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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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何とも天才発明家の考えることだ。サラブレットを掛け合わせた仔馬が駄馬だったなど良くある話ではないか。
それでも可能性に縋るのだろうか。人類として比類無き才能に満ちた存在の能力を継がせられるのならば、どんなものも、喩え個人の人権さえ厭わないと。
”L”の後継者を育てるワイミーズハウスに女子は勿論いた。全員が全員何かしらの分野において才覚を見せた子供たちである。その中で”L”を継げる、その分野での才覚を見せた女子はニア一人だった。ただそれだけのこと。
問題は跳ね除けられるほどニアがそれについて強く拒絶の意志を示せなかったことにある。
天才と天才の遺伝子を掛け合わせれば、同レベルの天才が、又はそれ以上がこの世に存在出来るのではないか。
嘗ての”L”にワイミーズの抱えていた研究機関が彼の精子を保存したいと申し出た。申し出を”L”は一蹴し、ワタリとして側にあったキルシュ・ワイミーも彼の意志であるならばと”L”の意志を尊重した。
故に彼の遺伝子はバンクに保存されていない。
メロとマットの遺伝子もバンクには保存されていない。それはメロがハウスを出る年齢を達する前に出てしまったが故だし、マットは矢張り”L”と同じように保存を望まない意志を伝えたからだ。
バンクは彼らがハウスを出るのと同時に意志があるか無いかを問う。
しかしニアにはそれがなかった。
最初から決定権が無く、拒絶すれば生まれ持った性別を理由に押し切られるような勢いである。
”L”に相応しい分野で才覚を示した女子は未だニアしかおらず、その遺伝子をどうしても彼らは手に入れたかったらしい。
決定権のない告知にニアは諦めとも嘆息とも着かぬ息を吐き、一度聞いたことがある。
『例えば、才覚のある人物の遺伝子と遺伝子を掛け合わせた子供が普通だった場合、貴方たちはどうするつもりか』と。
聞かずとも答えは出ていた。まず、遺伝子を保存する為の理由自体が酷く実験じみている。人格など、人権など、無視された存在意義だった。
だからこそニアは首を縦には振らず、キラを捕まえたその時まで卵子の提供をしないと言い切った。
何とかキラを捕まえるまでは嫌ですと躱し、頑なに断り続けた。
しかしキラとして夜神月を捕まえてしまえば明確な理由が無くなる。断り続けるのには限界があり、そればかりかハウスを出る時よりも酷い告知を受けることとなった。
遺伝子として卵子を提供せずとも良い。ただし自身で子を為せ、と言う一方的な命令に絶句した。
元々遺伝子を提供し受精させたところで、母体に関する問題が出てくるのだ。代理として出産させる人間は別に凡才でも構いはしないが、中の胎児に影響することを考え身柄を監視しなくてはならない。
時に手段は選ばないだろう。
ならば最初からワイミーズの存在や仕組みを知っている人間の方が良い。
自然受精とは異なることにはなるが、母体として問題がないのなら本人に生ませた方が良いというのが彼らの見解のようだった。
誰の、とニアは問わなかった。バンクにある遺伝子であろうが、今生きている天才と引き合わせようが間違いなくワイミーズの人間か、息の掛かった者でしかない。聞いたとして無駄だった。
ニアは極力人に触れられるのを厭がる。そんな彼女に対して一晩で良い。ただ子を為せと言うのは余りにも精神的に負荷が大き過ぎる。
大体において一方的に押しつけられた内容自体、一昔以上前の女に課せられるようなもので現代にはそぐわない。
不愉快であったがしかし一方で理解はしていた。ニアは一個人として有るよりも、既に個人として見られぬ道を選んでしまっている。必要性があるならば、これから先何度も同じような要求は続くだろう。
”L”として滞りなく引き継ぎを行う間にも再三申し出という名の催告は続き、要らぬ所で精神は摩耗した。
元々外に出る感情が乏しいニアの異変に一早く気付いたのは、施設を作る間共に移動させ拘束していた月だった。「どうした?」と聞いてきた嫌味さえ含んだ涼やかな声にニアが驚いたのは言うまでもない。
「私にも分かりません」と返したニアが、その後ぽつりと「何故、私は女に生まれたんでしょうね」とどうしようもないことを呟いたことに今度は月が驚いた。
顔には出さず、しかし何を思っているのかを量ろうとした。
ニアに拘束されてからと言うもの外部との接触は断たれ、会話など誰ともしていない。別に苦には思ってなかったが退屈は退屈だった。
月は退屈を潰すようにニアが何故生まれ持った性別を厭う言葉を吐いたのかを慎重に聞き出すことにした。”L”として動くだけならば表に立つ必要もなく、”L”たる才能を備えていれば女であることを否定する必要もない。
しかし、ずっと通信越しに精神力の瀬戸際で心理戦を繰り広げてきた相手だ。簡単に月に何かを漏らすことはなかった。
結局聞けず終いのまま拘束された月の部屋からニアが出て行くとき、ひと言だけ「……また来ます」と声が掛かった。それが全てだった。
月にしてみれば拘束されている間、食料を運ばれてくる以外に誰かと接触することはなく、話し相手は時折ふらりと現れるニアだけ。それも他愛もない嫌味の応酬が殆どで、身動きの自由さえあれば殴ってやりたいと何度も思った。しかしふとした瞬間に垣間見える儚い印象がある。何か諦観したような、それでいて決して諾としたくない何かに抗うような。
月はその何かがニアにとって今一番苦痛を与えているのだと容易に結論に辿り着いたが、ニアは決して話さない。核心に触れることを許さず会話を断ち切り部屋を立ち去る。それが続いたある日、いつもとは違う様子で部屋から連れ出され、全てから隔絶された建物に移動させられた。
不便なので貴方を閉じ込める為の建物を用意させねばなりませんね、と初めて拠点を移動した際にニアがさらりと言ってのけたことを思い出して、これがそうかと思った。
ニアと月の居場所は一所ではなくなるのであれば、時折月の元に訪れ会話を繰り返したニアの行動も終わるのかと思い至り何故か少し残念に思う気持ちがあるのを月は自覚する。
殺してやりたいと思っていたはずなのに、相反するような感情があるのに月が自嘲する。所有権を放棄していない為にあまり姿は見なくなったが未だ憑いているだろう死神に、捕まって以降初めて話し掛けた。

