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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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信じられますか?
憎んでいた筈なんです。
彼が目指していた世界全てを奪い、彼の思想を全否定した私を、彼は憎んでいた筈です。
そんな私が何処でどう死のうと構わなかったはずだ。寧ろそんな情けない死に方と嘲笑うくらいなのではないのかと思っていました。けれど、彼は違った。
私に『そんな下らないことで死ぬな』と言ったんです。

感情を映さないニアの声だからこそ逆に真実味を帯びるのかも知れない。
ユイは間もなくして停車した車を降りた。何処にでもあるような外見のビルをニアに手を引かれて入っていく。
普通のビルのように見えるこの建物も厳重なセキュリティが敷かれている。現にユイがさっと見ただけで十数台のカメラが二人を追っている。実際はもう少しあるだろう。
エレベーターに乗り最上階へと向かう間、お互いに無言だった。沈黙は低く鼓膜を揺らすエレベーターの動作音に緩和される。
繋いだままのニアの指先は冷たく、少しだけ力を込めれば視線を落としたニアが微かに笑った。
同時に目的の階に辿り着いたことを告げる電子音が鳴る。エレベーターを下りるとリノリウムの廊下が僅かに続き無機質な扉が見えた。
ニアが慣れた手順でセキュリティ認証をクリアしていく。
音もなく扉が開くと薄暗い部屋にたくさんのモニターが連なっていた。
「着きました」
それだけを告げるとニアは部屋の中央に手を引いたままユイを連れて行く。
椅子を引いて示すのでユイは大人しく腰掛けた。壁一面がモニターという異様な光景に動じているのではなく、今その全てのモニターが沈黙しているのに不安を覚える。
「母さん」
「…心配には及びません。話をする為に来たんです。丁度仕事も片付けたところでしたし、彼の姿は此処にしか残してないんですよ」
ニアが端末に手を掛ける。滑らかに細い指が動き一つのモニターにある映像を映した。
白を基調とした部屋の中で退屈そうにしている人物の顔には見覚えがある。
いや、見覚えというのはおかしいのか。ユイは食い入るようにモニターを見た。
「貴方の父親です」
モニターを見詰めるユイの横顔からモニターに視線を移しながらニアが告げる。
言われなくとも分かっている。二週間ほど前に突然姿を現し父親だと告げた正しく月本人だ。
「…本当に僕、父さん似なんだ」
「一つ、訊いても良いですか?」
「うん」
「どうやって名前を知ったんです?」
ニアの質問にユイがモニターから視線を外した。
「どうして”キラ”だと分かったって質問じゃないんだね」
「…それは質問する意味がないですから。貴方なら名前を知ってしまえばいつか辿り着いてしまう真実だと思っていました。私や、これに関わった全員が死んでデータも抹消されない限り」
極端な物言いだがニアの言葉は真実だ。
ニア自身ずっと隠し通せるものではないと分かっていて、時期が見て全てを話すつもりでいた。それよりも子供が真実に辿り着いた方が早かった。それだけのこと。
しかし腑に落ちないことが幾つかある。その一つが、父親の名前をいつ知ったかである。
ニアは父親である夜神月の名前が、例えば目に触れたとしても不自然に目に留まらないように配慮した。日本人にしては変わった名前だ程度にしか思われない。そんな情報でどうやって父親と特定出来たのか。
「……、偶然…って言ったら?」
「有り得ません」
ユイの言葉をきっぱりと否定して、ニアは一度溜息を吐いた。
「質問を変えましょう。……二週間ほど前、私が立ち上げたまま置いていったノートを覚えていますか?」
「…えっと、リビングにあった…あれ?」
「その日、私に貴方からメールは送りましたか?」
母親の質問の意図が掴めず首を傾げながら、ユイは思い返す。
あのパソコンを弄ったといえば弄ったがセキュリティがわざと外に出されたノートからメールを送るなんてことはしていない。
「送ってないよ」
ユイの返事にニアの指がまた動いた。別のモニターに何か文章が映り込む。見覚えはなかったが、はっと息を飲んだ。
姿が見えず、気配を感知出来ない人間にどうやって干渉するのか。月が試すように接触したのだと知る。
「これ、」
「…はい。見覚えはありませんね? ……でも、差出人を知っている。違いますか?」
モニターからゆっくりと目を離しユイは母親を見詰めた。観察するような深い色の瞳がじっと此方を見詰めている。
とてもじゃないが誤魔化すことは出来ない。しかしどう話せばいいのかとユイは頭を抱えたくなった。
父親のことが知りたいのは事実だ。けれど同様にニアは何故ユイが父親の存在に辿り着いたのかを知りたいのだろう。
