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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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ゆったりと流れるような薄闇が覚醒を促す。そろそろ日が昇る頃合いである。
ぱたりと無造作に、否、確かめるように腕を空いた布団の方に伸ばし何の感触も掴まず、布団の上に落ちた。
本来そこにある筈の膨らみはなく、僅かな温もりと残り香だけが昨晩を夢ではないと証明するのだ。
元親はふ、と息を吐き諦めたように隻眼を開ける。矢張り夜闇は今や残滓だけを残し消えていこうとしている。
朝陽の昇る時間に起きることなど、朝陽が昇る時間まで起きていたことがあったとしても、これまではなかった筈なのに可笑しなものだと内心笑った。
暫くすれば室の外、縁の所で静かに目を閉じ日輪を拝む男が、静かに音も立てず戻ってくるだろう。
端正な顔に僅か眉を寄せて不機嫌そうに言うに違いない。「未だ起きておらぬか。だらしのない男よ」と玲瓏な声が。
漣のように静かな平素の声も、怒りを滲ませながらも取り繕う低い声も、武将らしからぬ細さの男の喉が震う声全てが元親は気に入っている。
朝一番にそれを聞ける今の状況下も悪くはない。
思い当たり寝返りを打って元親は瞼を下ろした。もう少し寝ていても問題はないだろう。
大体相手が早すぎるのだ。
夢と現実の堺をすぐに行き来し出した意識が浮遊感を伴ってぼんやりと意識を落としていく。
その先ですると衣擦れの音がした気がした。

「元親」

そして名を呼ぶ。その玲瓏な声で、囁くように名を呼ぶ。
反覚醒した意識で後には馬鹿にしたような言葉が続くのだろうと思っていた。元親、ともう一度声は落ちる。
そっと布団の脇に置かれた手首の細さが垣間見えてはっとした。これは本当に同じ性別の、乱世に一族の頭領として立つ男のものなのだろうか。
戦場での凛とした姿からは想像もつかないのだ。だからこそ時折水を被ったように認識することがある。
腕に収まったときの線の細さや、時折見える儚さを内包した雰囲気をこの男が持つことに。
何か不安定な安定さがそこに目に見える形としてあることに。
「寝ておるか…?」
覗き込むよう身を屈めた男の髪は陽光にすければ柔らかな色を持つ。少しだけ色素の薄い癖のない髪。
薄く開けた視界の端を掠めて、次にはそっと前髪を気遣わしげに避ける繊細な指先が額に触れた。
完全に元親が寝ていると思い込んだ上の行動に、狙わず息は止まりそうになるが自然を装い息を吐き出す。自然と呼吸が浅くなる。
顔に僅かに掛かっていた前髪を払って、男の端正な顔がゆっくりと近づいた。
互いの息が掛かる距離。優しく労るように額に口付けられて元親は不覚にも身動いでしまった。
しかし寝ていると未だ思っているのだろう。完全に覚醒してしまった意識の中、元親は離れていった男が今どんな表情を浮かべているか知りたくなって薄く瞼を持ち上げる。
終ぞ見たことのない、薄く笑みを佩いた表情は儚げではあったが同時に悟ってしまった。
これこそが根本。彼の本質であると。
家を守り生き抜く為に優しさや何もかもを切り捨てた知将は、孤独を内包し戦場で流れる血にも失われる命にも微動だにしない。
一分の隙もない完璧なる冷徹の仮面を被り、全てを見通すのだ。
微塵も感じぬと宣言した口で、嘗ては穏やかに笑って優しい言葉を紡いだことさえあるのだろう。
今はそれが許されない。そしてまた許されようとも思っていない覚悟を見た気がして元親は密かに瞠目した。
「…、元就」
「………ん? 起きたか」
囁く様に呟き返すと今起きたと勘違いしたのだろう。まだもう少し寝ていても良いと屈み覗き込まれ言われて堪らず、身体を支えていた細い腕を自身に引き寄せた。
簡単に崩された体勢に眉根を寄せて、しかし抱きとめられて男は優しさなど欠片も見せぬ笑い方で笑う。
「寝呆けているのか? 困った男よな。寝首でも掻かれるとは思わないのか」
「…、お前こそ、な」
「仕様のない」
溜息混じりに吐き出される言葉に偽りはない。
海を挟み向かい合う国主同士が共に寝る関係に至るなど、どちらかが一方を隷属させたわけでもないというのに、可笑しな話だ。互いにその関係が生む危険性を知りつつ尚続けているのだ。
「本当にな」
けれど何故だろう。
その戦場では凡そ生身とは思えぬ男は、酷く安らぐ温かみを持つのだ。
名ではなく与えられた家の名を呼ばれ戦場で敵として見える時、若しくは元親かこの男かが命を落とすかも知れぬのに。
そうでなくとも何処か別の戦場で、名だけを知る武将にどちらかが討ち取られてしまうかもしれないというのに。
感傷や余計な感情に繋がる関係性は切るべきだと理解していても、生温いこの僅かの時間に生まれる感覚に元親は酷く、安心するのだ。
まだ、自分も、彼も、人間であると手に取るようであるから。



>>瀬戸内。……なんか思ったんだが色々なジャンルで色々かぶる傾向があるな(笑
   なんか久しぶりにちょっとだけ長い。
   瀬戸内はこんな雰囲気が好きなんだぜ、といいたい。

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そんなところです。

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