「リューク」
なんだ、と声は返る。
「何だろうな、これは」
何だろうとは何かと声は訊いた。月はその言葉に首を捻った。
「そういえば、お前…。ノートを最初に拾った人間と死神との約束があったな」
「ライト?」
「お前のノートに僕の名前を書くって話だ。……あれはどうなった?」
「まだ健在だぜ」
「では、何故未だに僕の名前を書かない? 面白いことはなくなっただろう?」
そうでもない、と死神は言う。リュークは拘束などが通じず好きに移動が出来るのを良いことにニアが抱えている問題を盗み聞きし知っているようだった。それが面白いと言う。
「人間って分かんねぇな。……まぁでも、嫌だって言ってるのに子供を産ませるってのは」
「何の話だ?」
「ニアだろ?」
特に有利も不利もない話をこの死神から聞き出すのは容易く、死神が知り得る全てを知ったとき月は小さく笑いを零すしかなかった。何てくだらない。それが抱いた感想だが当の本人にしてみればうんざりすることだろう。
少しだけ行動を共にして分かったことだが、ニアには接触障害のきらいがある。誰にでも触られて平気な人間ではない。
それを踏まえて勝手に身体を弄られ妊娠させられるにしろ、一晩だけの関係として優秀な誰かを選び行為に及ぶにしろ酷く精神的に追い詰められるだろう。
(だから、あれか)
事情を知れば色々ニアの言動に示唆するものはあったと振り返る。
殆ど感情の起伏を外に出さないニアの、僅かな差違を読み取れたのは月以外はいなかったのだろう。
何てことのない嫌味の応酬を繰り返すことで感情の捌け口となっていたのかもしれない。
「もう一つ、リューク」
「うん?」
「僕はいつまでなんだ?」
目的語のない問いに死神が今までで尤もそれらしい笑みを浮かべた。
「ああ、やっぱり気付いてたのか。流石、ライト」
「……分からない筈がない。お前は退屈を嫌い、僕の名前は必ずお前が書くと言った。なら未だに書かない理由があると踏んだだけだ」
「まぁ、あれだな。……俺の情だな」
「嘘を吐け。ただ今ちょっと面白いだけだろ。……思わぬところでどうなるのか」
「さぁなぁ」
あくまでとぼける姿勢の死神に月は笑った。
「そう。それじゃ、お前が僕の名前をノートに書くギリギリまで…、精々楽しむと良い」
「ライトらしくないな」
「僕にも、よく分からないからな」
「…うん?」
ぽつりと呟いた月の言葉に聞き返してくる死神にそれ以上の答えは与えられなかった。
感情をコントロール出来るとしても、無意識下に覚えた感情を把握するまでには、それを否定すれば尚のこと把握は難しい。月はそんな状態に自分が陥ったことだけは自覚していた。