一種交渉に似た遣り取りに経験不足のユイが敵うはずがない。
その場凌ぎのあやふやな嘘はかえって自分を苦しめることになるとユイは結論を弾きだした。
「母さん」
「…はい」
「僕を、変だと思わない?」
だから最初に断りを入れる。
死んだ人間を見て、その死んだ人間から名前を教えて貰ったと言えば、大抵の人間が夢でも見たか正気じゃないと思うだろう。母親が頭ごなしにそう結論を下すとは思ってはいないが矢張り怖い。
「どういう意味で?」
「頭がおかしいんじゃないかって思わないか…ってこと」
「そうですね。それじゃ、死神を見たことがある私も頭がおかしいのかもしれませんね」
ニアにしてみればキラ事件の概要全てにおいて、それまでの常識を覆されている。
他の人間同様、死神や人間の到底与り知れない何かなど存在しないと言い切ることは出来ようもない。
実際、自身の目で死神を目にし会話をした。それも幾度も。
「…母さん?」
「だから話してはくれませんか。どうやって名前を知ったのか。……夜神月と会ったのかどうか」
じっとユイを見詰めていたニアが瞬きをし、視線を外す。伏し目がちの視線は変哲もない無機質な床を映すだけだ。
ニアがユイの目の前で初めて夜神月と名を口にした。一瞬躊躇った間にユイがそういえばと今更に部屋の中に視線を走らせる。
母親は既に自分のこれから返す言葉を予測して質問してきている。
信じる、信じない、ではなく今起こっていることを信じられなくとも受け止めようとしているようだった。
「うん、………僕も信じられなかったけど」
ゆっくりと口を開いたユイがモニターに映されたままの映像に視線を戻す。
「僕は、…この映像の人が父親だって知ってるよ」
ユイの言葉に、僅かにニアの瞳が揺れる。予測はしていても真実と受け取るのは難しい。
目に見えてロジックで解けるものならば、兎も角。
「……最初に会ったときに父親だって言ってた」
モニターに映る生きた頃の月がついと視線を上げる。カメラの位置を知っていた上での意思表示のような行動に、ユイは其処に父親が本当は生きているのではないのかと錯覚しそうになった。
コンソールから手を離しユイの傍らまで歩み寄りながらニアの視線もモニターから外れない。
「最初に会ったのは?」
「…二週間くらい前」
「私に、”幽霊っていると思う?”って訊いた日ですか?」
「うん、そう」
モニターの中の月は何か意味を持たせるような仕草をして、ついと視線を逸らした。
「だって、夢かなぁって思って」
「彼なんですね」
「…うん。でも、母さん? 信じられる? 死んでしまった…現に自分で死んでるって本人も言ってたけど、父さんに会えるなんて、僕が普通に話を聞いたら頭がおかしくなったんじゃないかって思うよ」
「そうですね。私が貴方くらいの歳の頃であったなら同じ反応でしょうね」
「だからあの時聞いたの。幽霊っていると思うかって」
そんなのはただの思い込みだとニアは否定するのではなく、有り得ると肯定した。
ユイにとっては意外な答えだったし本当は少しだけ救われた気もしたのだ。
「僕は父さんの名前も顔も知らなくて、ただ似てるっていうのだけは間接的に言われてきたからそうなんだ…って漠然としか思ってなかった。母さんが話したくないなら、別に困ってないし良いって」
「ユイ」
「でも本当は少し気になってたんだと思う。名前は、ただ興味があったから聞いたんだよ」
「答えた…?」
「だって答えない意味もないんじゃない? 少し驚いてたけど」
モニターから視線を外して傍らにいるニアを見上げて笑う。
それには困ったような微笑だけが返った。
「驚いてたんですか」
「ん…、うん。たぶんね。……それに」
月がユイの前に現れてから、時折姿を消すことはあっても大体近くにいた。その意味が分からないわけでもない。
考え込む仕草の後に名を教えた月には、ニアがどのような意志を持って名を教えなかったのか大体見当がついていたのではないかとさえ思う。
そして名を教えたことによって子供が父親の素性を探ろうとすることも。
学校には時折着いてくる程度だと思っていたが、決まって父親のことを探ろうとする時に月は現れた。
少なからず月はニアの意志を汲んでいる。
「ユイ?」
「…ううん。何でもない」
ふるりと首を振ったユイはモニターに埋め尽くされた部屋をもう一度、見渡す。
車に乗り込んだ時点では確かに着いてきていた月の姿がない。建物の中にはいるのかも知れないが、少なくとも部屋の中に気配は感じられない。
相手が完全に遮断しなければ、二週間共に生活すれば気配も微弱ながら察知出来る。ユイは既にその微弱で不思議な感覚に慣れてしまっていた。月は間違いなく自分たちを慮ってこの場を辞している。
「母さん、」
そっとユイの頭を白く細い手が撫でる。
「約束ですね。お話ししましょう。彼のこと」


