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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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片時も外さなかったロザリオが、不意に変な方向へと引っ張られた。訝しげに眉を顰めてメロが振り向く。
遠い日に誰かが言った言葉を思い出そうとして浚われる記憶と似た感覚に眉間の皺を深めた。
終ぞ今まで着替えるときにさえ引っかけたことのないロザリオが上着のタグを噛んでいる。溜息を吐いて器用に両腕を上着から引き抜き、ロザリオを回して引っかかったタグを正面で丁寧に外した。
それは何か、予感めいたものさえ表していたのに。
振り払う。振り払う。
全て温かなものは置いてきた。命を容易く奪った瞬間に捨てたものは一体何だったのか。
忘れてしまえるほど頭が悪ければ良かったのにと淡々と思うのだ。
目の前に立ち憚る者を容赦なく切り捨てることが出来るのに、心だけはいつも何処かに置き忘れている。そんな感覚がある。
割り切った冷静な理性と断ち切れない感情の合間でメロはいつも何処か懐かしい場所を思い出すのだ。
陽の良く当たる中庭で遊び回ったときの風の匂いや、きらきらと落ちる木漏れ日。
Lの後継者としての育成施設であるから決して他の養育施設のような生温い生活を送ってきたわけではない。
しかしあの場所は振り返ればまるで遠く懐かしい、一つ言うなれば故郷のような場所なのだと思う。
勝手に出て闇の世界に身を置いた。覚悟はあった。今までと一変して手を汚す覚悟を持った上で、もう戻れない覚悟で身を置いたのに、振り返れば色褪せることなくその場所はまざまざと脳裏に描かれるのだ。
『…メロ、どうかしたのか?』
通信越しの耳慣れた声が思考に入り込んでメロは小さく自嘲する。
いいやなんでもない、と返そうとしてふと思い留まった。
『メロ?』
訝しげな声が通信機越しに名を呼ぶ。もう一度どうしたと問われて今度は「なんでもない」と答える算段で口を開いた。
しかし滑り落ちた言葉は意に反した。
「お前、俺についてきて後悔してないか?」
信じられないくらいに落ち着いた声音は淡々としていて、まるであの場所で競っていた相手を思わせる。
何処までも全ての色を排他した小さな存在。それは数年を経た今も変わらない
堆く積まれたモニターに囲まれ、背を向けたまま対峙した彼の外見的特徴は実年齢よりも幼く、しかし振り返った際に見せた表情だけは過ぎた年月分大人びていた。
通信越しに小さく堪えきれない笑い声が漏れる。
「おい」
『いや、らしくないって思ってさ…』
咎めれば、悪いと言いながら尚も通信機の向こうの笑いは止まらない。
小さく舌打ち一つ落としたメロに気付いてか、ただタイミングが良かったか、相手の笑い声が止んだ。
『…メロ、気にするな』
何もかも見抜いた言葉に今度はメロが笑うしかない。
それは例えば幼少の頃の遊びで誤って軽い怪我を負った時のような気安さであって、妙に真摯なのだ。
「マット」
『心配は無用。…メロは』
知らず胸元に落ちたロザリオを片手で弄いながら相手の言葉を待つ。
一度息継ぎに設けられた沈黙は奇妙に歪み、表し得ない結末を予め知っているかのようだ。
『自分の信じるようにやんな』
目を閉じれば思い出せる陽の当たる場所で笑ってふざけ合った時の様に言いながら矢張り言葉に重みは伴う。
何も言わぬだけ。予感がある。もう本当に戻れない予感。
「…ありがとう、マット」
『ばっか。それがらしくないって』
珍しく素直に出たメロの言葉に幼馴染に似た関係の相手が笑う。
心底嬉しそうに笑って「良いんだって」と呟いたのを、通信越しでもメロは聞き逃さなかった。
全てを予見した上で、それでも助けになると言った友の存在は歪に捩られていく世界の中で一つも形を変えていなかった。
酷くそのことが救いで切ないと笑う。肩を揺すって、ともすれば泣きそうになるのを堪えるように笑う。
「そうだったな」
『そうそう。メロはいつでも、強引で激情型で…いっつも俺は引っ掻き回されてばっか』
「引き篭もりがちのお前にとってはそれくらいで丁度良かっただろう」
会話は過去を振り返る。
辛いことが無かったとは言わないが温かい場所に。
『よく言うよ。……まぁ、でも』
メロも通信越しのマットも戻れないその場所に。
『そうなのかもなぁ』
肯定する言葉に今度はメロが「らしくない」と返してやった。一瞬の間の後に同時に二人で笑う。
昔に戻ったように屈託も無く笑う。
『メロ、』
「……何だ?」
『出来れば……、俺は』
一頻り笑った後に少しだけトーンを落とした声は耳元で願いのように聞こえた。
続く言葉をメロは容易く想像出来て振り払うように首を振る。今更遅い。
違えてしまった道、自身の選択で奪った命は戻ることが無いように、どうあってもマットが続けようとしてる言葉は現実には叶わない。
しかし選んだ道の先、現状故に繋がねばならぬものがある。
「マット、それは無理だ。けど」
『ああ、分かってるよ。……意地っ張りのお前にしたら凄い進歩だよ』
「巻き込んで済まないな」
『前からだろ。好い加減慣れてるよ。だから謝らなくて良い。俺が勝手に納得したことだ』
それじゃ、また後で。
締めくくりの言葉に、メロはそれが叶うならばと心の中だけで返した。ぷつり途絶えた通信と一度脱いだ上着に袖を通す。
今度はロザリオは引っ掛からなかった。阻む事は無理だというように。
細く何か過去が名残惜しく引き止めたようなか細い抵抗はなかった。
「…行き着く場所は同じ、だ。お前は」
思い出したのはいつも一歩前を歩いていた、その色を排した少年のまま時が止まったかのような、存在。
今も昔も暈けることなく結ばれる像。
競い合ったからこそ、手を取れずとも繋げられるものもあるだろう。きっとメロとそれはそんな関係性なのだ。
胸元で揺れたロザリオを一度握りしめてメロが呟く。

「生きろ」

最早、幼い頃のように見えぬ神に祈る愚行は冒さない。
神など要る筈のない世界で、嫌というほど理解した上で、しかし言葉は一つの形に良く似ていた。
純粋すぎる祈りだった。


>>MMネタ。でも微妙にMMN(笑
   こっそり反応遅すぎて今更?と思われそうだけどリライト2の影響ネタ。
   メロもマットも良い子だよ…

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そんなところです。

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