***


「話さなくてはならないことがあります。一緒に来て下さい」
切り出したのはニアの方だ。ユイは見ていたテレビから視線を上げて母親を仰ぎ見る。
「何処に?」
「父親のことが知りたいんでしょう? 此処には何もありませんから、今私の使っている”L”の拠点に」
「……うん」
「貴方の誕生日でも良いかと思いましたが、……それではきっとケーキを囲んでも楽しくなくなってしまうので」
ユイが父親のことを教えて欲しいと言った翌日に決断して寄越すニアの表情は読み取れない。
誕生日は四日後だ。その時でも差し支えないとユイは思っていたが、母親なりに気を遣ったようだ。それとも話すなら自分の覚悟が変わらないうちにと考えたのかも知れない。
「分かった」
だからユイは大人しくテレビの電源を消してニアの後ろに続いた。
既に用意していたのだろう。セキュリティゲートを潜り出ると一台の車が待機している。
いつもユイの送迎を買って出るステファンではなく、実質母親の片腕の役割を担う体格の良い男が運転席に座っている。
「行きましょう」
隣に並んだユイの背中をそっと押して車内に招き入れるとその横にニアも身体を滑り込ませた。
無言の侭進む車の中で外の様子をぼんやりと眺めたユイにニアが話し掛ける。
「…前に言ったことがありましたね」
「……え?」
「私、自殺を図ったことがあると」
「ああ。手首を切るのは意味がないっていう話?」
随分と前にそんな話をした気がすると思い当たり答えると、頷いたニアがほっそりとした自分の左手首を差し出した。
白い肌に僅かに傷跡がある。
「冗談なんだって思ってた」
「傷跡が余り残らないよう、上手く治療して貰いましたから」
「……躊躇い傷が無いのは跡が残ってないだけ?」
強い意志と精神力を持つ母親が自殺を図ったことがあるなど、会話での言葉の綾なのだと思っていた。
差し出された手首をまじまじと見詰めて問うユイに淡々とした声が返る。
「いいえ。私がこれをやったのは一回だけです。だから、刃を此処にあてたのも一回」
暗に躊躇無く手首を切ったと告げた母親が、薄く残る傷跡を確かめるように片方の指先でなぞる。
車内での音はエンジン音とユイとニアの声のみ。どちらも口を閉ざせば妙な沈黙が車内を支配した。
「貴方を産む前のことです」
「うん」
「本当に死ぬ気なら別の方法を取るべきだと、不思議ですが…切った後に気付いたんです。流れる血を見ながらぼんやり。…あの時の私は、精神的に追い詰められていました」
「”キラ”と対峙してたときよりも?」
「お互いの命を賭けて戦ってきたと言う意味では、極限で戦ってましたけどね。……それとは少し違います」
そっとユイの頭を撫でてニアが笑う。
「衝動と言えば衝動的だったんだと思います。死んでしまえば煩わしさから全て逃れられるんじゃないのか、と」
ぽつぽつと話す母親の声はいつもと同じく起伏の少ない、感情の読み取りづらい声だ。
「あの時は流石に、誰も彼も驚きましたね。……、でしたね、レスター」
沈黙を守りハンドルを握る運転席に声を掛ければ「本当に」とだけ返ってきた。声には苦々しさが含まれている。
”キラ”を追っているときから行動を共にし、仲間の中でも一番の信頼を得ていた彼がその時少なからずショックを受けたのが十分知れる。
「彼だけでしたよ」
「……?」
運転席から視線を移さぬまま、ニアが呟く。
「貴方の父親だけが、あの時、私を本気で怒ったんです」





>>ifパラレル7話目。
   フラグ回収、フラグ回収………の作業で頭が痛くなりそうだぜ。取り落としないようにしないとね
   こういうときはやっぱりメモでもいいからプロットみたいなのを書いておくべきだと
   常々思う

   今からでも練習しようか(遅いな)

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此処は思うがままにつらつらとその時書きたいものを書く掃き溜め。
サイトにあげる文章の草稿や、ただのメモ等もあがります。大体が修正されてサイトにin(笑
そんなところです。

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