***


長い話になります、と切り出されたのと同時にニアもまた椅子に座り込んだ。コンソールに片手をおいたまま、色々な映像がモニターに順に映されていく。
それはユイが生まれる前に起こった”キラ”事件に関わる資料。事件が起き始めた時の”L”のデータは一度消されてしまっているので、日本警察に残っていた資料が保存されている。無差別ではなく明らかに人為的に死んでいく被害者。
分からない犯行の手口。垣間見える犯人のプロファイリング。そして秘密裏にされた”L”の死。それを知られないよう”L”の代理として立った一人の存在。
後にはニアが纏めた資料と事件解決後の調書が順に続いた。
そこには凡そ人の理解の範疇を超えた死神の存在と、その死神の持ち物である”ノート”についての記述も含まれた。
”ノート”にはその人間の顔、名前が分かり名前をノートに書けば死に至るという何とも夢のようなものだった。
幾つかのルールは存在したようだが、簡潔に名前と顔さえ知っていて書くものがあれば人を殺せる、そんなもの。
俄かには信じられないが資料として残っているノートに対するデータと事件のデータの整合性。現物を見なくとも、それが犯行に使われ、そして大量の人間の命を奪ったものだとは容易にユイにも理解できる。
資料に目を通すユイの横でニアの声が補足説明をしていく。淡々と語る割に内容は中々過酷なものだった。
母の部下として今も働いている彼らは正しく命を賭けて”キラ”を追っていたのだ。そして母もまた、彼らの命も全部背負い、心理戦を繰り広げた。
顔を晒す事で命を投げ出すことになる、それを逆手に取った直接対決もそうだが、通信越しでの探り合いにも酷く神経は摩耗したことだろう。
そしてその相手が父親となれば、ユイは資料を見つつ不思議な気がしてならなかった。
札として自分の存在を賭け直接対決に望み、「本来ならば私が負けていました」とぽつりと隣でニアが声を落とした時には流石にユイも肩を揺らした。
少しだけ寂しげに笑ったニアが、捕まえたときにあっさりし過ぎてどう痛めつけてやろうかと思ったと言うので、ユイはそれにも驚く。
声に感情は殆ど含まれていないというのに妙に感情的な言葉の理由は、
「私の大切な人は、全員”キラ”の前に敗れていきましたから」
あまり母親が見せない人間らしい一言だった。
そしてそれは真実なのだろう、とぼんやりとユイは感じた。




>>なんか纏まらなくなってきて迷走中なんだけど、どうしたらいいか、これ…orz
   もうちょっと上手くできないか考えて見る…。

   ちゃんと前後繋がってるかだけが不安だなぁ…

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くまがい
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性別:
女性
自己紹介:
此処は思うがままにつらつらとその時書きたいものを書く掃き溜め。
サイトにあげる文章の草稿や、ただのメモ等もあがります。大体が修正されてサイトにin(笑
そんなところです。

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