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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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半透明の物体が空間の合間、不自然に浮かび上がって漂う。一定の間隔で上下に移動する様は意志など関係なく矢張り漂っているという表現が相応しいだろう。
円柱形に設えられた分厚い硝子の中、囲われたそれらに自由などはない。
尤も自由などと言う概論を持ち合わせては居ないのだろうから、窮屈で不自由で可哀想だと思うことさえ的外れだと思えた。
暗色の蒼は室内全体を染め上げ海の底に居るような錯覚を引き起こさせる。
天井の高い室内の上へと視線を巡らせれば、確かに光が差し入り設置された水槽の水面を照らすのだろう、波を光に変え文様を床に描いた。
酷く現実から隔絶された幻想的とも言える室内。
だというのに平然と室内を眺め回した青年は溜息一つで、「詰まらん」と言って寄越した。

「……おいおい。毛利、そりゃないぜ」

大袈裟に肩を落とす仕草で項垂れた元親の、色素が抜けきった髪を青が彩っていく。
今は青銀に輝く少し癖のある髪を見詰めながら青年は溜息を吐いた。

「……詰まらんから詰まらんと言った。其れの何が悪い」
「いや…悪くはねぇ…。けどよぉ…」
「窮屈だ」
「…へ?」
「……此処は、余りにも窮屈だと言ったんだ」

ぽつり。
水音のする室内に静かな声が溶けきらずに浮いた。
まるで水槽の中を所在なげに漂う海月のようではないかと、人工的に青い世界の中で元親は思った。
暫しの沈黙の後。
「らしくないことを言った」と自身に言い聞かせるような口調でゆるゆると頭を振った青年が、ふと何かに目を留め首を傾げる。それが普段の彼からは想像の付かない幼さを残したものだったからか、元親の目は釘付けになった。

「………毛利?」

水槽を眺めながら瞬きも少なく動かない青年に声を掛ければ、不意に平常の冷たさを含んだ口調ではない、声が耳を打つ。

「…そう思うことさえ莫迦なのだがな」

小さ過ぎた其れは気を付けなければ水の音にかき消されてしまうほどのものだった。
最後の言葉をそう締めくくって微かに笑った青年に元親が「んなこたぁねぇよ」と返す。
青年はじっと様子を覗うように元親を見ていたが、やがて眉間に寄せた皺を弛めて微かに笑ったようだった。
仄暗い室内では、良く見えない微笑は滅多にないことで見逃したわけでもないのに勿体無いと思う。
言葉に出して言えば目の前の彼のことだ。途端に機嫌を損ね、眉間に深い皺を刻むだろう。
相変わらず円柱形の水槽の中では海月が時間を忘れたかのように緩やかに漂っている。

 

「今度は、海に行こうぜ」

水槽に目を留めながら元親は至極自然にそう言った。
同じように水槽に視線を向けたまま、視線を合わせることなく青年が答える。

「……ああ」

窮屈、と言った。
自由のない空間の中では呼吸を忘れてしまいそうだ、と呟いた。
ならば本当の海に行けばいいのだろうと元親は青年の言葉の意味を汲み取った上で結論を弾き出す。
海は良い。何処までも自由で、何処までも残酷で、何処までも沈んでいける。
それは確かに恐怖を抱く対象にも成り得たけれど元親と青年にとっては懐かしさも含んでいた気がした。
海の環境の一部を切り取るように模した水槽の中は確かに窮屈で窒息してしまうような不思議な圧迫感がある。
全てを知った上で彼は詰まらないと結論づけた。
人より幾分もずれているのだろう感覚が、一種ずれているが故敏感で繊細で、気難しさと疎外感を与えるのだろう。自身の感性の一端を口に出すことを良しとしない青年が莫迦だと言って漏らした言葉は元親にとっては凄く心地良かった。
誰にでも漏らすことのない言葉だからこそ、そして言われればはっと気付くような感性だからこそ、不思議なことにもっと知りたいと思うのかも知れない。
隣で水槽を眺める青年は、元親の気持ちなど知るよしもなくただ浮遊する海月を眺めていた。
ふわりと漂う半透明のそれに何を思っているのかは窺いしれず、けれど決して悪い気のしない沈黙が続く。

「…毛利」
「なんだ?」

破った沈黙は同じくらいに静かな声で応酬される。
続く言葉を青年はどう捉えるだろう。怒るだろうか。照れるだろうか、それとも―。
半分楽しみに名前を呼ぶ気軽さで元親は言う。

 

「好きだ」



>>親就。現代。
   元親と元就で水族館……と思って出来たネタ。
   海月が出てくるのは私の趣味です。
   浮遊してる感じが非常に癒される反面、自由を感じないところがアンバランスで好きです。
   感性がずれているのは私の方かも知れないな……(いつものこと
   

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そんなところです。

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