!

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此処は思うがままにつらつらとその時書きたいものを書く掃き溜め。
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そんなところです。

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