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ねぇ、ねぇ、景ちゃん。
至極嬉しそうにそう呼ばわる一応奥方に隆景は碌でも無さそう、と思いながらも向き合った。
「どうかしたの? 冬さん」
うんうん、とにこにこと笑う人物はどこからどう見ても性別的に男である。
奥方とは本来女性を指す言葉であるのだから、致命的なずれでもあるのだが隆景も家臣達も全くと言っていいほど気にはしていなかった。
夫婦とは子を成すことも目的と入れるなら、この二人はその目的を成す可能性としての第一条件は持ち合わせていた。
奥方が男性であるにも関わらず、その条件を満たすことが出来るというのなら。
結果として旦那でもある隆景が女性であればいいことである。
「あのね、景ちゃん。ラブポーションって知ってる?」
「……らぶ…、何?」
両手を前に合わせて、上機嫌のままの奥方に聞き慣れない言葉を反芻した隆景は首を傾げた。
らぶ、とかいう言葉は前に胡散臭い南蛮人から聞いたような気がする。
確か意味合いは”愛”だっと記憶しているが定かではない。
その後の言葉に至っては全く聞いたことがなかった。
銀糸と呼ぶに相応しい癖のあるふわりとした髪を揺らして、奥方が笑った。
「ああ…。そうかそうか。聞き慣れないよね」
「……南蛮語?」
「南蛮ってどこら辺を指すのかが僕には分からないからなぁ。これは英語というのだけれどね」
「……えいご?」
「いいよ。南蛮語で」
そこに重要性は無いのだと言いたげに両手に包まれていた小瓶を奥方は隆景に差し出した。
薄く桃色に色づいた瓶の中には液体が入っている。
受け取った小瓶を目線の高さまで持ち上げて隆景はしげしげと眺めた。
「…これが、その…らぶなんとかなの?」
「うん。ラブポーションね」
「……薬?」
「良い線いってるよ。景ちゃん」
「どうしたの、これ」
「貰ったの」
素直に答える奥方に曖昧に相槌を打って、隆景は小瓶をゆっくりと振った。
少しだけとろみのあるようにも思える液体が瓶の中で揺れる。
「……それで」
「うん?」
「どんな薬なの、これは」
予感的にはあんまり良い薬では無さそうだ。
笑顔の奥方は少しだけ首を傾げると「んー」と小さく唸った。
言い難い効用のものだとでもいうのだろうか。しかし隆景には薬の名前さえ聞き覚えのないものだ。ここは聞いておかねばなるまい。
「ほら、あるじゃない? よく…」
「何が?」
「ここにだってあると思うんだ」
「……だから、何が?」
「意地悪…」
そう言われても困る、と沈黙を貫けば観念したように奥方が一つ溜息を吐いた。
そして愛の毒とも言うのだ、と宣う。
「…愛の毒?」
「つまりは妙薬ってこと」
「………ああ」
「理解した?」
「つまりは媚薬ってことでしょ?」
「そんな身も蓋もない」
「でもそういうことでしょ?」
「まぁ、ね」
世間一般で言う惚れ薬や、強壮剤。そんなものの類だと、肩をすくめて肯定した奥方と、手に持ったままの小瓶を交互に眺めやりながら隆景は思案する。
「くだらない」
じっと様子を覗っていた奥方が驚くよりも早く小瓶を手にしたまま隆景は立ち上がった。
そしてそのまま障子を開け放つと城をぐるりと巡る堀目掛けて小瓶を放り投げる。
あ、と奥方の声が背中から聞こえる。
くるりと振り返れば立ち上がっていた奥方と目があった。小柄な隆景よりも大きい背丈とその割りには細い印象を受ける体躯。
綺麗に弧を描いて目標を違えることなく堀に吸い込まれていった小瓶の、哀れな末路とも言えるぽちゃりという水音が聞こえた。
「景ちゃん」
「要らないじゃない」
何かを言おうとした奥方にさらりと隆景が言う。
「…うん?」
「僕たちには必要ないでしょ、そういったものは」
「……うん」
にこりと笑った隆景に、奥方はそれ以上の言葉は言えなかった。
愛の毒を食らったか、というのなれば既にもう食らったと目の前の…小柄な少年のような女性はいうのだろう。
男として育てられて来た彼女はいつだってそう言う意味で潔い。
「そうだった。僕もだからこそ、此処に居るんだったからね」
まだ人間にもなれていない存在を。
受け入れて尚、引き留めた其の手を。その言葉を、知ってしまったときから奥方と呼ばれる彼もまた毒を食らったに等しい。
やんわりとゆっくりと依存性も高く、或いは致死性まで持つ、その毒を。
>>最早オリジナルに近いが、全く版権じゃ無いとも言い切れないので
出来てしまった分類不可。
冬さんと呼ばれているのは奥方である彼が冬を冠する名であるからです。
冬さん、景ちゃん、と呼び合う仲の妙な夫婦。
たぶんこれ以上はないと思う突発的。
これの元出が分かるむつきさんにひっそりと捧げます。
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サイトにあげる文章の草稿や、ただのメモ等もあがります。大体が修正されてサイトにin(笑
そんなところです。
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