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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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「…父さんは。”キラ”は……捕まった時、抵抗しなかったんだ」
「抵抗? ああ、そうですね。細工したノートに私達の名前を書かせることで”キラ”を確定させ、証拠を上げる。これが私の策でした。そして彼は私の策を読み、偽のノートを掴ませ差し替えさせ、直接対決の場で本物を使い邪魔な全てをその場で排除する。その段階では彼の読みは私の上をいっていた。けれど本物のノート一冊丸々差し替えられたことで、そう、彼の私の上を行く策に気づけたのは…私の友人の功績ですが、彼は自供する以外になくなった。けれど本来なら、自供をしても諦めず隙あらば私の名前を身に付けていたノートの紙片に書こうと試みたでしょう。でも」
「駄目だった?」
「彼が時計に仕込んでいたノートの紙片は、上手く彼の部下によって時計ごと取り上げさせましたからね」
にこりと笑ったニアがことんと何かを机の上に置く。
透明な袋に入ってはいるが腕時計だった。話の流れから月が身に付けていたものだとユイにも理解出来る。
「いつも彼が気にしているものは何か…、当時の”L”と一緒に捜査していた警察官の中で、私にも協力してくれた人間に聞いたんです。Lが生きていた頃から二代目Lが身に付けていて、いつも肌身離さないものは何か。すぐには出てこなかったんですが、時計だと回答してくれました。だから、もし…ノートを切っても使えて、仕込んでおくのならそれだと思ったんです」
「……取り上げたの?」
「理由はどうとでも。…どう理由付けたか忘れましたが、時計を外して下さいと言いました。そして、自分の仲間の捜査官に渡せ、と。理由もなく否定し抵抗すれば何か拙いことがありますか? と聞けばいい。どちらに転んでも良かった。彼には想定外だったようですが、何より彼は最初にしたノートの細工と私の手に気付いていましたから、彼も取り上げられたところで差ほどの痛手にはならなかった筈なんですよ」
その余裕が月から最後の抵抗を奪った。
袋に入った腕時計にそっと触れてユイは溜息を吐く。
母親ばかりか父親の目もかいくぐって、父の名がある日を堺に自然過ぎる”不自然”という形で社会から消されたこと、それを軸に調べれば夜神月が”キラ”であったこと、そのことは世界中に伏せられたまま、一緒に捕まった男が”キラ”であると投獄され、一応の終結を見たことまでは突き止めた。
誰の目にも触れさせず死ぬまで身柄を拘束し続けるつもりだったニアが、夜神月がキラである情報を何処かに流すことはない。他でもなく、現在”L”と共に機能しているデータベースにアクセスを仕掛けたのだ。
簡単とは一概には言えなかったが、元々セキュリティの内側にいる人間であることを逆手に取れば、外部からアクセスするよりも容易だった。
「…にしても、ハッキングの腕は父親譲りでしょうかね」
「父さんも得意だったの?」
「らしいですよ。簡単にやってのけたとか色々言ってくれましたから」
それでもニアがモニターに映し出した明細な資料や、語った成り行きまでは知らない。
ただ夜神月という人物が本当の”キラ”であったと知っただけだ。
袋に入った腕時計を摘み上げれば思ったよりも重量があり、結局はしっかりと支え目の高さまで持ち上げる。
「それ、仕掛けがあるんです。…普通の人間ならやらない仕掛けが」
「摘みを四回素早く引く?」
「良く知ってますね。貴方がハッキングした資料には載ってないと思いましたが」
それどころかニアが厳重に自分以外閲覧出来ないようしまい込み、今しがたユイに見せた全てのファイルにもその記述はない。
「……父さんに聞いたんだよ」
さらりとユイが言ってみせた。
袋の上から摘みを一秒を空けない間隔で四回素早く操作すると時計の底がずれて、何か小さなものであれば入る空間が出てくる。今は其処に何もない。
「母さんから、話を聞く前に少しだけ父さんに聞いたんだ。夜神月は”キラ”なの? って」
「……そうでしたか」
「昨日だよ。母さんに父さんのことを教えて欲しいって言って部屋に戻った後。…怒られちゃった」
怒られたという割にくすくすと笑うユイにニアが首を傾げる。
言葉とは裏腹なユイの態度もそうだが、怒ったという月の理由が分からない。
「事件のこととか、そういうのは母さんから聞けって言われたから聞いてないけど。自分はキラだって教えてくれたよ」
「……それじゃ、貴方は彼から何を?」
「うーん。母さんから教えて貰えないだろうことを」
「……動機ですか」
「後はその前のこととかね」
スライドした時計の底を元に戻し、ユイが小さく笑った。
「母さん」
「何ですか?」
「”キラ”は許されるべき存在じゃないと僕も思うけど、一人の人間として父さんは…きっとある意味純粋で、そして孤独だったんだね」
時計を机に置いたユイがぽつりと落とした言葉にニアが返す言葉はない。
全て憶測に過ぎないし、例えば月本人に問うたとして認めることはないのだろう。
