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気付けば春は遠い。
秋の様相は薄れ冬の気配は色濃くなる。全ての生命が眠りにつく季節。
寒さは否応なしに自身が生きていることを自覚させてくれたし、凛と張り詰めた空気は嫌いではなかった。
けれど、こればかりはどうしようもないと元就は独りごちる。
する、と襖が音もなく開くので元就は気配の主を悟って、彼にしては穏やかな声音で名を呼んだ。
「隆元か」
「はい。父上」
「…して」
「隆景からの書状によりますれば、どうやらご無事のようです」
「ふん、しぶといものだな」
「ご安心なさったのでは?」
「……いや。ではまだ四国は切り取れぬ、と思うたまでのこと」
「ええ。長曾我部殿がご存命とあれば、同盟を破棄するのは先送りにした方が宜しいかと」
「分かっておる」
「はい」
父親によく似た顔立ちの隆元が苦笑を零す。
少しだけ眉を顰めて抗議の様相を示したが、結局元就は何も言わず差し出された書状を受け取った。
丁寧に書かれた書状には、先日行われた四国での戦について書かれてある。無言で一通り目を通すと視線を上げた元就はじっと父の様子を覗う隆元の視線とかち合う。
容姿をとれば瓜二つと言えるだろう二人の、しかし纏う雰囲気は異なっていた。
元就に言わせれば、容姿は自分のものであったとしても嫡男の性格や内面性は妻のそれによく似ている。
穏やかでありながら芯は強く、肝心なところで折れぬ頑固さも持ち合わせているあたりなどそうだ。
「何だ?」
「いえ。宜しかったですね」
「隆元、別に我は…」
にこりと笑んだ息子が言葉を続けようとする元就を制す。
そしてもう一つ、傍らに置いていた書状を手渡すともう一度笑んだ。
「別に宜しいのではないのかと思います」
「隆元?」
「あの方とおられる父上は、…楽しそうですから」
「何を…」
「父上の中にあった冷たいものを、溶かせるのはあの方以外にはないのでしょう」
「隆元」
「……お喋りが過ぎました。失礼致します」
するりと父の言及が掛かる前に隆元は部屋から音も無く辞する。とんと軽い音で閉まってしまった襖を見詰め、短く息を吐き出してから元就は今程渡された書状に目を落とした。
表書きは自らの三男の字に間違いは無い。
乾いた音を立てて開けば、はらりともう一枚の書が現れる。
それは元就のどの息子の字でも家臣のものでもなかった。
見かけと海賊のような部下に慕われているには存外繊細そうな字が並んでいる。
少しだけ震えているように見える筆跡に、そっと冷たい指先を這わせた。
「…、無事で良かった」
誰にとも無く、呟けば。
「そうでしょうとも」
と若干幼さを残す声が襖から帰って、元就は自分でも馬鹿と思えるくらいにびくりと体を震わせた。
襖向こうの相手は気配を読んだか小さく苦笑する。
「……無礼ぞ」
「申し訳ありませぬ。けれど、無理を聞いて届けた書状で父上に安心して頂けたのならば、多少の無茶も報われます」
淡々と答える言葉に淀みは無く、幽かに乾いた音を立て開いた襖には元就の三男。
未だ四国の動向を探るために動いていたはずだったが…、どうやら戻ってきたらしい。
「戻ってきていたのなら、隆元と一緒に来れば良かろうに」
「……早馬で戻って参りました故、今少し間に合いませんでした」
「帰ってきたばかりか」
「はい」
「何か変わったことが」
「お会いしたいと申しておりました。余りにもしつこいので」
「…………待て」
にこりと笑った隆景の言葉に制止をかけるも、気に留めた風も無く息子は告げる。
「直にお着きになります。それを伝えに参りました」
「…小早川の当主とあろう者が、伝達兵と同じ役割をするとは…」
「私の馬が一番早うございました。…だからのこと」
動じることなく告げた隆景が、矢張り先程長兄が言ってのけたように父に言うのだ。
「宜しかったですね」と。
意味が分からぬと不平を漏らせば苦笑が返り、少し悔しいですが喜ばしいことだと言う。
元就は用件だけを告げ下がった息子の姿を見送ってから、そっと立ち上がり溜息を吐いた。
本当は意味など理屈ではなく知っているのだ。
そんな父親の性質全てを見越して、息子達は笑って寄越した。
父親の頑な過ぎる冷たさに暖かさを取り戻させた、その存在に対しての気持ちを読んだ上で。
「…………分からぬ、な」
暫くすれば訪れるだろう騒がしい男を思い浮かべて、元就は眉間に皺を寄せる。
けれどそれは不快からではなかった。
>> 思えば、息子は元就よりも精神的に出来ているような気がするなの話(え
なんかよく伝え辛い感じの話です。あいた …!
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サイトにあげる文章の草稿や、ただのメモ等もあがります。大体が修正されてサイトにin(笑
そんなところです。
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