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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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がつん、正確には音はなく、純然たる魔力がぶつかる衝撃を鼓膜がそのように誤認識しただけだった。
漆黒の長い髪をなびかせた女性の人形が滑らかな動きで、ついと浮かび上がる術式を消し去っていく。速さで行けば此方が上。だというのに、後手に回っている相手の方が何倍も上手だった。
「ライト君、敵いません。降参して下さい」
ぶつけられそうになった魔力の玉を弾いて人形が告げる。
最上質の結晶人形であるこれが容易に敵わないとなれば同じ結晶人形なのだ。相手の人形もまた。
「ライト君…! 決断して下さい。私が壊れるのは構いません。貴方を、」
常に落ち着いた印象しかない人形が切羽詰まった響きを含む声を上げた。続くはずの言葉は、相手側の人形の後ろに控え微動だにしなかった小柄な人影に遮られる。
「クロニカ、そこまでにして」
少女の声だが高いわけではなく低さのある凪いだ声。
淡々と人形へ指示を下した少女が一歩前へと踏み出した。少しだけ色素の薄い髪の毛は肩より短めで、にこりと笑った目は端に怜悧さを含ませている。
「……エル、と言ったのかな? 賢明な判断ありがとう。僕としては君たちに極力危害を加えたくなかったから、大人しくして貰えるのなら有り難い」
僕を庇うようにして立つエルにそう言った後、未だ臨戦態勢を取ったままの自身の人形に視線を移した少女が何事もなかったように告げる。
「クロニカ、戦闘はお終い」
「しかしマスター、もし…」
「此処で不意打ちなんて真似、”透の騎士”の弟である貴方がするわけもない。そうでしょう?」
人形の心配は尤もなことだ。しかし少女は僕を見据えて、そう言った。
「……ああ」
「ほらね。だから手を下ろしなさい、クロニカ。これ以上の戦闘を僕は望まない」
少女はきっぱり告げると未だ逡巡する女性型の人形の手を掴み自ら下ろさせた。
「君は、一体…」
それを見届けてからエルを退けて訊ねると少女は先程の戦闘など無かったように笑う。
「警戒させて申し訳ない。…ちょっと訳ありで旅をしているんだけれど、どうしても此処を通りたくて」
「この屋敷の敷地内を?」
「そう。そうすれば、撒けるから」
暗に誰かに追われていると言いつつ少女はぐるりと闇に半分以上溶けた庭園を見渡した。そしてくすりと笑う。
「助かったよ。とりあえず、あの白い人形はいないみたいで」
「ニアのことか?」
「…”今”の僕とは面識がないけど、それでも…ね。とにかく危害を加えるつもりはないんだ。…この子、こう落ち着いて見えて結構心配性で、つい戦闘意志を出してしまって…申し訳ない」
ぺこりと頭を下げる少女は、そうすれば尚のこと小柄に見える。
幾つくらいなのかは分からないが僕よりは年下だろう。
「しかし、君…。マスターになってどれくらい?」
「…え?」
「その子の属性は紫、君も紫。相性は良いね。……でも少し経験が足りない、かな」
だめだよ。人形をそんな風に使っては、と年下の少女が年配者が若輩者に対して助言をするように言う。
不思議と違和感がないそれが逆に違和感だった。
「……君、は」
「ああ、僕? 僕は隆景。この子はクロニカ。また、会うときがあるだろうから宜しくね」
また会うときまでにはもう少し上手く繰るようになりなさいねと付け足して、少女と女性は用は済んだとばかりに闇に溶け入るように消える。
それを追うことは出来なかった。まず自分の人形が許さなかったし、何より―。

「……隆景? ”白の女王”の名だ」

嘗て人形大戦の折りに名を馳せた”白の女王”。その名の与える印象とは裏腹に晩年は多く殺戮を繰り返した、その人形使いを打ち破ったのはまだ少年だった兄とその人形だ。
その女王と同じ名前。
「ライト君」
心配そうに呼ぶ自分の人形エルに笑ってみせる。会話の内容を思い返せば色々な憶測が出来たが今は止めることにした。
見えないように庇ってはいるがエルは左腕をやられてしまっている。
「ごめん」
「…いいえ。私こそすみません。ライト君を危険な目に遭わせました」
一緒に戦うことが本来ならば互いの命を賭けるのは当然のこと。
謝ることはないというのに、心底申し訳なさそうに謝るエルに僕の方が申し訳なくなる。
相手が先に戦闘意志を見せたとはいえ、間違いなく相手の力量を見誤った僕の判断ミスだ。
「いや、僕こそちゃんと判断すべきだった」
とりあえず大丈夫な方の右腕を掴み引き寄せる。大人しく従ったエルをそのまま引き摺るようにして屋敷へと戻り、壊れてしまった左腕の様子を見なくては、と思った。
場合によっては何故破損させてしまったのかの理由も考えねばなるまい。
「ライト君、私こけて駄目にしましたっていいましょうか」
「………破損の具合にも因るな」
「ですね」


***


「マスター」
「はいはい?」
「不用意に名を明かされては、」
「どうかな」
「…はい? あの人形…、結晶人形では一番年下だったね」
「ええ。最後に作られています」
「クロニカの最初の一撃目を受け流したのは見事だったよ。その後の対処の仕方、少し冬さんに似てた」
「………マスター」
「ごめん。気のせいだとは思うんだけど」
少女が少しだけ苦笑して「ごめんね」と小さく呟いた。
「ただ単に興味があっただけ。ライトとエル…ね。良い組み合わせじゃない?」
くすくすと軽やかな笑い声に、結晶人形としては感情の乏しいクロニカはどう答えて良いのか分からずに首を傾げる。
「ええと、隆景…?」
「つまり気に入ったってこと」
少女が鮮やかに綺麗に笑った。夜の静寂の中二つの影が街の影に紛れていくのを見た人間は誰もいない。



>>カテゴリを何処に入れて良いのか迷って分類不可。本当はデスノでも良いと思う(笑
   景ちゃんは個人的に書きやすいんだけど、そういえば月と一緒にいると
   二人して一人称「僕」で困るね。
   どちらかというと二人とも腹黒^^^ あ、でもこの設定の月は繊細なイメージがある。

   こっそり睦月さんに捧げます。

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此処は思うがままにつらつらとその時書きたいものを書く掃き溜め。
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そんなところです。

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