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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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凝った闇があるのだ。
其処に何が在るのかを知るなど無粋過ぎる。だからこそ静寂を好み、規則的に呼吸をする音に併せる足音を愛しく思ったのだ。するりと音もなく襖は開き、闇夜の微かな明かりに過剰に光の残滓を残す髪の手触りを思い出し、掌に視線を落とした。
この手は確かにその感覚を知っている。
疎ましい、と思ったこともあるのに今は思いもしないのだ。一体どんな心境の変化なのかと訊かれれば自分でも分からぬ、と毛利元就は答えるだろう。
風のように実体がなく何処までも自由なようで居て、触れようと手を伸ばせば確かに其処にある存在を表現しようとも如何ともし難い。
大切だと思った人たちは全て手をすり抜けて遠くに逝ってしまった。だからこそ手を伸ばすことさえしなくなった元就の、其の手を取って空も海も、何処までも続く蒼の世界に手を翳すことが怖ろしくはないのだと、いとも容易く教えた存在は非道く鬱陶しく、また非道く眩しかった。
崇拝する日輪と同じような曇りのない目映さを持つ存在は、時に静かで逆に怖いとも思ったのだ。
日輪のように眩しく、そして海のように広くおおらかで、それでいて時に嵐の海のような。
嗚呼、そう。喩えずとも海と似ている。

「よう」

掠れた低い声が短い挨拶をする。
視線を上げれば海の色そのものが元就の姿を映し出していた。暗闇にあっても尚、鮮やかな、蒼。
知らずついと手を伸ばせば、口角を少し上げて西海の鬼と畏れられる男は笑った。そして元就の指先を取って恭しく口付ける。ただ押し当てられただけの暖かさに元就が反応しきれないで居るともう一度と口付けてきた鬼が徐に元就の腕を引いた。
為すがまま、鬼の腕の中に収まった元就が小さく頭を振る。
その髪にも口付けて一度強く抱き締めると、僅かに身動いだ元就を慮ってか腕の力を緩めた。

「…来るときくらい連絡を寄越さぬか」
「分かるだろ?」
「………分からぬ」

感覚が狂うのだ、と小さく付け足して元就は押し黙る。沈黙を是とも非とも取らず曖昧に「そうか」とだけ呟いて元就の髪を飽きずに手で梳き始めた手つきは優しく、人に触られることを極力厭う元就であったが抵抗の素振りも見せず享受した。
穏やかで曖昧に全てが幾重にも薄い膜を重ねたように暈ける時間は、元就の知謀の元である思考力を奪う。
毛利の家を守る為だけに動く其れを、緩やかに停止させてしまうような存在は目の前の鬼以外にはない。

「なぁ。元就」

名を呼んだ掠れた声に顔を上げれば顎を掴まれて些か強引とも言える接吻が施される。
反射的に目を瞑った元就の、その睫の縁をなぞるように優しく触れる温度は温かすぎて。
喪うのが怖いのだ、と身を引いた嘗ての元就を掴み寄せた手と同じであった。
だからこそ触れた暖かさに、満たされるのと同時に、過去幾度と繰り返した喪失の痛みに心の底で怯える自分を見つけて元就は自嘲する。


触れて満たされるのには、あとほんの少し喪っても尚残るものへの確信が足りない。




>>きっとその確信でさえ、優しく当たり前のようにくれる人。

   喪ってばかり過ぎて、それが怖くて、それが嫌で、あんな風に元就はなったのなら
   元親の存在はきっと、こんな感じな気がする。

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