ただ退屈で張り合いのない日常と、真に理解して貰える相手のないまま、そして折角見つけた相手は自身にとって敵で排他しなければならなかったのだとすれば、彼の心情はどうだっただろう。
推測の域は出ないし、普通の憶測が通じる相手とも思えない。
「貴方には、もう少し大きくなったら頃合いを見て全てを話すつもりでした。父親の名前も、このことも」
「うん」
「でも今、”キラ”事件に係る私が持っている全てを貴方に教えた。…それを踏まえて聞きたいことがあるんです」
「…うん」
「もし貴方がノートを拾ったのなら、どうしますか」
ニアの問いは沈黙の合間に落ちた。
善悪、モラル、社会情勢、社会における自分の立ち位置、それら全てをひっくるめて自分で理解し答えを持つとニアが判断したときにするはずだった問いだ。
一つ一つの言葉を咀嚼するようにゆっくりと頷いたユイが、母親から唯一外見で受け継いだ深い色の瞳をモニターに向ける。思案というよりは既に答えは出ているようだった。
「父さんと同じように使うかも知れない」
そしてはっきりと迷わぬ声が告げる。
「……、」
「けど僕は、そうなったら自分の名前を途中でそこに書くと思うよ」
モニターから視線をニアに移してユイは笑った。
人の命を奪うことに何の躊躇いもなかったわけではないとユイは月に聞いている。
初めて使った日は眠れなかった、月にも人としての精神があった。何処で歯止めが利かなくなったのかなどは知らない。
ただ聞いたことがある。初めて銃のトリガーを引くとき躊躇うが、二度目は躊躇わない。きっとそれに良く似ている。
ましてや私利私欲ではなく世界や平和など大き過ぎる大義を掲げたとき、精神は自己防衛の為に自身を正当化し、罪悪感は正当化に因って麻痺していくだろう。
「……理由もなく死んでいく人が居る。誰だって良かったって理由で殺されてしまう人がいる。そんな出来事は確かに世の中に存在してる。たくさんある。けど、……だからって自分がそういう加害者を殺して良い理由にはならない。例えどんな理由や大義名分があっても」
「それが出来る力が与えられたのだとしても?」
ユイの答えにニアの声は静かにまた問いを重ねる。
「与えられた? そう考えること自体が変じゃない。……だって僕は人間だから。それ以外の何かにはなれない」
「ノートを使えば新世界の神になれる、貴方の父親はそう言いました」
「でもやっぱり人間でしかなかった。母さん、僕を育てたのは母さんだよ」
「私の意見をなぞれとは言ってませんよ」
「人を殺して、良い世の中を作るなんて、なんか矛盾してるじゃないってそういうこと」
此処に来てユイの口調は同じ年齢の子供と同じ口調だった。
「なんか、極端じゃない。行き過ぎるよ、それ」
「というのは?」
「結局、父さんの世界は完成しなかった。結果として”キラ”のいる前の世界に戻ったわけで、思うに」
背もたれに体重を預けてユイが器用に反動を付けてくるりと椅子を回した。
「異常だったのは、”キラ”の世界でしょ」
「まぁ、結果的に見れば」
「個人っていう話なら、世の中に絶対は無いから使ってしまうかも知れないけど、世界をそんな方法で変えようなんて思わないよ」
「どうして?」
「だって、きっと……その方法では、父さんが作ろうとしてた世界には父さんの思い描いてた理想は無かったと思うから」
最初は純粋に世の中から理不尽な事件が起こらなくなればいいと思ったのだとして。
それを裁く誰かがいること、それが自身だと陶酔していたかもしれない可能性に到達はするが、それを馬鹿げていると一蹴するにはユイはまだ子供だ。
けれど分かることはある。
世界は、その方法で表面的には急速に平和に近づき変わったのだとしても結局本質は変わらない。
極端な話、夜神月が存命中は世界の秩序が保たれるとして、その後は?
遅かれ早かれ破綻しかユイには見出せなかった。
「不思議なんだけど、父さんに聞いて母さんに聞いた。聞けば聞くほど終わりしか見えない。なら、僕はやっぱりその方法は違うなって思うよ」
「ユイ」
椅子に座ったまま、母親の腕がユイに回った。
ふわりとした癖毛がユイの頬をくすぐる。
「何?」
「いいえ。……いえ、何でもないんです」
突然の抱擁に驚いたユイから母親の表情はよく見えない。
ただ少しだけ声が揺れているのが分かって、そっと障らないようにユイは母親の腕に手を充てた。
途端回された腕に力が込められる。泣いているのかも知れないとユイは思い当たって、暫く少しだけ苦しいその体勢を甘んじて受け入れた。
ニアの少し低めの体温を心地良く思いながら、ユイの頭は昨晩と今で与えられた情報をフル回転で整理していく。
分かったことが有れば矢張り分からないことがある。
どうして、”キラ”であった夜神月との子どもを、―自分を産んだのか。
訊けば母を苦しめることになると知りながら、聞かずにいれない自分に自己嫌悪してユイは瞳を伏せる。


>>ifパラレル9話目。
   もう何が何だか分からなくなってきてるなと言わないで下さい
   私が一番そう思っています(…)

   ああ、でも負けるわけにはいかないんだぜ

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そんなところです。

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