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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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―また、夢を見ている。
また、いつもの夢を見ている。鬨の声。上がる旗。時代劇でしか見ない風景。刀と刀が切り結ぶ音。
そして不敵に笑うあの男。
強すぎて他の者では太刀打ち出来ぬそれに軽やかな足取りで向かっていく自分の、次の運命はいつも決まっている。
負けてしまうのだ。
夢だと最初から認識のある夢だからか痛みはなく、ただ最期に「すまねぇ」と泣く掠れた声で夢は終わる。
その声が誰のだか、知っている。競り負けた筈の相手に泣かれるのだ。敵同士な筈なのにまるで大切な人間を失ったかのようにそれは泣くのだ。
ぽたりと水滴が落ちるのは男の涙で、それに苦笑して「良い」という自分がいて。
何故殺されるのにそんな穏やかな気持ちでいれるのか? と自身不思議に思い目が覚めればいつも泣いている。

……そして今日もそれをやってしまった。

「盛大だったなぁ、毛利さん」
「五月蠅い」

とんとんと肩を叩いて笑う男に元就はうんざりと言った様子で切って捨てる。
不覚も不覚。夢を見るのが悪いとは思わないが授業中に居眠りをしてしまった挙げ句、例の夢を見て泣いてしまうなど元就にとって自己嫌悪甚だしいことでしかない。
意識が覚醒した瞬間、隣の席だった政宗が少しだけ気遣わしげな視線を寄越して、教師に気付かれぬよう机を軽く叩き「大丈夫か?」と口の動きだけで訊ねてきたのに、同じように声には出さず「大事ない」と答えた。
ただ平素感情の起伏が表情に表れない元就にしては珍しい出来事に政宗なりに心配しているようだ。
授業中に居眠りをすること自体珍しく、本来なら涙を流したことに言葉を掛けたいはずの政宗は心得ているとばかりに敢えて触れず居眠りをしたことに対して言葉を投げる。

「最近疲れてるのか?」
「……いや、普通だな」
「でも俺、あんたが授業中に船漕ぎする姿なんて初めて見たぜ?」

その言葉には苦笑するしかない。

「ああ、確かに初めてだな」
「うーん。無理しすぎてんじゃねぇ? 倒れないくらいには休めよ」
「…そうする」

掛け値無しの心配に僅かに笑ってそう答えた元就に満足したのか。政宗が「よし」と笑って頷いて、しかし次の瞬間には神妙な顔つきで元就に顔を寄せた。
突然の事に状態を逸らすことで避けながら、元就は眉根を寄せる。

「…で?」
「何だ」
「どんな夢を見てたんだよ」
「何故、そのようなことを?」

そう切り返せば、盛大な溜息が政宗の口から零れ出た。
理由なんて言われた方が癪だろうと暗に告げているようだ。

「………時折、見る…夢だ」

だから元就は正直に言葉を口にする。夢を見ている間は鮮明な内容も映像も、醒めてしまえば途端に手の中を滑り落ちる砂のように掴み所も鮮明さもなくなってしまう。
何時の頃からか見るようになった夢だというのは分かる。リフレインする。
繰り返す。繰り返し「すまねぇ」と落とされる言葉だけに何か違う言葉を返したいと思うのだ。

「ふぅん?」
「古い…そう、歴史の授業に出てくるような風景で、戦が起こっている」
「…戦?」
「そこで誰かと戦っている」
「分からないのか」
「……夢を見ている時は覚えているのに、起きると忘れるのだ」
「ああ、良くあるパターンだな」

夢を見ている時は内容をしっかりと受け止め覚えているのに、起きた瞬間に薄れてしまうのはよくあることだ。
頷いた政宗に矢張りそうかとぼんやりと思って元就は指先で頬に触れた。
先程無意識で滑り落ちた涙は、何の理由があってのことか。

「いつもこの夢を見て起きると、泣いている。……それも良く分からんのだがな」
「タイミング悪く授業中の居眠りでそれをやったって言うのは、しかし…あれだぜ?」
「五月蠅い」
「俺はいいけど、たぶん噂は広まるだろうな。鉄面皮の毛利が泣いたって」
「…五月蠅い」
「とりあえず、それ出任せだってことにしといてやる。だから、今日の朝の分のチャラにしてくれ」
「結局それか」
「頼む。…今日のは不可抗力で、な」

朝のHR滑り込みの政宗の出欠の確認をしているのは元就だ。
そして未だ担任には報告しに行ってはいない。頼む、と両手を眼前で合わせて拝むクラスメートに今度こそ苦笑する。

「分かった」
「Thanks! 恩に着るぜ」
「いや…、お互い様だ。本当に他言だぞ?」
「嘘はつかねぇよ」

にっと不敵に笑って政宗がひらりと手を振ったのと同時に、休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴った。
教師の来る僅かな間に生徒全員が慌ただしく自分の席に戻っていくのを、椅子に座りぼんやりと見遣りながら元就は思う。
いつも見る夢の、その相手の顔は起きた瞬間には忘れてしまう。
名前は夢の中で一度も言わないので誰なのかも分からない。
けれど繰り返される夢で呼びかけられる声だけは鮮明で。鮮明過ぎて不思議と忘れられないのだ。
がらりと教室の扉が開いて次の授業の教師が入ってくる。その後ろに続いて年若い男が数歩遅れて入り、今の時節、教育実習で来た大学生かと予測をつけて元就は教師の在り来たりな紹介を聞き流す。

「どうも、」

しかし、次の瞬間元就は詰まらなさそうに窓の外に投げていた視線を戻した。
明瞭で明るい響きを含んだ掠れた声。
教師の説明が終わり、それまで隣で大人しくしていた男が自己紹介の為に一歩前に出て口を開いた瞬間、曖昧な夢の境界が途端に鮮明になる。
嗚呼、あの……、声。

「長曾我部元親と言います。名字は堅苦しいけど、本人はそんなこと無いので仲良くして下さい。二週間宜しく」

人好きする笑みを浮かべて頭を下げた教育実習生をじっと見詰め、元就は一度だけ何かを振り払うようにふるりと頭を振った。
夢が現像を結ぶようなそんな感覚に少しだけ胸が苦しくなる。
不思議な、出会いだった。



>>夢と現実の境界線。夢と現実の交点。
   元就の方が年上、といつも思ってるけど偶には年下もいいかな…とか。

   丁度今時期から教育実習生ってくるよね…と思いついた現代パラレル。

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そんなところです。

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